第152話 エヴァとルイ

文字数 3,018文字

吹き上がる血の飛沫を、鬼神の覇気で抑えつけ 右腕にさらに力を込め 尻尾を握る
“ルイ!あれを出してくれ!古龍様の首だ!!”
「ああ!わかった!!」
八岐大蛇から、酒呑童子へと託された思い描いた武器に変幻するという 槍を空間収納から取り出す 元々は、8頭のうちの1つの頭を食いちぎり酒呑童子に与えたものだが
八岐大蛇の頭は、すでに再生している
その槍を左手に握ると、大鎌へと変幻させ 右腕の尻尾を引き寄せると大鎌の刃を立て
刈り取る!
“わしの攻撃をことごとく弾きおって!こいつが厄介だったんだ!!”
中ほどで切断した尻尾を投げ捨てる ルイ

「おい!もう再生しているぞ!!」
“なにっ!?”
ルイの額をめがけて、尻尾の先で刺突を繰り出す ナーダ
かろうじて大盾に変幻させ弾くが、貫通した穴からナーダと目が合う
“古龍様の盾を貫通するか!!?? 再生速度といい、デタラメが過ぎるじゃろう!?”

気の遠くなるような、悠久の時を生き大蛇から、龍そして古龍へと昇華した 
八岐大蛇の武具を傷つける存在。。。
ルイである、酒呑童子の額を一筋の汗が伝い落ちる
“古龍様を傷つける事の出来る生き物が、この世にいると言うのか!?”
大盾を両肘、両膝までを包み込む、漆黒の手甲、足甲に変幻させ 
両拳を胸の前で“ガッシンッ!!”と打ち鳴らす

“ルイよ!鬼神の徒手空拳法を見せてやる 刮目せよ!!”
両足を大きく開き、左半身をナーダへ向け、突き出した拳から“めらめら”と鬼神の覇気が
燃えたぎる
“押して参る!!”
縮地術で一息に間合いを詰め、流れるような体捌きから鋭く重い拳が、速くしなやかな蹴りが
間断なくナーダへと襲い掛かる そのすべてを、異常なまでの尻尾の反応速度で弾き交わしていたが
さらに手数を増した鬼神の連撃に、この日初めて防御のために両手を使うことになる ナーダ

「ほうっ 貴様らの種族に近い身体で戦うのは、思いのほか気持ちの良いものだな
これほどまでに効率よく手足が動かせるというのは、狩猟に優れた設計ということなのだろうな? 
実に興味深い。。。」
数多の攻撃をすべて受け流していた ナーダが、ルイの見よう見真似で拳を突き出す
左の肘の手甲部分で、その拳を弾き その勢いのまま反転しながら裏拳を放つ
ナーダの鼻先をかすめ、纏っていた瘴気が霧散する

「実に楽しいぞ! これだけでも、この身体を手に入れた甲斐があったというものだな」
“化け物め!!わしの拳法の真髄を味わうがいい!!”
疾風怒濤!鬼神のそしてルイの本気の突きが!蹴りが! ナーダに襲い掛かる
それを四肢を尻尾を使い凌ぎ続ける ナーダ

結界に乗り、その攻防に魅入る エヴァ
おもわず「ほぅっ」とため息を漏らすほどの、ある種の美しさをはらんだ動き
鬼神と魔王との舞踏、神楽にも通じる失われた命に対する鎮魂呪術が繰り広げられる
「しかし、ルイの動きにナーダが対応してきたようですね。。。」

次第にルイの動きのわずかに先を読み始める ナーダ
拳が、蹴りがルイの体をかすめ始め、皮膚が裂け どす黒い血液が皮膚を伝う

“すまぬなルイ。。。どうやらわしの力では、この魔王には及ばぬようじゃ
古龍様に託すより、手がないかもしれんのう。。。”
ルイの反応を上回る速度で放たれる 右の正拳と尻尾による刺突
それを防いだ上腕の手甲が砕け 喉元に迫る鋭い尾の先に死を覚悟し目を見開く ルイ
瞬きの瞬間、直政の時間停止で動いたエヴァが、ナーダの尻尾を玉龍で払い上げ
鳩尾へと石突をめり込ませる たたらを踏んで後退るナーダを見る ルイ
「エヴァ。。。手を出すなといったのに。。。」

