第84話 婚約

文字数 2,994文字

「貴方なら、そう言ってくれると思っていましたが。。。
マリアルバ王国の3組目のSランク冒険者になる為には、王国最大のダンジョンである
サランドル·ダンジョンを踏破するのが、もっとも近道でした
ダンジョンというのは、ダンジョン核という生命体が、途轍もない長い年月をかけて
周囲の環境を侵食していき巨大な魔物たちの住処を形成した物です
その中で、ダンジョン核を守るための魔獣を生み出していくのです
ですから、核の優劣により住処の大きさも魔物の強さも様々ですが
サランドル·ダンジョンは、地表から地下へ地下へと伸びていき、50階層からなる 
王国でも最大で最強の魔物が跋扈するダンジョンとなったのです」

「そのダンジョン核という物を破壊すると、魔物も出てこなくなるというわけですか?」

「そうなのですが、ダンジョンから得られる恩恵というのが莫大なものなのです 
魔物を倒すことで得られる、冒険者の経験値や倒した魔物から採れる魔石
ダンジョン内で採掘出来る鉱物や魔力を帯びたアイテムなど、まさに宝の山なのです
ですから、最下層で核を守るボスモンスターを倒しても、通常は核を破壊しません」

「と言うことは、経験値や魔石を目当てに冒険者が集まって来るというわけですね?」

「そうですね、良質なダンジョンがある周囲には、自然と街が形成され 
サランドル·ダンジョンなどは、大きな都市となっています
そんなサランドル·ダンジョンを私達は、3週間をかけて最下層である50階まで辿り着きました 
ベヒーモスのいるボス部屋の扉を開け 数時間に及ぶ死闘を繰り広げます
想定していたよりも、ベヒーモスは強く 撤退もできない私達は、ブルートの完成していない転移魔法でボス部屋から転移して逃げる事を選択するのです
転移魔法は発動するのですが、ボス部屋の濃厚すぎる魔力の影響か、時空までも超えてしまい 
昨年の三方ヶ原へと私とルイが転移させられ 瀕死のアランはブルートと共に琵琶湖の湖畔へ
最悪な事にベヒーモスまでも巻き込んで転移させられたわけです
そこからは、忠勝殿も知っての通りです」

「そのベヒーモスと言うのが、火竜と言う事ですか。。。」

「そうですね、転移魔法など使わずに、あのままダンジョンで果てていれば、この世界に
これほどのベヒーモスによる犠牲者も出さなかったでしょう」

「しかし火竜を巻き込んだ事は、事故ですし 転移魔法が無ければ、天女様と出会うことも無かったのですから。。。天女様の命を救ってくださったブルート殿には、感謝しかありません」

「貴方は、呆れる程に前向きなのですね。。。知っていましたが。。。
そういう訳ですから 私達は、命に変えても火竜とその子供たちを討たなければならないのです」

「はい 共に討ち果たしましょう!!」

「忠勝殿。。。ちゃんと聞いていましたか? 私達が火竜をこの世界に連れてきたうえに
私は、純粋な人間では無いのですよ!?」

「すべて聞いておりました、話して下さり、ありがとうございます なんの問題がありましょう 
事故により連れて来てしまった火竜は、我々の手で討ちましょう
他種族の血が混じっていると言われましても、天女様は天女様です 
しかも長命な種族となれば、これほど喜ばしい事はありません」

「えっと。。。世継ぎも出来にくいのですが。。。」ぽっと頬を染める エヴァ

「頑張ります。。。夢でお告げがありました! きっと女の子を授かります!」

「天女様! 拙者と夫婦の契を結んで頂けますか?」
ワナワナと震える唇で、何度も頭の中で夢想した一番言いたかった台詞を言葉にする

「はい ですが、この国の側室という制度は、認められませんが。。。」

「もちろんです!! そのような者は、必要ありません!!」
エヴァに背を向け、滂沱に咽ぶ 本多忠勝

「もしも浮気などされたら 私は、何をするか、解りませんが?」

「ふぁい、そのような事を、する筈もありましぇん」
色々と堪え過ぎて、呂律まで怪しい 忠勝

「決して戦いで死なないで下さいね」

「拙者は、死にません!」

毘沙門堂、洞窟の入り口脇にある石に2人で並んで腰を掛ける 本多忠勝とエヴァ
特に言葉を交わさずとも、言い知れぬ安らぎが2人を包む
他人とここまで気を許し合うという事が、これほどまでに満ち足りた気持ちになるという事に
生まれて初めて気付く2人 

