111 なんと・後篇

文字数 1,429文字



 スサノヲさん、ワカフツヌシさん、カゲヒコさんがたがい見あわす。
「アー、またやこぢんまりした社だ、爺様」
「言っただろう、オレを祀ってる社でない」
「ウン、器も小さければ、心も小さい。あと、アレも小さい。ナー、ミカフツヲ」
「はい。あと、ワタシはワカフツと名を改めました」
「なんとアレで小さいのか」思わず独り言ちる。
 みんなの視線が集まる。
 私はコホンと咳。ストップ下品なネタ。

 金山駅の近所の、柳川公園の一角にある須佐之男神社を通り、私達は隠世に隠れる。
 ワカヒコくんも竹刀袋からカムドの剣を出し、構える。
「アー、コゾー、剣を見せろ」カムドの剣を見たカゲヒコさんが思わず叫ぶ。
「爺様、オオクニ。なぜ、コゾーがカムドの剣を佩(ハ)いてる。ウン、オレが命を削り、鍛えた剣を、なぜ、天ツ神が……」
「ボクはコゾウじゃない。天ツ神じゃない。出雲神のワカヒコだ」
 ワカヒコくんが叫び返し、カゲヒコさんが気おされて黙る。スサノヲさんとオオクニヌシさんを見やると、やっぱ黙ってる。前もあった。気まづいかんじ。
「カ、カゲヒコ、オレも、あとで聞いた話だ。ミナカタが、ワ、ワカヒコに授けた」
「アー、カムドの剣はコシの神とイヅモの神の絆。ウン、オオクニの名を継ぐミホのスズヒコの佩くべき剣だ。ミカフツヲ、オマエもわかるだろう」
「はい、カゲヒコ様の言いたいことはわかります。しかし。ミナカタ様の決められたこともわかります。あと、ワタシはワカフツと名を改めました」
「アー、オマエも剣神だろう。剣は剣神の、もうひとつの命だ。ウン、だからこそ鍛冶神も命を削って鍛える」
「ま、まあ、命を置き忘れた剣神も、いる」防具袋のクエビコさんが笑う。
 私は防具袋を叩く。
「ウン、カムドの剣をコゾーに授けるならば……」
 とても損得で動くような神様に思えない。トミビコさんが嫌うような神様に思えない。口は悪いけれど、心は良いよね。なのに。なんでクエビコさんは戯けるの。
「ウン、鍛冶代をくれ」
「えー」私とオオクニヌシさんだけが驚く。
「コゾーに授けるならば、鍛冶代をくれ」
「カムドの剣の、もとの剣はカゲヒコ様に鍛えていただきました。たしか鍛冶代も渡しました。しかしカムドの剣に鍛え直したのはカナヒメ。たしかカゲヒコ様に伝えました。鍛冶代をカゲヒコ様に渡すのはいかがでしょうか」
 眼鏡のフレームを触りながら、言い聞かせる。スサノヲさんは頷く。
 聞きながら私も頷く。なるほど、あたりまえだ。
「カ、カゲヒコも、スサノヲも、脳髄で物事を、か、考えろ」
「クエビコ、なんでオレの名がでてくる」
「なんと(中丸雄一と亀梨和也でなく)爺孫はそろって考えないか」思わず独り言ちる。
「つ、剣の所有権は、もとはオオクニにある。オオクニも、ワ、ワカヒコに授けた」
「アー、わかった、わかった。カムドの剣は、コゾーが佩け」
「コゾウじゃない。ボクはワカヒコだ、ワカヒコ」
「ウン、佩けても振るえなければ、コゾーだ。ウン、コたれコゾーだ」
 良かった。戦を前に国ツ神(殆んど元・天ツ神だけど)で揉めたくないので。
 良かった。カゲヒコさんが噂どおりのキャラで。
 良かった。ミナカタヌシさんが思いどおりのキャラで。
 良かった。ワカヒコくんが体に合わない剣を持つ理由がわかって。

 あれれ。おかしいぞ。コナンくんはわかってた。私もやっとわかった。
 なんと。

「オオクニヌシさん。カムドの剣は、いや、カムドの剣の、もとの剣は、……」
 ドゴッ。

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