「ごめんなさいルイ あまりにも楽しそうだったので。。。つい」

「その鬼神との戦いは、なかなかに意義のあるものだったが、これ以上は得るものは無さそうだな 
そろそろ終わりにしよう」
この世界で最高の部類に入る酒呑童子の体術を、一度拳を交えただけで凌駕してしまった
冷めた目でルイを見る ナーダ

「エヴァ すまない、奴が強くなったのは、俺がネボアを殺ったのが原因なのか?」

「いえ 遅かれ早かれ、同じ結果になったでしょうから 気にする必要はありません
それよりもナーダを、どう抑えるのかが問題ですね」

「ああ ネボアを封印したように 結界に閉じ込める事は出来ないのか?」

「ナーダは大きすぎますし、腐食魔法を使われたら、すぐに壊されますね」

「そうか。。。痛めつけて葬るよりないか。。。」

手甲を解除し、十字槍に変幻させると大気を蹴り 十字槍を大きく振りかぶりながら
縮地術で距離を詰め、ナーダの脳天へと振り下ろす 
槍を持つ手に力を込めた瞬間、目の前からかき消え、ルイの背後に現れると強烈な衝撃が
背中に伝わり、地上へと叩き落される
「ルイ!!!」エヴァが叫ぶ

山の斜面に叩きつけられ転がるルイに、瞬間移動で現れたナーダが腹を蹴り上げると
弧を描いて空中へと吹き飛ばされる ルイ
その進行方向に瞬間移動で再び現れると、握りしめた両拳をルイの頭部に叩きつける
「ルイ!!!!」
地面に叩きつけられ、陥没した地面に大の字で横たわるルイに急降下で助けに向かう
エヴァ

直政の時間停止を駆使しても、ナーダの瞬間移動に遅れを取り続け
横たわるルイの頭を踏みつけているナーダと地上で対峙する エヴァ
ルイの鬼化した、口から鼻から耳から、どくどくっと血が流れ続けている

「その足をどけなさい!!」

「んっ!?この足の事か?」
さらに強く踏みつけ、ルイの頭が地面にめり込む

「やめなさいぃぃぃ!!??」
風魔法を羽衣に九尾に纏わせ、玉龍を横に構えながら ナーダへと突き進む
ナーダが右手を突き出したところで、時が止まる
0,7秒間 胴を横薙に払い、喉元を突き、突き出した右手を叩き伏せ ルイを抱え後退する エヴァ
ナーダの抉れた喉元が、瞬時に塞がっていく
「なるほど、その能力の正体は、時間に干渉できる能力か? 
この斬撃とそこまでの移動から考えて、1秒にも満たぬ時間といったところか?
我を一撃で葬る力がお前にあれば、驚異だったかもしれぬな あの小僧の能力に便乗しているのではないか? 念のためにあの子供から片付けておくか!」

ルイに回復魔法をかけながら、直政の位置を気配探知で探る
ここから約200mの距離、ルイを連れて直政を守るのは、至難を極める
「エヴァ。。。俺はいいから、直政を守るんだ エヴァと直政が俺達の唯一の希望だからな 直政を頼んだぞ!」

「ルイ、貴方を置いてはいけません ナーダを直政君の所に行かせなければいいのです! 立てますか?自分の身を守ることだけを考えて下さい」
「ああ まだ戦えるさ!」
回復魔法により、目に見えていた傷が治癒されたルイが立ち上がり 十字槍を地面に突き立てる 印を結び
酒呑童子の法力【金剛】により肉体硬化の効果を得る

「行きます!!」
結界を自分の周りに浮遊させながら、風刃を放ち続ける
竜鱗を無数に飛ばし、風刃をことごとく撃ち落としていく ナーダ
右腕を高く上げると、空気が渦を巻き巨大な三日月状の風刃がナーダの手のひらに現れる
右腕を振り下ろし、エヴァに向かい飛来する 風刃を結界で受け止めるが、3つの結界を破壊され
玉龍を叩きつけ なんとか風刃を防ぐ
「なんて威力の風刃なの!?」
次々と襲い掛かる 風刃に無数の結界を放り投げ ルイに届かせぬように撃ち落とすが
エヴァの足元をうなりを上げながら 飛び去る風刃 
咄嗟に振り向いたエヴァの目に 両足を切断され、ナーダに頭を掴まれた ルイが映る



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