第108話 ユーカリの樹 16

文字数 1,279文字


「お前は何を考えているんだ!」
 東野先生の怒鳴り声で、会場が鎮まり返った。
 その声は華房にむけたものだが、稔はまるで自分が怒られているようにも思えた。
 東野先生は自分の怒鳴り声に興奮したのか、一呼吸おいてまた大声で叫んだ。
「即刻中止しろ! 中止だ中止!」
「東野先生、ここは小学校ではありません。みんなの迷惑になるので、大きな声はださないでください」
 華房が気圧された様子もなく冷静にいった。
「華房くん。校長先生から直接やめるようにと注意されたのに、密かに開催していたことは知っていたけど見逃していたんだ。それを、こんな目立つやり方をするのは許せない」
 華房の担任の角田先生も興奮している。
 稔が四年の時の担任の豊中先生と雪子の担任の松村先生も、周りの生徒たちに「帰りなさい」と口口にいっている。
 四人でチームになっているのかもしれないと稔は思った。
「先生たちは招待していませんので、即刻出て行ってください」
「なんていういいぐさだ。お前は、本当に小ざかしい児童だな」
 東野先生が華房に詰め寄ると。大宮が間に身体を入れた。
「みんなもいることだし、言葉に気を付けてください。新聞社の記者さんも取材に来ているんです」
 先生たちの口が一斉にとまった。

「……どういうことだ」
 東野先生が、脅えたような目になっている。
「新聞記者の田代さんを紹介します」
 華房の声で田代が前に出て来た。
「毎朝新聞者の田代です。『毎朝こども新聞』を担当しています」
 田代は四人の先生に名刺を渡した。
「名刺をお持ちでしたら、いただきたいのですが」
 先生たちは誰も持っていないみたいだ。
「では、今日はお名前だけお聞きして、後日学校へお伺いした時にでもお願いします」
「学校へこられるんですか?」
「もちろんです、生徒さんたちの一方的な話だとなんですので、校長先生からもお話しを訊かせてもらいます」
「校長に……」
 松村先生がゴクンと喉を鳴らした。

「倉井さん、滝田さんを呼んできてくれないか」
「わかりました」
 小百合がすぐに会場を出て行った。
「誤解があるようなので説明しますが、この交換会は僕たちではなくて、社会福祉を目指す大学生グループの主催で開催しています」
 先生たちは「社会福祉?」「大学生グループ?」と顔を見合わせている。
 すぐに小百合が、ホームベースを逆さまにしたような顔の男の人と一緒に戻って来た。

「『白い鳥』代表の滝田です」
『白い鳥』は、障害を持つ子どもたちの未来をひらくために、活動している会だといった。
「今は関西の三大学の有志のグループやけど、全国的な規模にして、将来的には社会福祉法人化したいという考えもありまっせ」
「社会福祉法人ですか……」
「浦山くんが、金田律子さんのことを心配しています。どうしても勉強をさせてあげたいとの熱意に共感した滝田さんたちの大学生グループが応援してくれることになりました」
 華房が、また稔と律子の名前を出してきた。
 稔は大きな塊が喉の奥に引っかかっているような感じになった。早く引き出さないと、息が詰まってしまう気がする。


 ユーカリの樹 17 に続く。
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