89 2019・6・15(土) 南方祐樹 評

文字数 511文字


『石袋』読ませてもらいました。

 浦山さんの作品ではおなじみのキャラクターと、昭和のおなじみの街の景色や小道具に、ずっと入りました。

 長さの割に、小道具の説明が多いのはノスタルジーに傾きすぎている印象を与えます。
 しかし、親に塗ってもらった巾着が、小学生の間で羨望の的になることや、そこに石のもつ温かみが文章を通して感じられるのは、この作品の美しい核心だと思いました。

 浦山さんの作品を読み終わっていつも思うのは、
「で?」という、現代的な物足りなさです。

 ノスタルジーが話の中核なら、それは中高年を限定的な対象としたジャンル小説であり、通俗小説にとどまります。
 そうではないというのならば、作者がいまこの令和の時代に身体を伴って生活している、この立ち位置だからこそあぶり出されるなにかを、読者は期待すると思います。

 その瞬間、この小説のノスタルジックな美しさは、世代を超えて普遍的で大きな格を持ちうるとおもいます。

 現代に遡りながら、律子や賢一と、何度も再会していく、長編が読みたいです。
 そのころ、それほど貧乏だった門真の子供たちは、いまそれぞれどうなっているのか、どんな人生を歩んだのか、とても気になります。

 南方祐樹
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