129 願わない神・6篇

文字数 3,412文字



 ヲホヒコの平国後、毛野国に農作(稲作)を齎したナグサヒコと、日神信仰を齎したカラス衆が移る。史話で、毛野国に伝わった稲作は冷害のため、いちど絶えたとある。叛乱が起き、トヨキヒコが再度平国を行う。トヨキヒコが新しい稲穂を齎す。
 紀伊国(木の国)から毛野国(毛の国)へと来たトヨキヒコ(豊木の男)。
「た、絶えた所以は冷害だけでない。赤キ山の、ふ、噴火だ」

『あ、天ツ神は、噴火を畏れる。噴火は地の神、古の神の祟りと考えた。火山のない国(高天原)から火山のある国(葦原ノ中ツ国)へとやってきたから、ほかに考えようがなかった。だが、く、国ツ神は噴火を、祟りとともに恵みとして畏まる。畏れ、敬う』

 和歌山県はエビスを祀る神社が多い。海の向こうから物や人が流れてくる。異なる文化や新しい技術を齎す仮装の神様がやってくる。隣の国の神様(蕃神)がやってくる。
 ナグサヒコは、朝鮮半島から九州北域、瀬戸内海を渡って紀伊半島へとやってきたヤマトのアヤ族。一族の長を継がず、カラス衆の頭として天ツ軍を導き、名草の姫を殺す。
 トヨキヒコの母は、やっぱ紀伊半島へやってきた一族。日前神宮國懸神宮(名草宮)に奉じ、名草の姫に仕える。だけどナグサヒコに随い、名草の姫をうらぎる。のちは紀伊国に残ったり、ナグサヒコとともに毛野国に移ったり。父は崇神天皇。トヨキヒコに毛野国の叛乱鎮圧を命じる。トヨキヒコの妹に祟った高天原の日神の神代(カムシロ)の鏡を捨てるよう命じる。崇神天皇は叛いた人を、祟った神様を赦さない。

 818年に弘仁地震が起きたあと、全国で、とくに東国(東日本)で噴火や地震が続いて起きる。噴火や地震に合わせた蝦夷の叛乱が起きる。
 出羽国一宮の鳥海山(チョウカイザン)。かつて鳥見山(トリミヤマ)。トミの山。
 弘仁地震が起きるまえ、577、578年、593〜628年、708〜714年、717年、804、806年、810〜823年、830年、871年、884年、915年に噴火。桜島の噴火に合わせた隼人の叛乱。鳥海山の噴火に合わせた蝦夷の叛乱。
 頂に山宮、麓の2所に里宮の建つ大物忌神社。やっぱダイダラボッチが関わる。鳥海山の祟る山神を大物忌(オオモノイミ)神として祀る。オオモノヌシ(トミビコさん)を忌む神社。鳥見山の頂に建つ等彌神社を思いだす。噴火のたびに神階(神位)はあがる。

『偶然が続けば、武力統治に対する謀叛と叛乱、鎮圧が、火山の神様、地震の神様の祟りを、自然災害を誘ったと考える』
『へ、へこむ、な。脳髄が弱くなくとも、己へ、た、祟ったと考える』

 赤城神社は、浅間神社と同じく鎮火、地鎮祈願の神社。トヨキヒコは噴火や地震を、蝦夷の叛乱を鎮める神様となる。
 赤城神社の里宮として産泰神社が建つ。コノハナサクヒメを祀る。境内に赤城山の噴石があり、安産祈願の石として有名。カガヒコが生まれた産田神社を思い出す。石神(イシカミ)信仰。噴石は、本来の祭神はカガヒコ。祭神は噴火を鎮める巫神に変わり、さらに火中出産のコノハナサクヒメに変わる。噴石は安産祈願の撫石に変わる。ややこしい。

 榛名神社の祭神はカガヒコ。社伝で榛名山の山神と伝える。
 榛名山は多数の側火山があり、どこで噴火があるかわからない。いつ、愛子(マナゴ)のカガヒコが産まれるかわからない。イザナミさまはたいへん。
「仇子(アタゴ)は天父神イザナギに殺され、コノハナサクヒメに鎮められる」
「ハ、ハルナの社も、アカギの社も、トリミの社もアサマの社も、アソの社も、フジの社も、もとは山神を、ま、祀るための社だ」
「ダイダラボッチが関わる。石神信仰が、湧水信仰がある」
「あ、あと、星神信仰が、ある」

 毛野国は、すでに稲作を齎したナグサヒコと、日神信仰を齎したカラス衆が移り住んだため、トヨキヒコの平国も、稲作や信仰も受け入れやすい。
「し、しだいケの地(上・下毛野国)は自治権を認められる。さらに奥の地の叛乱鎮圧はトヨキヒコの後裔、ケ、ケの王に任せられる」
 北陸道は高志国まで、東山道は毛野国まで、東海道は常陸国まで統治下となる。

