129 初めて提出した250枚の『どんど』は
文字数 1,171文字
*
初めて提出した250枚の『どんど』はリヤカーに舞台道具を積んで信州を巡業した経験を掻いた作品だ。
Sチューターに「この小説の半分は無駄なことを描いている」といわれてしまった。
「出だしが語り。主人公の背景を書きすぎている」「小さなエピソードがいろいろ並んでいるけど、その場限りで継続していない。本筋が見えない。」「主人公に浦山の身体が入っていない」「意図したエピソードは事実関係がおかしくなる。意図を捨てようとして書かないといけない」
ぼくはいつも帰路に、JRの草津駅の6番ホームで降りて、信楽方面へ行く2番ホームの草津線に乗り換えるんだ。
各ホームには、ガラスで囲まれた待合室があって、暗闇に煌々と光を放っている。
電車を待つ20分近くの時間を、2番ホームの待合室の椅子に座って、その日に受け取った原稿を読みながら過ごしていた。
その夜は、よたよたと草津駅に降りて2番ホームへ向かおうとしたんだけど、足取りが重くて、階段を昇る気力もなくて、6番ホームの待合室の椅子に沈み込んだ。
『どんど』は、それなりの手応えを感じていた。
それを「第2章の部分は必要ない」と、バッサリやられた。
前日の夜に忘れ物がないかとリュックの中身を調べていると、妻に遠足を楽しみにしている小学生のようだと笑われたぐらいうきうき気分だったのに……。
2番ホームに信楽線の電車が入って来るのが見えた。
乗り遅れると下車駅まで自動車で迎えに来てくれている妻を1時間近く待たせることになる。
そのことはわかっているのに、ぼくは立ち上がることができなかった。
*
次の日は不貞寝をするつもりだったけれど、5時からパソコンで「どんど」の修正を始めた。
もう、時間が引き算で過ぎて行くので、クヨクヨしてはいられない。
昼を過ぎて、気晴らしに図書館へいくと、ラッキーなことに、古い雑誌のリサイクルをしていた。
そこで、「オール讀物」2008年3月号(直木賞発表号)を入手した。
桜庭一樹「私の男」が受賞作、女性だと初めて知った。
浅田次郎と受賞記念対談「小説の神様に導かれた」を読んだ。
浅田「小説の神様が、僕の肩のところにいつもいらっしゃるんですよ。神様が書いてくれるわけではなくて、一生懸命やってる人に加勢してくれるという感じかな。一生懸命やってたから来てくれたんですよ」
桜庭「ずっと売れない本書いてて、あるとき、来てくれたような気がするんです。見えはしないんですけど、あるときから書けるようになった」
そして、ふたりとも1日に1冊の本を読んでいると言っている。
締切に追われているプロが、1日に1冊も読んでいることに驚いた。
ぼくは閉じた状態で書いていたのだなと気づいたんだ。
今までに読んできた本や経験してきた過去にしがみついて、新しい風を感じることを怠っていたんだな。
初めて提出した250枚の『どんど』はリヤカーに舞台道具を積んで信州を巡業した経験を掻いた作品だ。
Sチューターに「この小説の半分は無駄なことを描いている」といわれてしまった。
「出だしが語り。主人公の背景を書きすぎている」「小さなエピソードがいろいろ並んでいるけど、その場限りで継続していない。本筋が見えない。」「主人公に浦山の身体が入っていない」「意図したエピソードは事実関係がおかしくなる。意図を捨てようとして書かないといけない」
ぼくはいつも帰路に、JRの草津駅の6番ホームで降りて、信楽方面へ行く2番ホームの草津線に乗り換えるんだ。
各ホームには、ガラスで囲まれた待合室があって、暗闇に煌々と光を放っている。
電車を待つ20分近くの時間を、2番ホームの待合室の椅子に座って、その日に受け取った原稿を読みながら過ごしていた。
その夜は、よたよたと草津駅に降りて2番ホームへ向かおうとしたんだけど、足取りが重くて、階段を昇る気力もなくて、6番ホームの待合室の椅子に沈み込んだ。
『どんど』は、それなりの手応えを感じていた。
それを「第2章の部分は必要ない」と、バッサリやられた。
前日の夜に忘れ物がないかとリュックの中身を調べていると、妻に遠足を楽しみにしている小学生のようだと笑われたぐらいうきうき気分だったのに……。
2番ホームに信楽線の電車が入って来るのが見えた。
乗り遅れると下車駅まで自動車で迎えに来てくれている妻を1時間近く待たせることになる。
そのことはわかっているのに、ぼくは立ち上がることができなかった。
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次の日は不貞寝をするつもりだったけれど、5時からパソコンで「どんど」の修正を始めた。
もう、時間が引き算で過ぎて行くので、クヨクヨしてはいられない。
昼を過ぎて、気晴らしに図書館へいくと、ラッキーなことに、古い雑誌のリサイクルをしていた。
そこで、「オール讀物」2008年3月号(直木賞発表号)を入手した。
桜庭一樹「私の男」が受賞作、女性だと初めて知った。
浅田次郎と受賞記念対談「小説の神様に導かれた」を読んだ。
浅田「小説の神様が、僕の肩のところにいつもいらっしゃるんですよ。神様が書いてくれるわけではなくて、一生懸命やってる人に加勢してくれるという感じかな。一生懸命やってたから来てくれたんですよ」
桜庭「ずっと売れない本書いてて、あるとき、来てくれたような気がするんです。見えはしないんですけど、あるときから書けるようになった」
そして、ふたりとも1日に1冊の本を読んでいると言っている。
締切に追われているプロが、1日に1冊も読んでいることに驚いた。
ぼくは閉じた状態で書いていたのだなと気づいたんだ。
今までに読んできた本や経験してきた過去にしがみついて、新しい風を感じることを怠っていたんだな。