140 帰りは、地下鉄の「谷町六丁目」から

文字数 767文字


 帰りは、地下鉄の「谷町六丁目」から「東梅田」へ出る。
 そこから「大阪駅」まで歩いて最寄り駅まで帰るのだ。
 地下鉄は、いつも権田俊輔と数人が同じ車両になる。
 ぼくは、何気なさを装って談笑に付き合った。

 梅田の地下街でみんなと別れて、大阪駅ノースゲートビルの十一階に上がった。
 ステーションシティシネマで、たまに映画を観て帰ることもあるのだけれど、今日は外に出て、暮れていく街を眺めていた。
 頭の中では、今日の批評を思い出しては反論を試みる。
 たとえ論破したとしてもどうしようもなく虚しいことだとはわかってはいるのだけれど、自分を奮い立たせるためには必要なことなのだ。
 気が付くと陽がすっかり沈んでいた。
 背後からの照明が、コンクリートの床に肩を落として座り込んでいるぼくの影をくっきりと刻んでいた。
 
 終電に近い電車だったので、大阪駅からBOX席の窓側に座ることが出来た。
 膝に思いリュックを乗せてウォークマンから流れる音楽を聴いていた。
 隣の席では酔ったサラリーマンが、ぐっすりと寝込んでいる。

 再び、合評の言葉をひと言、ひと言思い出していると、ぼくの左肩に重くのしかかるモノがあった。
 サラリーマンの乱れた頭髪が頬に当たる。
 四十代ぐらいだ。
 気づいたのか、パッと頭を戻したサラリーマンがしばらく経つと、再びぼくの左肩に負荷をかけてきた。

 受け止めるしかない。
 肩に寄りかかるサラリーマンの頭も、膝の上にある売ることが出来なかった古本も、今日の批評も、全て引き受けるんだ。

 草津駅に着く前まで、サラリーマンをそのままにしていた。
 ホームに立って空を見上げた。
 星がひとつも見えない。
 しかし、漆黒の空の遥か上には、星々が煌めいていることを知っている。
 ぼくは草津線のホームへ行き、停まっている電車のドアを力強く開けて乗り込んだ。
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