30 フジの女神・前篇

文字数 4,526文字



 神話で書かれてないけれど、倭建命は富士山を見てる。倭建命は征東の往路で、平らな日本平(有度山)で東国を見てる。剣を東国に翳す。
「倭建命は、かっこいいヒーローとして語り継がれる」
「か、かっこよくない。脳髄が、すごく、すーっごく、よ、弱いヒーロー、だ」
「クエビコさん」布で作られたクエビコさんの頭を抱きしめる。
「な、なんだ、ツクヨミ」
「クエビコさんの俗物的嫉妬心が愛おしくてたまらない」
「か、畏まってくれたほうが、う、嬉しい」布で作られた頭がほんのりと赤くなる。
「ああ、愛おしくてたまらない」
 日本平は富士山の見える景勝地。だけど神話で倭建命は富士山は見てない。
「に、日本平で剣を翳すのはヤマトタケルだけで、ない。い、家康も翳す」
 家康の遺言で、久能山東照宮に葬られ、のちに日光東照宮に祀られる。屍は日光東照宮に遷されず、久能山東照宮にあるらしい。さらに徳川埋蔵金は日光東照宮の豪華改築で遣いはたしたらしい。久能山東照宮は箱根関の西側の日本平に建つ。関の外で東国を、江戸幕府を護ってる。屍は権力という剣を西国の権威に翳す。さらに久能山東照宮と日光東照宮を結ぶ線上に富士山がある。竹取物語で、帝は富士山の山頂で不死の薬を焼き捨てる。富士山は不死の山となる。不死の山を越え、家康は唯一無二の神様となる。天ツ神、別天ツ神、造化三神を越えた神様となる。超超超超越な、隠隠隠隠然な神威を得た神様となる。
 
 家康は北極星の神様に、新しき権威になれなかったけれど江戸幕府の護り神になった。東照大権現の名をつけられたけれど、江戸幕府の鬼を鎮める神様にならなかった。
 だから江戸幕府は約260年間も続いた。



 天武天皇と、嗣ぐ天武系皇統の時代は自然災害が多く、偶然に富士山が関わる。
 壬申の乱で、天武天皇は東国の軍兵を率って勝った。ゆえに東国の反乱におびえ、三関を作った。謀反におびえ、皇親政治を行った。
「お、己は、神意に依った正当な謀反であり、は、反乱である。神威を以った正統な権威は、お、己にある、と言う。笑える」
「勝てば官軍、負ければ賊軍。しかたがない」オオクニヌシさんの真似。
 天武天皇は道教を重んじた。道教は天武天皇の祭祀と政治に大きく影響を与えた。
 古代中国の道教の最高神は天皇大帝。北極星の神格化。天の中心で、全天の星を統べ治める星。日(太陽)と月(太陰)も統べ治めるから、太一。
 ゆえにだれよりも、なによりも自然災害におびえた。だけど。
 679年のまずは筑紫国の地震。神武征東の出立地。
 680年に富士山を避け、駿河国を別け、東海道の海路の要衝として伊豆国ができた。
 だけど。
 684年に伊豆大島の噴火と、統治下の畿内の白鳳地震。南海トラフの地震。
 684年に科野国(信濃国)に、遷都(または東山道の軍事要衝)を考えた。
 だけど。
 685年に碓氷関の西側、富士山と同じく西国(西日本)にある浅間山の噴火。天武天皇はショックで……。
 一説に浅間神は浅間山の噴火で祀りあげた祟り神。781年の富士山の噴火で再び祀りあげた。そして800年の噴火でコノハナサクヒメを祀った。
 701年に統治下の畿内の大宝地震。南海トラフの地震という。
 708年、716年(または718年)、764年に桜島の噴火。
 715年に遠江国の地震。
 734年に統治下の畿内七道地震。南海トラフの地震。
 742年に霧島連山の火常峰(御鉢)の噴火。
 745年に統治下の天平地震。
 762年美濃国、信濃国の地震。
「て、天災が、政変の始まりでなく、偶然に隼人の反乱が起き、て、天災が起きた」
 702年の反乱と鎮圧、704年に薩摩国が別けられた。708年に桜島の噴火。
 713年の反乱と鎮圧、同年に大隅国が別けられた。716年に桜島の噴火。
 720年の反乱と鎮圧、同年に藤原氏の氏祖の藤原不比等が疫病で病死。不比等は当代45代聖武天皇の祖父。