「謙信殿が起きたときの為に、何処かで握り飯でも調達してこようと思います
しばらく、お一人でも大丈夫でしょうか?」

「そういえば、お腹が空きましたね。。。越後は日の本一の米どころと聞きました
少し多めに手に入るといいですね 楽しみにしています」

「是が非でも手に入れて参ります」
一足飛びに崖を登ると、声を押し殺し、両手を広げ全身で喜びを爆発させる 本多忠勝


水平線にゆっくりと沈んでいく太陽が夫婦岩と重なる 不意に目頭が熱くなる エヴァ
―『なんだか、目に入るものまでが、今までと違って見えるのですが、どういった現象なのでしょう? 
忠勝殿との未来を想像するだけで、死にたくないと思う自分が居るのは、臆病になっているという事なのでしょうか!?
人を愛するというのは。。。なんとも摩訶不思議な気持ちになるものなのですね』―


下鴨神社 境内
「「父上!母上!ただいま戻りました!!」」
天武の到着を待ちわび、迎えに出ていた浅井長政とお市の方の胸に飛び込んでいく
満腹丸と茶々 

「よう戻ったな、2人とも少し大きくなったのではないか?」
2人の頭に手をやる 浅井長政

「どうして 母上のお腹は、そんなに大きくなっているのですか?」

「馬鹿だな茶々、もうすぐ僕達の弟か妹が生まれるんじゃないか 母上、触ってもよろしいですか?」

「もちろんですよ 2人ともこっちにいらっしゃい」

「お祖父様、ご無沙汰しております お役目と聞き、参上いたしました」
真田幸村が、祖父·幸隆の前で、片膝を付き頭を垂れる

「ふむ 幸村久しぶりであるな 此度のお役目は、将軍·武田信玄公を守る事だ
天女様より、お主らなら大丈夫だと太鼓判を頂いておる 精進するが良い。。。
随分頑張っていたようじゃな どれ顔を見せてくれ」
両膝を付き、幸村を抱き寄せる 祖父·幸隆

「「お祖父様、お久しぶりでございます!」」
武田信勝と北条氏直が揃って、祖父·武田信玄に平伏する

「うむ 2人とも息災そうで何よりじゃ もっと近うよれ」

「お祖父様も、お元気そうで、誠に嬉しく思います」

「うむ 2人共に精進していると聞いておる 氏直は親元を遠く離れ、寂しい思いなどしておらぬか?」

「はい 天女様をはじめ皆さんに親切にして頂いております」

「うむ 皆と仲良くやっておるか、信勝と氏直 お主らは、将来の武田、北条を背負って立たねばならん 今より親交を深めるのは、実に喜ばしいことだな 各々自覚を持って励むが良い」

「アラン殿、ブルート殿 天女様より預かっている品が御座います」
そう言い、葵生殿へと2人を誘う 真田幸隆  大きな包みを解き 火竜の尾を2人に見せる

「これは。。。ベヒーモスの尾か!? エヴァはいったい何をしていたんだ!?」
ブルートが目を剥き、幸隆に問いかける

「聞かれておりませぬか? 鬼神·大嶽丸と火竜との戦いで、大嶽丸を救い出す為に
駆け付け、尾を切り落としたそうです」

「聞いていないが。。。しかし、これがあれば強力な防具が作れるな アラン」

「うん。。。うん。。。」激しく頷く アラン


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