第38話 ベヒーモスの爪痕

文字数 3,227文字

「臆するな!! 距離を取り 弓を持つものは、一斉に射掛けよ!!」武田信玄の怒声が飛ぶ

「盾隊、お館様を守りつつ後退じゃ!!わしが殿(しんがり)を務める安心せい!!」
馬場信春が槍を構えながらベヒーモスと対峙し、じりじりと後退していく

囲まれている事を嫌ったベヒーモスが土牢の欠片を 長く強靭な尾で自分の周囲に群がる者たちに向け
弾き飛ばしていく 高速で飛翔する欠片を 次々と払い落としていく風魔党の面々

一際大きな欠片を 強化された槍と筋力で弾き返す 馬場信春

「がっはっはっはっは まだまだわしでも、お館様一人くらい守れるんじゃ!!」

残った土柱の上に立ち 体内の気を巡らす 本多忠勝の双眸がカッ!と見開かれ 
火炎を吐こうと首を捻るベヒーモスのこめかみに向け[蜻蛉切り]を突き出す ドガッ!!
ガクンッ!とベヒーモスの首から上が仰け反り中空に向け撃ち出される火球 
その隙きを逃すまいと風魔小太郎をはじめ風魔党の面々がベヒーモスを捕らえようと鎖鎌を放ち 
四肢に絡みつかせる
その拘束を煩わしそうに体を捻り、空中へと逃れるために翼をはためかせようとする
ベヒーモスにエヴァの唱える【重力魔法✕10】がのしかかる 
重さに耐えきれず腹を地面に着けたベヒーモスに【極冷氷結】ブルートの上位氷魔法が
ベヒーモスを氷の結晶に閉じ込めようと脚先から凍らせていく
動きの鈍ったベヒーモスに四方から矢の雨が降り注ぐ カンッ! カンッ! カンッ! カンッ! 
まるで金属に当たったような音をたて地面に落ちていく矢
重力魔法でベヒーモスを押さえ続けるエヴァの額に汗が流れる

「以前より強くなっていますね 魔力をどんどん持っていかれます 強化魔法を使いすぎたようです」

「エヴァ お前は、アランを守る事に専念してくれ あとはルイや皆で何とかする」
鎖鎌を槍に持ち替え、氷で脚を地面に貼り付けられたベヒーモスに向かい風魔党の面々が槍を扱く

「こいつは、硬すぎるだろう! どこかに弱点はないのか!!??」風魔小太郎が叫ぶ
フンッとベヒーモスが鼻息を立て、脚を固定している氷に亀裂が走る (たてがみ)を逆立て
真紅のベヒーモスの体表が灼熱の朱へと変わっていく まるで背中に載せられた大きな石でも振り払うかのように大きく身震いをし、自由を取り戻すベヒーモス

「皆!退いてくれ!!」ルイが大声で叫び その体が黄色の光に包まれ[童子切安綱]をベヒーモスに向けて構えている
ルイの狙いを読んだブルートがベヒーモスの左前足に向け【氷結】氷魔法を放つ
と同時に土柱の上から、黄色い光の尾を引きながら射出されるルイ 
【一穴天心】自らの体を矢に変え敵を穿つ奥義である

ドッ! バッシュッ!! ガッ!!!
ベヒーモスの左足の付け根に深く突きっ立った太刀を横に払い骨まで達した音が響く
崩れ落ちそうになる体を支え 咆哮を上げるベヒーモス グオオオオォオォッォォォォッ!!!!
腹の底にまで響き渡る咆哮に腰が砕ける者 尻もちをつく者 小便まで漏らす者 

後ろ脚に力を溜め 一瞬で飛び立つ バサッと翼を広げ 左前脚から血を滴らせながら
東の空に向かい翼をはためかせる ベヒーモス

背中に背負っていた強弓[5人張り]を引き絞る 本多忠勝の弓から 3本の矢が放たれる
吸い込まれるように追尾していく矢がベヒーモスの尾に払われる

その後をルイの隼が追って行く



「皆。。。無事か??」血に濡れたルイが辺りを見渡す

「天女殿!天女殿! 助けてやってくれ!!」馬場信春を抱えた 武田信玄がエヴァを探し 声を荒げている
口の端から血を流す 馬場信春を抱えた武田信玄の元まで駆けていく エヴァ

