第153話 八岐大蛇顕現

文字数 2,993文字

左手でルイの頭部を掴み吊し上げ、太腿で切断された両足が地面にばたりっと倒れる
右腕を上空に向け、直政のいる方向に雷撃を放つ ナーダ
太腿の切断面からどくどくっと血が滴り落ち 手にしていた十字槍が地面に落ちる
「その手を離しなさいぃぃぃぃ!!!!」

「エヴァ。。。直政を頼む。。。」

「注文の多い女だな!? まあ良い離すぞ」

直政が、迫りくる雷撃を交わすために時が止まる
すでに地面を蹴っていたエヴァが、玉龍の切っ先をナーダの左目に向け突きを放つ!
硬い膜で覆われたナーダの眼球をえぐり、脳まで達した手応えに玉龍に捻りを加え
どのような生物であろうとも致命傷となるとどめを刺す

“時が動き出す”

顔面に突き刺さった玉龍を右手で握りしめ、ルイを掴んだまま平然と笑う ナーダが
エヴァの腹を蹴り上げる、咄嗟に腹を庇ったエヴァが玉龍を手放し、衝撃を殺すように後ろへと飛び
斜面を滑り落ちながらルイを見る
鬼神の覇気で、抗っていたが妖力も底をつき ナーダの瘴気で頭部から霧散していくルイ 

「ルイィィィィィ!!!!!八岐大蛇よ!!!!私の元に!!!!」

喉が裂けんばかりの、エヴァの慟哭 腹を押さえながら、うずくまり絶叫する
その身体に淡い金色の光の粒が降り注ぎ いつの間にか背中に結わえられた
正真正銘の神の手で作られた神剣 “草薙剣” そしてそれに宿る 八岐大蛇

«女よ 我を呼ぶのが遅すぎるぞ!»
エヴァの頭に直接、八岐大蛇の低く重い声が響く
それを無視して、なおもうずくまり声にならない声を、叫びにならない叫びを
稲葉山の麓、入り組んだ山脈の谷間にまで木霊させる エヴァの慟哭
「ごめんなさい。。。ごめんなさい。。。ごめんなさい。。。なんの罪も無い貴女の命を奪ってしまうかもしれません。。。」
腹に手をあて、独り言を繰り返す

«女よ いい加減に覚悟を決めよ!! お前が我を手に取らねば、どの道この国は滅びるのだぞ!!??»
「私は、戦いたくなどありませんでした! このお腹の子供と旦那様と3人で静かに生きていけたならどれほど幸せだったか!!」

«何を申しておる!! 我を呼び覚ましたのは、他でもない汝ではないのか!!??»
「。。。。。わかっています! 古の大蛇よ、私に力を貸して下さい!!」
立ち上がり溢れる涙を拭うと、背中の神剣に手を掛ける
大地の地精がエヴァに集まってくる、金色の光に包まれ、背後には金色の粒が集まり
八頭八尾、八岐大蛇の姿が顕現する

その様子を興味深そうに眺めていたナーダが、全身の竜鱗を剥がし飛ばしてくる
身体から剥がし飛ばした瞬間には、すでに再生しており 数千枚の竜鱗が乱れ飛ぶ
そのすべてを“古龍の覇気” 一つで地上へと叩き落とすと、草薙剣を両手で握り 祈りを捧げるように顔前に構える
「何が起きたのは知らぬが、その尋常でない魔力を今まで隠し持っていたのか?」

「貴方に言う必要はありません!」

「まぁいい 約束通り、ルイという男を離したのだがな 砂のように崩れ落ちてしまったようだな もう一つの約束は、隠れている子供を先に片付ける事だったな」
不気味な笑みを浮かべるとエヴァの眼前から瞬間移動で忽然と消える ナーダ

窪地に身を隠していた 井伊直政の前に現れ右腕を突き出す
驚きに目を見開く 直政 しかし時間停止を使うことなく、その見開かれた目は
ナーダの背後を見ていた 絶対の信頼をおいたものを見る目であった

突き出した右腕の肘から先が“どさりっ”と落ちる
驚きに目を見開き、振り返った ナーダの首に横一文字に閃光が走る
ずれ落ちそうな頭を、残った左手で支え 楽しそうに“にやりっ”と笑う 
「不死身なのですか?」
切断された右腕も瘴気が集まり、すでに再生されている
«女よ やはりこいつは、挽き肉のようにすり潰してやらねば死なんようじゃな!»