 狩猟や漁撈の時代から農耕(稲作)の時代へと変わる。土地は神様のものから人のものへとなる。定住化。だけど平地は30%だけの日本。山を崩し、海、湖や沼を埋め、田畑を広げる。川筋を変える。山や海の持主、地主神である山神や海神が傲慢な人を祟る。
「だ、だいたい、火山灰の多い地の、農地開墾は、ム、ムリゲー」
 九州南域も田畑を広げたけれど、稲作に向いてない。一所懸命にがんばったけれど、稲穂は育たない。そして田租が課される。
「天ツ神に、順え、服れ、田畑を耕せ、作物を納めろ、か。やってられるか、と反乱が起きるね。鎮められる。噴火でさらに農地はダメになる」
 708年の噴火、713年の反乱。716年の噴火、720年の反乱と逆に考えると、隼人は偶然でなく、桜島の噴火後に反乱を起こしてる。
 農地開墾、定住が進み、地主神の祟りが鎮まり、やがて地主神は隠される。
「戦で、ともに戦いたいけれど、隠しさきがわからない。すでに幽世(カクリヨ)に去ったか。日神の随神、ミサキ神になったか」

 土地が人のものとなり、良い土地、悪い土地という土地の価値が決まる。悪ければ移ればいいけれど、改めて耕してたり、住んでたり。移った土地も悪かったり。ということで。悪い土地を譲ったり、売ったり。好字化は土地の価値を上げるため。
「ち、地名を変えたから、天災が鎮まるわけでない。悪い土地が良い地に、か、変わるわけでない。今は選択権のないオプション。昔はクーリング・オフ、だ。即削除。な、なかったことにする」

 そして。
 人の果てしない傲慢が、蕃神(トナリノクニノカミ)、佛様を創る。
 不比等の子の藤原四兄弟も疫病で病死。疫病、内乱内戦、飢餓が続く。
「しょ、聖武は、父は7歳で死別、母は心の病、己も病弱、ま、まわりは政争と天災。人を信じられず、祟り神に、お、おびえる。聖武の養父は、イ、イソの社(伊勢神宮)の神官、だ。笑える」
 統治下の西国の噴火と地震。傲慢に対する神様の祟り。
「偶然が続けば、統治に対する謀反と反乱、鎮圧が、火山の神様、地震の神様の祟りを、自然災害を誘ったと考える」
「へ、へこむ、な。脳髄が弱くなくとも、己へ、た、祟ったと考える」
 偶然の感情、記憶や意識が重なり集まり記録や知識となる。
 三島神社(三嶋大社)の祭神は、大三島の山神オオヤマツミの説と、御島(伊豆大島などの伊豆諸島の火山島)の山神の説があるけれど、両説も正しい。航海の護り神オオヤマツミに、御島の祟り神を重ね祀ってるから。
 いや、オオヤマツミは隼人の崇める神様。つまり祟り神。オオヤマツミを祀る神社は西国に多いのは、南海トラフに関わる。伊豆半島、富士火山帯以西で地震が起きる。南海トラフの東限は伊豆国一宮の三島神社、そして富士山。富士山は大陸プレートの北米プレートとユーラシアプレート、海洋プレートのフィリピン海プレートの境界に聳える。マグマが集まり、地震が起きるプレートの境界に聳える。日本平(有度山)はプレートが動き、盛り上がってできる。



 聖武天皇は、じぶんの罪(傲慢)と考えない。そして蕃神が、現れる。いや、創られる。
 八幡神の神託で、聖武天皇は隼人の慰霊と殺生の滅罪のため、放生会を行う。高天原の日神でなく、出自不明の神様。全国に国分寺(国分尼寺)を、大和国に総国分寺として東大寺を建てる。
 そして蕃神は、神佛習合を進める。
 752年の東大寺盧舎那佛像の開眼供養会。国ツ神、天ツ神の代表として八幡神が、慈悲を求めて佛様に跪く。国ツ神、天ツ神の代表は高天原の日神でなく、神話に書かれてない神様。
 そして蕃神は、皇統を変える。
 聖武天皇の娘の46代孝謙天皇(重祚で48代称徳天皇)の時代に起きた八幡神の神託事件。天武系皇統は絶える。
「じ、自滅、だ。天智系皇統が復する。ま、まさに蕃神の神威、だ」
 神威は、空間だけでなく時間までも治める超越な、隠然な存在の威力。畏まる大いなる存在の威力。神話(神代)から史話(現代)へと続く存在の威力。
 高天原の日神の神威を継いだ天武系皇統の権威は、火山の神様、地震の神様の祟りを鎮められなかった。
 クーリング・オフ。蕃神は考えかたを変え、言ってくれる。
 