「天女殿 馬場信春が死んでしまう!」

「両腕と肋骨も5本ほど折れていますね 折れた肋骨が肺にまで刺さっていますよ よく頑張りましたね」
杖を掲げ、折れた腕と胸に右手を翳す エヴァ

「これしきの怪我 お館様を守るためなら安いものじゃ がっはっはっはっは」

「見ていました 加護を授けたとはいえ あんなに大きな石塊を弾くなど無茶です命を大事にして下さいね」

「信春 まったく無茶をするでない!お主も、もう若くはないのじゃからな フッハッハッハ」
ようやく安心したのか、笑みが溢れる 武田信玄

「天女殿、かたじけない」揃って頭を下げる2人



「天女様、怪我人をあちらに集めて居ります 手が空きましたらお願いします」徳本の弟子が呼びに来る

「そうですか ありがとうございます では参りましょう」

「エヴァ 魔力は、大丈夫なのか?」ブルートが心配そうに聞いてくる

「大丈夫ですよ 私は、天女ですから」ふっふっと本当の天女のような笑みを浮かべ 
怪我人が集められた陣へと向かう

「武田より、織田方の負傷者の方が多いようじゃが 一緒でよろしかったかのう?」
徳本が、この陣内を仕切っていたようだ

「もちろんです 怪我人に織田も武田もありませんから 徳本先生 ご苦労さまです」
そう言いながら、怪我人の集められた陣の中央へと歩む エヴァ

「皆さん もうちょっと私の近くまで寄ってください 歩けない方を手伝って上げてくださいね」
武田の兵が、足を負傷した織田兵に肩を貸し エヴァの元まで連れてくる
その中には、織田信長を庇い、足を酷く火傷した明智光秀の姿もあった
200人ほどの負傷者が、エヴァを中心に輪になる 杖を掲げ 呪文を唱えるエヴァ

【慈愛に満ちたる天の光 天使の息吹となり 傷つきし者を癒やし給え 天光治癒】
杖の先から黄色く暖かい光が放射状に降り注ぐ 暗くふさぎ込んでいた負傷者の表情にも光が差し
怪我の痛みだけでなく、ベヒーモスから受けた恐怖心まで拭われていく

「本当にありがたい事じゃ」 「天女様がいる限り、わしらの戦は生きてさえいれば勝ちじゃのう!」

「わし天女様に治していただくの2度目じゃ 怪我をするのも悪くないのう ハッハッハ」

「な 何が起きたのじゃ!? 腹に穴が開いていたのに」何が起こったのか理解できず 
顔を見合わせ合う織田の兵士たち 

「殿! それがしの足の火傷が跡形も無く消えております それになんとも言えぬ心地良い暖かさが。。。」

「ふむ 光秀よ あの方は、真に天女のようじゃのう このような心持ちは初めてじゃ これで武田と戦えと言って誰が槍を持つ? 弓を射ると言うのじゃ!? 天に逆らうようなものじゃのう フッハッハッハ」
なにかが吹っ切れたように 高く笑う 織田信長


従属させていた隼にベヒーモスを追跡させていたルイが、脳内地図と照らし合わせベヒーモスが着地した地点を割り出し その場にいた本多忠勝、お雪、風魔党らと向き合う

「なあ 皆、ベヒーモスは御嶽山の火口に入って行ったぞ と言うか、あれは俺達の知っているベヒーモスじゃないけどな。。。翼が生えて、空を飛ぶとか 反則だろ?」

「御嶽山と言えば、ちょうど武田と織田の国の境になるな お館様は、織田をどうされるのじゃろう?」
本多忠勝が、皆の顔を見て意見を求めるが 首を捻る者しかいない 

ブルートとエヴァが、その輪の中へと入ってくる

「皆 改めてよろしく ブルートという ルイとエヴァと仲良くしてくれて本当にありがとう 
いい仲間に恵まれたようで本当に良かった」
目頭を押さえながら 頭を下げる ブルート 

「「「「「えっと天女様とのご関係は?」」」」」

「長年共に戦ってきた仲間だが?」 「歳の離れた兄のようなものです」同時に返ってくる 異なる答え

「えっ!? 俺が、兄なのか!? 確か俺が子供の時から、エヴァは。。。」
杖をブルートの、後頭部へとめり込ませる エヴァ

「まぁ それは、置いておいてベヒーモスだが、ここから東に行った所にある御嶽山という山の火口に降りたぞ」

「火口!?そこは活火山なのか??」ブルートが後頭部を押さえながら 聞いてくる

「時折 噴煙を上げていますから活火山だと思いますが? それがどうかしましたか?」お雪が答える

「いや。。。野生のベヒーモスは火山の火口内で産卵をして巣ごもりをするんだ。。。」



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