新岐阜城 大食堂
壁面の映像に固唾を飲んで見守る 人々
「あの天女殿が持っている 古びた剣は、一体何なのだ!?」

「お館様、天女様の背後に浮かんでいる 金色の影。。。八頭八尾の八岐大蛇から察しますに、草薙剣。。。では?」

「幸隆!!なぜ?天皇家の三種の神器の一つを天女殿が持っているのじゃ!?」

「何度か帝と天女様が内密な話をしていたようですが、おそらくはこの件だったのではないでしょうか?」

「正真正銘の神剣ということか! 魔を切るには、これ以上に適した剣はないという事だな」
声をひそめて話す 武田信玄と真田幸隆の元に上杉謙信が近づく

「この壁の絵は、真に今この上空で起こっていることが映し出されているのか?」
上杉謙信が壁面の映像を指差す

「そうじゃ 今現在、現実に起こっている事じゃ! 夢の精霊と言う者の力で、見せてもらえているそうじゃ」

「にわかには信じ難いが、お主らの孫や子供達、時を超えし者らが何人も死んだと言うのに、なぜそのように落ち着いていられるのだ?」

「上杉殿 実は、即死回避と言う術で1度だけ死に戻りが出来るそうなのです 時間はかかるようですが、間もなく全員が戻って参ります」

「今 目にしている天女殿の戦いもだが、聞くもの見るものすべてが、信じられぬ物ばかりだな ところで、尊天の加護を授かりに行ったという 本多忠勝はいつ戻るのだ?」

「私達も天女様と出会って以来、信じられない物を見続けて参りましたので 少々の事では驚かなくなりましたが。。。これほどに苦戦する彼らを初めて見ました
それと本多忠勝殿は、生半可な事では、授かることの出来ない加護だと聞いています
待つよりないかと。。。」


魔王殿から通じる天界

[本多忠勝よ 生まれ変わった その身体にも慣れたてきたようだな]

「慣れるもなにも、いい加減にこの棺桶から出してくれ!!」

[棺桶ではない お前の細胞を安定させるための羊水で満たされた言ってみれば神の子宮内だな それが無ければ、たちまちの内にお前の肉体は崩壊していたのだぞ] 

「それは、有り難い物なのだろうが 俺がここに来てからどれほどの時が過ぎたのかが、まるでわからない。。。一度帰りたいのだが。。。」

[お前は、尊天の加護を受けた者としての、自覚が足りないように思えるのう? お前はもう人間ではないのだぞ、人の身で有りながら3柱もの神々の力を行使できる者だという自覚がな]

「自覚ならある この力は、人間の営みを脅かす者を排除するために使うのだという事もわかっている」

[時は満ちておる 出ても良いぞ]

「えっ?いいのか?」
“にゅるりっ”と巨大な肉芽から吐き出される 全裸の本多忠勝 全身に付着した粘液を拭いながら
自分の身体を見下ろす

「特に変わったように感じられぬのだが。。。?
なにか着るものを頼む、これでは帰れぬ」

[やはりお前には、尊天の加護を授かった者としての自覚が足りんようだな そもそも帰りたいからと言って容易く帰れる場所ではないのだぞ 現世でお前を必要とする者たちの祈りが、お前を現世へと戻すことが出来るのだからな]

「それって。。。みんなが、俺が死んでいると思っていたら、帰れないのでは無いのか?」

[そうなったら永久にここに居ればよい その程度の存在だったということだ、歳もとらんし、腹も減らんぞ]

「愛する妻の元へ帰らねばならないんだ」

[まあ じきに呼ばれるじゃろう、それまで尊天の心得についてみっちりと教えこんでやろう]

「じきって。。。一体いつなんだ?」
不貞腐れて座り込む 忠勝に山伏の装束が与えられる


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