 古代、遠い西国の奥の先住人を熊曾と呼び、住む地を熊曾の地と呼んだ。同じく遠い東国(関東・東北地方)、北国(北陸地方)の奥の先住人を蝦夷(エミシ)と呼び、住む地を蝦夷の地と呼んだ。のちに東山道と東海道の道(陸)の奥の国、陸奥国となる。
 はじめ熊曾の地も、蝦夷の地も平国を受けいれ、統治下となる。



 東北地方は那須火山帯であり、中央分水堺である奥羽山脈を境堺に、じつは太平洋側と日本海側に別けられる。気候も異なり、生活や信仰も異なる。
 太平洋側は海波も高く、海潮も速く、接岸のための平地が少なく、西国(西日本)と東国(東日本)の人流物流は海路よりも陸路となる。さらに黒潮が日本列島に沿って北に上る。黒潮は房総半島沖で日本列島を離れる。黒潮続流。一部の黒潮は北に上るけれど、南に下る親潮と三陸沖でぶつかり、やっぱ日本列島を離れる。つまり征東軍も陸路を進む。
 のちに征東軍は海人族の造船と航海技術で海路を進む。まさに東の海の道、東海道。征東軍は太平洋へ流れる黒潮を越え、逆流の親潮を逆らい、霞ヶ浦に着く。
 日本海側も青潮(黒潮の分流の対馬海流)が日本列島に沿って北に上る。青潮は日本列島に沿ったまま大部が津軽海峡を抜けて津軽海流、一部が宗谷海峡を抜けて宗谷海流となる。さらに平地も多く、海路で西国と東国の人流物流が盛んとなる。青潮に流されたまま各地へ着ける。大陸との人流物流も盛んとなる。
 蝦夷の地は、さきに平国を受けいれた日本海側が出羽国として別けられる。受けいれなかった太平洋側(陸奥国)は上・下毛野国に任される。
 だけど鳥海山の噴火とともに出羽国で叛乱が起きる。出羽国に応じて陸奥国で叛乱が起きる。叛乱、粛清と鎮圧は続く。前九年・後三年が有名。
 やがて作地開墾、領地拡大の征東軍から、叛乱鎮圧の征夷軍へと変わる。鎌倉時代の奥州藤原氏族で、やっと終わる。



 かつて鍛冶と交易により国力を高めた近江国。
 東国(東日本)で最大の前方後円墳の太田天神山古墳のほか、13000基の古墳がある。上・下毛野国は征東征夷で武力を、国力を高める。
「ケ、ケの王の墓らしい」
 どうも日本人は大きいものに拘る。地震が多い、火山の多い国土で、平地の少ない国土で、なぜか宗教的建築は大きい。
 まずは国力の誇示。ボスザルの権力の誇示。ムラ社会が大きくなり、ボスザルはまとめづらくなる。血縁でまとまったムラ社会を乱す、ボスザルに随わないサルが現れる。逐いやればいいが、大きくなったムラ社会の動揺、ボスザルへ疑いはわかりづらい。さらにボスザルも老いる。腕力も権力も衰える。または古い力は新たな力に潰される。武力による権力は衰える。潰される。衰えないための、潰されないための力。神様の威力。神威。

『け、権威の力を以て正当(正統)な権力と、成る。武力だけで、な、成らない。ただ、戦いつづけるだけの、バカ。の、脳髄がチョー弱い』

「ボ、ボスザルは、祖神や氏神を大きく祀る。祖神や氏神の神威を、神力を見せつける。ゆ、ゆえにじぶんの権威は、権力はすごい、と。さらに力のあるサルに労役を課し、大きな墓を造る。ま、まさに一石二鳥、一箭双雕。一矢で二羽の鴨を得た」
「一箭双雕は、鷲」聞きながらスマホを弄る。
「……か、鴨はカモ族の、例えだ」クエビコさんの布で作られた頭が赤くなる。
「鎌倉幕府の源頼朝も、江戸幕府の徳川家康も八幡神を祀った。西国の権威を弱め、東国の権力を強めると言いながら、ようは西国の権威に肖り、東国の権力が欲しかっただけ」
 大きくなる東国の墳墓に対し、西国の墳墓は古代中国の流行をとりいれる。方墳や円墳八角墳に代わる。笑える。



 ついで。
 出羽国の蝦夷を率い、前九年・後三年の役のキッカケとなった陸奥国(のちに陸中国)の安倍氏族。アビの地に住み、代々の長はトミビコさんの兄のアビヒコと名のる。なんかあやしい。
 岩手県二戸市の地名に安比(アッピ)がある。アビの地。安比川や安比山がある。一説に、安比の語源はアイヌ語でアペは火で、安比山は火山という。とてもあやしい。さらに別説に、アイヌ語でアッピは安住で、安住の地という。かなりあやしい。キリストの墓なみにあやしい。信じるか、信じないか、あなたしだい。
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