74 さみしそうな熱田神宮

文字数 1,873文字



『神剣は国ツ神のものだから祟るけれど、神鏡は高天原の日神の神代(カムシロ)だよね。なんで天ツ神のものなのに祟るんだろう』

「だいたい、神剣は崇神天皇を、天武天皇を祟る。なんか神剣っぽくない。タカクラジさんの授かったミカヅチヲの佩剣のほうが神剣っぽい」
「そ、そうだな。まずは、オオクニの言うタカクラジはわからないが、イソノカミの社(石上神宮)とアユチの社(熱田神宮)の、べつの覡だ。つぎは、崇神を祟った神剣と天武を祟った神剣は、べつの剣だ。さらに剣でなく、佩いた祭神が祟ったわけだ。ど、どんな所以で祭神が祀りあげられたか。イソノカミの社に奉じたミカヅチヲの佩剣は、天ツ軍を助け、イヅモとヤマトの平国を行った勝者の剣だ。アユチの社に奉じた神剣は、もとはヤマタノヲロチの佩剣。ツ、ツクヨミ。ヤマトタケルのイヅモの平国神話を知ってるか」
 私は首を振る。クエビコさんに促されてスマホを弄る。
 倭建命は熊曾建を討ったあと、出雲建を討つ。出雲建の佩剣を木の剣に換え、薙(ナ)ぎり殺す。熊曾建も、出雲建も、倭建命に騙され殺される。
「ひどい」
「い、戦にキレイゴトはない。戦は勝たなければならない。キレイゴトで、い、戦に勝てたらいいが、負けたら後はない」
「……」
「つ、剣を換えた。奪ったイヅモタケルの佩剣は、ダ、ダレのモノとなるのか」
「……倭建命のものになる」
「そ、そうだ。イヅモタケルを討った証、平国の証として献じられる。人代(ヒトヨ)の話だ。神代(カムヨ)のヤマタノヲロチの佩剣も、人代の、イ、イヅモタケルの佩剣も同じ敗者の剣、だ」
「ムラクモの剣はオウ族を遂いやり、カムド族を負かしたホヒ族が献じた剣。スサノヲさんの名で、強い酒を呑まして騙して殺して奪って献じた出雲国のレガリア」
「オ、オオクニモもホヒヒコに、トミビコもニギハヤヒに騙された。国ツ神は、天降り神に、よ、弱い」
「昔も、今もかわらないか。そして勝った倭建命の佩剣は、……」
「じゃ、蛇神を奇し薙ぐ剣(クサナギの剣)。蛇神を斬る剣(ハバキリの剣)と同じ勝者の剣だ。き、機を以て機を奪い、毒を以て毒を、せ、攻む」
「蛇の剣を以て蛇の剣を制す。敗者の剣(ムラクモの剣)と勝者の剣(クサナギの剣)は別の剣。神話で、たしか天孫降臨でホノニニギが賜った神剣の名はクサナギの剣とある。つまり倭建命が相模国焼津で草を薙ぎ払う前からも、クサナギの剣」
「く、草は民だ、人だ。民草、人草。草を奇し薙ぐ剣、平国の剣と、な、なる」
「笑えない」
「わ、笑えないな。あと、イブキの山神は大猪でなく、大蛇という」
「近江国の鍛冶族も、オウ族(八岐大蛇)も高志国出自。オウ族の鍛えた鉄剣(ムラクモの剣)は鍛冶族の、国ツ神のレガリア。近江国の鍛冶族が欲したか」
 越後国の彌彦神社の社伝で、タカクラジさんの高志国平国を伝える。
「ヲ、ヲハリ族はヤマトのアヤ族の血統を継いだ武人の一族、だ」
「だけどヲハリ族は、倭建命は強くなりすぎた」
「ぶ、武力だけでない。東海道の海路で、アユチの社(熱田神宮)はイソの海(伊勢湾)のアユチの岬(熱田台地)に建つ。東海道の陸路で、ヲ、ヲハリは東国の国境となる。いずれ要衝地、緩衝地だ。ヤマトタケルは、ミ、ミヤヒメを娶り、ヲハリタケルとなった。ヤマトの名を捨てた」
「倭建命がじぶんに剣を向けたと、謀叛と思った。景行天皇は倭建命を……」
「……こ、殺してしまおう、と考えた。伊吹山の山神に、ね、願った」
「倭建命は殺された。だけど近江国の鍛冶族は佩剣を奪えなかった」
「ヲ、ヲハリ族は脳髄が強かった。佩剣の献上で帰順の証(アカシ)を示した。け、献上か、献上を強いたか。ヤマトタケルの、イ、イヅモタケル征討のキッカケの神話がある」



 オウ族(八岐大蛇)も、カムド族(出雲建)も強くなりすぎ、新たな力に潰された。ヲハリ族(倭建命)も強くなりすぎた。だけど強(シタタ)かだった。
 檜隈の姫の想い。ミヤヒメの想い。
「ヤ、ヤマトのアヤ族は巫人の一族だ。祟る敗者の剣を、ま、祀りあげる役目もあった」
 熱田神宮の正殿に祀りあげられたムラクモの剣。土用殿に倭建命の佩剣のクサナギの剣が祀りあげられる。1893年、本殿に2振の神剣が祀られる。
 神話で、倭建命の佩剣は景行天皇が授けた比比羅木之八尋鉾とある。戦で使わず、蛇行剣と同じように祭祀で使う剣(鉾)。雲文(叢雲文様)と草文(蔓草文様)の刻まれた、柊の葉のように棘のある長い剣。柊は鬼を祓う。または開き木で、剣身がふたつに別れた(開いた)長い剣。雲文の剣と草文の剣。2振の剣を縛り、祀られる。
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