100 2019年8月26日(月) 柴咲島弧(トーコ) 評 2
文字数 2,323文字
*
この物語のクライマックスですが、石袋を賢一に手渡すという行為を通して、稔が賢一を見つめるまなざしがより深く優しくなるのがしみじみと心打ちます。
「賢一、ごめんね。お母さんの勝手で、お友だちと別れさせて、本当にごめんね」ハンカチを口元に押し当てた声が震えている。
賢一が母親の背中を軽く叩く手がものすごく大きく見えた。稔はポケットに入れていた巾着袋を取り出した。
「これ、お母ちゃんが作ってくれたんや。貰ってくれへんか。ぼくは、焼石を入れて学校まで暖まるんやけど、ケンちゃんは好きに使ったらええわ」と手渡す。
「ケンちゃんのこと鉄人28号って、からかってごめんやで」稔は、賢一の表情を読み取ろうとしてじっと見つめた。
賢一は最後までしゃべらない、この描き方に心打たれます。
母親の背中を軽く叩く手が大きく見える、という描写や、「ホームで賢一の母親が何度もお辞儀をする。横の賢一の背中が揺れていた。到着した電車に乗る前に、振り返った賢一は、右腕で目を隠している。
その手に巾着袋が握られていた」という物言わぬ身振りや動作だけで、大切な友だちとの別れを悲しむ賢一の気持ちが伝わります。
賢一がこの物語の中で、一言も声を発しない、という描写が、すごいと思いました。
だからこそ、口が回らないことをからかわれてしゃべれなくなった少年の痛みがより深くとらえられるように思いました。
村木との殴り合いという大団円の後、夕方、工場の仕事を終えて帰ってきた父から、
「喧嘩は殴っても殴られても痛いんや。拳よりも頭を使って、喧嘩せんでもええように考えなあかん」と諌められるとき、神妙に聞いている稔ですが、頭の中では、手が痛いので、しばらくシャツをたたむことは出来ない、お小遣いがもらえないと考えています。
「黙ったまま頷いた稔は、しばらくシャツをたたむことは出来ないと考えていた」。
このラストも、面白く、絶妙な味わいがあります。
賢一に石袋を渡し、からかっていたことを謝り、友だち意識を深めたこと、その後、村木に歯向かい殴り合いをしたこと、少年の一日の出来事としては大変な激動を経験し、今までの稔からは脱皮し、覚醒させられた後だけに、このそっけない、というか、稔にはあくまでも具体的でリアルな問題を考えるという着地点です。
それが劇的な出来事との落差を生み、読者に安堵とおかしみを感じさせます。
さすが、浦山さん、少年たちの心理を知り尽くして、子どもの等身大の目線で描き切った、心憎い物語です。すてきな小説をありがとうございました。
*細かいことですが、以下、直したほうがいいと思える点を挙げておきます。
1)9ページの、「国語の音読は先生も名前を呼ばない」というのは、どういう意味?
先生も賢一を「鉄人28号」というあだ名で呼ぶ、ということですか?
2)14ページの、「慣れた場所に根を這っているのに、・・・」は、「根を這って」ではなく、「根を張って」です。
3)16ページの、「賢一の文江が」というのは、「賢一の母が」ですよね。
4)21ページの、「稔が走って公園へ行くと、達也に賢一が母親と一緒に家を訪ねてきたことを言った」というところは、「稔は走って公園へ行くと、・・・」に直すほうがいいと思います。
5)27ページの、
歩くたびに、悔しい思いが足し算ではなく
て掛け算で増えてくる。足が重いのは泥が付いたせいだけじゃない。
と書かれているのですが、「歩く・・・」から改行なので、1字分空けて書き、次の行の「て掛け算・・・」は、1字分空けないで書いてください。
その次の行「付いた・・・」も、1字分空けないで書いてください。
6)31ページの、「稔は、石袋の代わりに・・・」も、改行のとき、2字分も空けないで、1字分だけ空けて書き始めてください。
以上、気がついた点です。
柴咲島弧
*
*
2019・8・26(月)
トーコさん、浦山です。
作品評、ありがとうございます。
トーコさんに読み解いてもらった作品は
ぼくが書いたとは思えないほど素敵でした。
特に、
<石袋は、少年たちの関係を温める、象徴的な物質になっています。
稔から物言わぬ賢一に手渡されることで、ぬくもりと愛おしさが読者にも伝わる、すばらしい贈りものと言えます。>
そうだったのか~。
ぼくは意識して書いていなかったけど、こんな意味があったんだと教えられました。
「この作品のテーマは?」
と、訊かれた時に、使わせてもらいますね(笑)。
T文学賞へ応募して評価が低くても、トーコさんの評を頂いたことで満足です。
とはいえ、本心では大賞を狙っていますけどね(笑)。
>1)9ページの、「国語の音読は先生も名前を呼ばない」というのは、どういう意味?
これは、先生が賢一を飛ばして次の生徒を指名するという意味で書きました。
国語の音読は先生もあてない。
が分かりやすいのですが、
ドッチボールは最初にあてられる。
が次に続くので<先生も名前を呼ばない>にしました。
稔を主人公にした昭和30年代の物語は、
まだまだ書き残したい場面があります。
また、読んでくださいね。
ありがとうございました。
浦山稔
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2019・8・26(月)
浦山さん
なるほどね、先生が謙一を飛ばして次の性とを指名する、ということだったんですね。
鉄人28号というあだ名に引きずられて読んでしまいました。
いっそ、「国語の音読は、先生も謙一を飛ばして名前を呼ばない」としたら?
でも、くどいですね。
本賞をねらえる作品だと思いますよ!