「て、天災は天子の所為(不徳)でない、とヤハタの神はいう。天子の統治を塞ぐ、ま、服わぬ鬼の所為。鬼の穢れが禍い(災い)を、も、齎した、とヤハタの神はいう」
 天子の徳に対する人の嫉みや妬みが穢れとなり、人は鬼と化して謀反や反乱を起こし、火山の神様、地震の神様の祟りを、自然災害を齎したと考える。天子の徳ありき、鎮圧ありきの一方的思考。超傲慢。
 だから妬みや嫉みを慰め、しかたがなく殺した罪を滅するために、佛様に縋る。
 八幡神は、古き神威の高天原の日神に代わる、新しき神威。新しき神威を継いだ天智系皇統の護り神となる。
「噴火や地震は最強のモノノ怪。最強のモノノ怪が現れたのは、人の嫉みや妬み、鬼の穢れの所為。うーん。最強の言いわけ」
「と、統治のための修練、だ。しかし蕃神が、ま、護ってくれる、とヤハタの神はいう」
「最強の喧伝活動」
「と、蕃神は、ああしろ説法だ、こうした内法だ、どうした外法だと、う、うるさい。神威か、法威かわからないが、偉そうに言う。順い、た、戦って死ねば、浄国(清浄国土/浄土)に行ける、と。い、行けるか」
 八幡神は天ツ神、国ツ神、八百万神を従えて佛様(盧舎那佛)に傅いた。宇佐神宮(宇佐八幡宮)に神宮寺が建ち、八幡神は人を佛教に導いた。人はなにも言わない神様よりも、色々と言う佛様を選んだ。
 八幡神も蕃神、佛様。
「佛様も戦が好きなんだ」佛教は宗派戦争を好んだ。
「ま、正(マサ)しく、悪の権現だ。男は黙って餅を、つ、搗け」
 だけど。
 764年の噴火から、769年の神託事件から1468年まで、約700年は桜島の噴火はない。まさに八幡神の神威。
「お、おい、ツクヨミ。オレは、ボ、ボケたんだぞ」
 一説にコノハナサクヒメは、桜島の山神でなく、山神の祟り(噴火)を鎮めた水神。山神に仕える若き巫の神格化。のちに鹿児島神宮に、そして富士山本宮浅間大社に祀られる。日本平の山頂に童謡の[赤い靴]の像がある。近代に作られた[赤い靴]の娘に、神代に生きたコノハナサクヒメを重ねる。
「ツ、ツッコんでくれ、ツクヨミ」



 天智系皇統に復した49代光仁天皇の時代。だけど謀反と反乱、自然災害は続く。
 ついに781年の富士山の噴火。光仁天皇はショックで……。
 父の死は、子の50代桓武天皇を佛教と鎮圧にのめりこます。富士山の噴火中の801年の征東。桓武天皇はアテルイの斬首を命じる。
 鎮圧のたびに八幡神の神階(神位)はあがり、奉じるウサ族の位階もあがる。
 自然災害は天子の不徳で齎されるか、人の嫉みや妬み、鬼の穢れで齎されるかわからないけれど、平安時代は謀反と反乱、鎮圧の時代となる。
 謀反と反乱を鎮めるたびに軍事貴族の武力が強まり、武者が現れる。自然災害を鎮めるたびに佛教の佛力が強まり、僧兵(僧形の武者)が現れる。鬼は、じつは内に、心の内に隠れてる。
「……ツ、ツクヨミぃ」布で作られた頭が青くなる。
 ああ、愛おしくてたまらない。心の声。
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