第4話 浜松城

文字数 3,496文字

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ここ三方ヶ原の徳川本陣に襲い掛かるのは、山県昌景軍と、それに合流した馬場信春軍
本陣前で立ち塞がる、槍の名手で知られる本多忠真が縦横無尽に槍を振るうが
圧倒的な数の暴力の前では、数名の足軽を道連れに 力尽きる
本陣より打って出た 夏目吉信、鈴木久三郎であるが、またたく間に制圧されてしまい
この時点で三方ヶ原の合戦は武田の圧倒的な勝利で終わることになるが、徳川家康の首級を捕ってこそ
武田の3年間に及ぶ鬱憤が晴れるというものである

(3年前の武田、徳川連合による駿河侵攻後の領土問題などのいざこざが鬱憤の原因である)

「馬場殿、家康は曳馬城(浜松城)へ逃げ帰ったようですな 今から向かえば 陽のあるうちに攻められましょう」

「山県 お館様には、伝令を出しておく すぐに向かうぞ! お館様とは、向こうで合流じゃな」

間もなく還暦という馬場信春であるが、未だ最前線で戦い武田四天王に数えられる益荒男である
その横を甘利信忠の騎馬隊が徳川家康を追うために浜松城へと駆ける

「お二人方! 家康の首、この甘利が頂きます!!

「甘利!! ワシの分も残しておけよ!!!!」がっはっはっは 豪快に笑う 馬場

「甘利が行くのであれば、徳川も終わりであろう 山県よワシらは城へ逃げ帰る残党を狩りながら向かうとしよう」

ルイはと言えば 山県昌景の護衛に専念していた 

「山県。。様の兵は、強いんだな 俺の出る幕がまったくなかった」

「ワシの軍が強いのでは無い 武田の軍が強いのじゃ お館様は軍神であるからな」

「お館様?」

「甲斐国守護 武田信玄様じゃ」

「そんなに凄い殿様なのか。。。会ってみたいな」

「ハッハッハ お主も武功を重ねれば、いずれお会い出来よう」

戦も一段落ついた気軽さからか 山県も饒舌になっているようだ 浜松城へと向かう道すがら
ルイは、山県から この国の政情や近隣諸国の情勢などの情報を聞き出す 
どうやら、朝廷や幕府の力が弱まり 歴史上類を見ない戦乱期に見舞われているそうだ
なぜか、自分の血が熱くなるのを感じる どうやらルイは根っからの戦闘狂のようである

「そうなると、織田信長と言うのがお館様の最大の敵ということか。。。?」

「ふむ 上杉謙信も居るが、今は一向一揆衆に手を焼いておる」

しばらくお館様の武勇談に興味深く聞き入りながら歩く 当然周囲の警戒は怠らずに
前方の林に視線を凝らす 視力も強化しているため 障害物が無ければ1キロ先の人の顔を判別もできる

「山県様、あそこの林の手前 赤い甲冑の兵が28人死んでる 敵の姿は。。。無いな 安全だ」

「あの先の林だと!? 1km以上あるでは無いか 誠に見えているのか??

「見える範囲で28人だ、先ほどの甘利という者も死んでいるな 斥候が戻ってくるぞ 聞いてみろ」

「山県様!ここより1km先 甘利殿を含む騎馬隊28名討ち死 敵は馬を奪い浜松城へと向かっております」
斥候の若い男が、片膝をつき報せる

「すまぬが5人ほど連れて遺体を林の中に隠してはくれぬか? 士気に関わるのでな」
斥候にそう命ずると 首から下げた数珠を握り目を閉じる
「甘利殿 許せ 仇は必ず取るゆえ」

「それにしてもルイよ お主は千里眼か?」
呆れたようにルイを見る

「そんなには見えない ハッハッハ その単位で言うと、見るだけなら2里だな」

「馬鹿なことを申すな 2里も見える者がいるものか」

「見えるよ 強化しているからな 聴力も強化している、1里先の鳥の羽ばたきも聞こえるぞ」

「強化だと? 修練ではなく?? やはり物の怪か!?

「その物の怪を倒すのが俺たちの仕事だ! 失礼だぞ」

「ふむ と言うと陰陽氏のたぐいか。。。?」

「陰陽氏が誰かは知らないが。。。俺は、自分にしか強化を掛けることは出来ないが エヴァなら他人にも掛けることが出来るぞ」

「それが真であれば、斥候などいらんな」
今度は逆に自分の身の上を山県に話しながら 歩をすすめる
例の林を抜けたところで、馬場信春が馬首を並べてくる

「戦闘があったようじゃな」

「甘利殿が討ち取られました。。。」

「あの甘利がの。。。本多忠勝か榊原康政といったところか? いずれにしても徳川は、今日までよ!!

