107 『いびつな夏の月』提出。

文字数 1,333文字


 2018・1・10(水)
 うさぎさん。
 1月16日に提出する『いびつな夏の月』に手こずっています。
 なかなか、思うように書けないよ~。
 まぁ、いつものことだけどね(笑)。

 そうそう、1月21日(日)新年会をするんだ。
 学問の神として親しまれている菅原道真を祭ってある
 天満(てんま)の天神さんへ行ってから
 ダベリング、いや文学談義。
 天神橋筋を食べ歩き、いや散策。
 都合がつけば参加してください。
 浦山稔

 2018・1・10(水)
 浦山さま
 残念ながら21日は、こっちも新年会なのでバツです。  
 16日の提出、Sチューターの顔を思い出して頑張れ!
 うさぎ

 1月16日(火)作品の提出日。
 朝、早く滋賀を出て、文校へ行く前に東福寺へ行った。
 目が不自由になる前から、よく伏見稲荷神社か東福寺に寄り道をしていたんだ。

 心の余裕モード。
 背中のリックには、24部プリントアウトした『いびつな夏の月』。

 まだ観光客の少ない狭い道に、帰宅する高校生たちが広がっていた。
 自動車が制服をかき分けて、最徐行で通り過ぎる。
 参道脇の寺では、築地塀からはみ出している木の手入れに職人たちが精を出していた。

 紅葉の時期は、人で埋まる臥雲橋をゆっくりと渡る。
 日下門を抜けると、空が開けた。
 曇空に瓦の色が滲んでいる。
 本堂に続く石畳を外れて、砂利道を歩いた。
 多くの人で踏み固められている箇所を避けて端を選ぶ。

 踏みしめる箇所や体重の乗せ方で、びみょーに身体が沈んで中心がずれる。
 この感覚は子どもの頃に、毎日味わっていたものだ。
 しかし、僕の身体からはすっかり抜け落ちていた。
 雨上がりの泥道や水たまりを、靴を汚さないように素足で遊んだ。
 思えば日常の中で、地球の歩き方を身に付けていたのだ。

 東福寺に長居をしてしまった。
 駅に着くと、電車か到着するとのアナウンス。
 あたふたと急ぎ足で発車寸前の電車に飛び込む。
 リュックを降ろした背中に風を送った。
 ここで、見送る余裕があれば、作品の完成度も高くなるのだろう。
 流れる風景に目をやりながらそう思った。

 天満橋に下りると戦闘モード。
「Sチューターに作品を叩きつけてやる!」
 目が不自由になってから、地下鉄を利用しようと思ったけど、一人では切符が買えないことがわかった。
 通い慣れた道を歩く方が、健康的だしお金もかからない。

 京阪天満橋駅から文校へ向かう谷町筋は、しばらく上り坂が続く。
 あいにくの小雨降る中を傘をささないで、
 指をぴんと伸ばし、両手を大きく振って谷町筋を文校へ向かう。
 BGMは、『レッド・ホット・チリ・ペッパーズ』のアルバム『バイ・ザ・ウェイ』
 赤信号で待っている間は、つま先でリズムを切っていた。

 文校に着くと、ぐいっと肩から教室に入る。
 何故だか、ざわめいている。
 ぼくの作品を待ち望んでいるのか?
 いやいや、それはないだろう。

「Sチュータが入院されたので、今日はお休みです」
 そうおしえてくれたクラスメートに
「どうしたんだ」
 思わず詰め寄ってしまった。
 詳しい状況は事務局でもわからないみたいだ。

 みんなにプリントアウトした作品を配る前に、
 空席のSチューターの机に『いびつな夏の月』を静かに置いた。


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