と私が言っても、満足はできないでしょうが、
楽しみにしています!
柴咲島弧
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この物語のクライマックスですが、石袋を賢一に手渡すという行為を通して、稔が賢一を見つめるまなざしがより深く優しくなるのがしみじみと心打ちます。
「賢一、ごめんね。お母さんの勝手で、お友だちと別れさせて、本当にごめんね」ハンカチを口元に押し当てた声が震えている。
賢一が母親の背中を軽く叩く手がものすごく大きく見えた。稔はポケットに入れていた巾着袋を取り出した。
「これ、お母ちゃんが作ってくれたんや。貰ってくれへんか。ぼくは、焼石を入れて学校まで暖まるんやけど、ケンちゃんは好きに使ったらええわ」と手渡す。
「ケンちゃんのこと鉄人28号って、からかってごめんやで」稔は、賢一の表情を読み取ろうとしてじっと見つめた。
賢一は最後までしゃべらない、この描き方に心打たれます。
母親の背中を軽く叩く手が大きく見える、という描写や、「ホームで賢一の母親が何度もお辞儀をする。横の賢一の背中が揺れていた。到着した電車に乗る前に、振り返った賢一は、右腕で目を隠している。
その手に巾着袋が握られていた」という物言わぬ身振りや動作だけで、大切な友だちとの別れを悲しむ賢一の気持ちが伝わります。
賢一がこの物語の中で、一言も声を発しない、という描写が、すごいと思いました。
だからこそ、口が回らないことをからかわれてしゃべれなくなった少年の痛みがより深くとらえられるように思いました。
村木との殴り合いという大団円の後、夕方、工場の仕事を終えて帰ってきた父から、
「喧嘩は殴っても殴られても痛いんや。拳よりも頭を使って、喧嘩せんでもええように考えなあかん」と諌められるとき、神妙に聞いている稔ですが、頭の中では、手が痛いので、しばらくシャツをたたむことは出来ない、お小遣いがもらえないと考えています。
「黙ったまま頷いた稔は、しばらくシャツをたたむことは出来ないと考えていた」。
このラストも、面白く、絶妙な味わいがあります。
賢一に石袋を渡し、からかっていたことを謝り、友だち意識を深めたこと、その後、村木に歯向かい殴り合いをしたこと、少年の一日の出来事としては大変な激動を経験し、今までの稔からは脱皮し、覚醒させられた後だけに、このそっけない、というか、稔にはあくまでも具体的でリアルな問題を考えるという着地点です。
それが劇的な出来事との落差を生み、読者に安堵とおかしみを感じさせます。
さすが、浦山さん、少年たちの心理を知り尽くして、子どもの等身大の目線で描き切った、心憎い物語です。すてきな小説をありがとうございました。
*細かいことですが、以下、直したほうがいいと思える点を挙げておきます。
1)9ページの、「国語の音読は先生も名前を呼ばない」というのは、どういう意味?
先生も賢一を「鉄人28号」というあだ名で呼ぶ、ということですか?
2)14ページの、「慣れた場所に根を這っているのに、・・・」は、「根を這って」ではなく、「根を張って」です。
3)16ページの、「賢一の文江が」というのは、「賢一の母が」ですよね。
4)21ページの、「稔が走って公園へ行くと、達也に賢一が母親と一緒に家を訪ねてきたことを言った」というところは、「稔は走って公園へ行くと、・・・」に直すほうがいいと思います。
5)27ページの、
歩くたびに、悔しい思いが足し算ではなく
て掛け算で増えてくる。足が重いのは泥が付いたせいだけじゃない。
と書かれているのですが、「歩く・・・」から改行なので、1字分空けて書き、次の行の「て掛け算・・・」は、1字分空けないで書いてください。
その次の行「付いた・・・」も、1字分空けないで書いてください。
6)31ページの、「稔は、石袋の代わりに・・・」も、改行のとき、2字分も空けないで、1字分だけ空けて書き始めてください。
以上、気がついた点です。
柴咲島弧
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2019・8・26(月)
トーコさん、浦山です。
作品評、ありがとうございます。
トーコさんに読み解いてもらった作品は
ぼくが書いたとは思えないほど素敵でした。
特に、
<石袋は、少年たちの関係を温める、象徴的な物質になっています。
稔から物言わぬ賢一に手渡されることで、ぬくもりと愛おしさが読者にも伝わる、すばらしい贈りものと言えます。>
そうだったのか~。
ぼくは意識して書いていなかったけど、こんな意味があったんだと教えられました。
「この作品のテーマは?」
と、訊かれた時に、使わせてもらいますね(笑)。
T文学賞へ応募して評価が低くても、トーコさんの評を頂いたことで満足です。
とはいえ、本心では大賞を狙っていますけどね(笑)。
>1)9ページの、「国語の音読は先生も名前を呼ばない」というのは、どういう意味?
これは、先生が賢一を飛ばして次の生徒を指名するという意味で書きました。
国語の音読は先生もあてない。
が分かりやすいのですが、
ドッチボールは最初にあてられる。
が次に続くので<先生も名前を呼ばない>にしました。
稔を主人公にした昭和30年代の物語は、
まだまだ書き残したい場面があります。
また、読んでくださいね。
ありがとうございました。
浦山稔
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2019・8・26(月)
浦山さん
なるほどね、先生が謙一を飛ばして次の性とを指名する、ということだったんですね。
鉄人28号というあだ名に引きずられて読んでしまいました。
いっそ、「国語の音読は、先生も謙一を飛ばして名前を呼ばない」としたら?
でも、くどいですね。
本賞をねらえる作品だと思いますよ!
と私が言っても、満足はできないでしょうが、
楽しみにしています!
柴咲島弧
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