「馬場殿が言われると 徳川が気の毒になって参りますなハッハッハ」

「ところで、お主にずっと付いてる、その小僧は何者じゃ?」

「陰陽氏の(たぐい)のようで 奇妙な術を使いまする」

「ほー、占い師か? この戦は占うまでもなく 我が方の勝ちじゃがなガッハッハ」
興味を失ったのか、後方の自分の部隊に帰っていく 馬場信春

「あそこに見えるのが、浜松城か? 門も全部開いているぞ? 門番も居ないな」
ルイが山県に振り返り 告げる

「なんじゃと!!

「馬場殿、大手門が開け放たれており門番も居りませぬな」

「大篝火まで焚かれておるぞ。。。」

浜松城城下に集う武田軍は1000人を超えているが、誰もが目の前の敵城の異様さに眉を(ひそ)めている

「罠だろ?。。。」 「いや気が触れただけでは?。。。」 「突撃じゃ!」兵達から様々な憶測が飛び交う

「父上、馬場様、徳川家臣、大久保康高らが三方ヶ原の残存兵を集めて、こちらに進軍しているとの事 
その数およそ800 あと1時間ほどで到着するでしょう」
山県昌景の子 昌満が斥候を取り仕切っており たった今入ってきた報せを告げる

「昌満 お館様は、あとどのくらいで到着される?」

「本陣ですが、出立迄もう暫くかかる見込みです」

「そうか、城内にどのくらいの戦力が残っているかじゃな」

「事前の調べでは、500にも満たないはずですが。。。大手門まで開け放たれているのが、腑に落ちません」

「後ろから迫る大久保の軍と挟撃されては、面倒だな 山県よ、ここは退くか?」

「馬場殿、もし本当に城内が500であれば 家康の首を取る千載一遇の好機」

「ここに今居るだけで、我が方は1500だぞ これを見て500やそこらで門を開けておくか?」

「山県様 ちょっといいか?」ルイの声が山県の耳元で囁くように聞こえる
しかしルイは、山県に背を向けて6メートルほど離れた場所で立っている

「風の流れを操作して、山県様だけに聞こえるように話している」こちらに振り向きニタッっと笑う
山県も軽く頷き、話の続きを促す

「城内は、確かに兵士は500人ほどだな 北から来る800ほどは、ここに居るみんなで迎撃して
俺は城内の兵士を一掃してくるが いいか?」

山県は、一瞬呆けた顔をしてルイに近づいてくる

「何を言っている?? なぜ500だと断言できる? いや500だとしても一人で何ができる??

「あそこに飛んでいるトンビが見えるか? さっきからあのトンビを操って視界も共有してる
まぁ 30分もあれば殲滅できるぞ」

「はぁ? 何を馬鹿なことを。。。陰陽師ってのは、そんな事も出来るのか??

「女子供が居なければ、もっと早く終わるんだけどな。。。魔法で」

「いや それを信じろと?」
口では、そう言いながら 目の前のルイなら本当に出来そうな気がしている

「元々 ここに居ない俺が一人で突っ込んで、勝手に死んでも 誰にも迷惑はかけないだろ?
死なないけどな こんなところで死んだらエヴァに殺される」楽しそうに笑うルイ

「死んでも、また殺されるのか」山県もつられて笑う

「ただ一つだけ約束してくれ 山県様は絶対に前線に出ないと、弓の届かないところで指揮に徹してくれ
 まぁ 奴らが到着する前には戻るつもりだが」

「では、ルイも一つ約束してくれ 危なくなったら すぐに退くと」
この国に来て、戦場を見て、この国の兵士の実力は見極めていた。
魔法がない、武器も防具も魔力が付与されていない 命を懸けた戦いで魔法があるのなら使わない理由がない
つまりこの国には、魔法が無いということになる
大気中には、ルイがいた国より濃厚な魔素が充満しているのに。。。
使う者が居ないから 魔素が濃いのか? 理由は不明だが、通常より魔力の回復が早いのは確かである

難しいことはわからないが。。。この国の兵士や武器ではルイに傷一つ負わせる事は出来ないだろうと
ルイの戦士としての本能が理解していた 

ー『一応 鉄砲もあるからな 硬化と加速を掛け直しておくか』ー

「ルイよ 馬は要るか?」

「いや 必要ない 走ったほうが早い」

「驚くのにも疲れた 無事に戻ってこいよ」

「すまないが、みんなの気を逸らしておいてくれると助かる その隙に抜け出す」
山県は、馬場のもとに戻り一言二言声を掛け 号令を出す

「よいか ここで大久保を迎え撃つ!! 陣を張れ!!!」
みんなの視線が、未だ見えぬ大久保の来る方向に向いている隙きに

一人 浜松城へと駆ける ルイ
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