59 女神の祝い酒・中篇

文字数 1,459文字

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『土産だッ。地祇の陣で奪った酒樽だッ。はっははははッ。笑える、笑えるッ。フヌケなイワイヌシにたむける、祝い酒だッ』
 巨躯の女神が、火神の如く戦火に照らされる。盛りあがった筋肉が熱り、マグマのように血管の熱気を噴く。

『鬼神はッ、棲む国に、隠れろッ。もうにどと、現れる、なッ』
『うわああああああああああああああああッッ』
『鬼はッ、外に、去ねッ。二度と、出るなッ』

『はっははははッ。笑える、笑えるッ。笑える地祇の吠え声だッ』
 巨躯を揺らしながら豪快に笑う。樽酒を掲げ、豪快に呑む。
『ミホメ様。あまり呑まれないほうが……』
 巨躯の女神に隠れてた矮躯の男神が女神を見あげる。
『笑えないッ。オオ、ミホメ様だッ。退けッ、兄神の神言も聞けない、酒も呑めないフヌケ天神ッ』
 オオミホメの振りさげた左腕が男神を豪快に弾き飛ばす。
『フヌケ天神と比べ、ミカヅチヲッ。さすがだッ。はっははははッ。笑えるッ。さすが兄神が忌み嫌うほどの、剣神ッ』
 戦火を纏いながら、浜砂とイヅモ水軍の屍を踏み潰しながら歩く。
『はっははははッ。笑えるッ。腕力もッ、剣力もアタイと並ぶッ。はっははははッ。拾ったかいがあったッ』
 オオミホメがミカヅチヲの両腕を攫む。強く、強く、強く攫む。燃えあがる女神の神威がミカヅチヲの体を流れる。凍りつく神威が溶ける。ミカヅチヲの顔色が変わる。
『オオミホメ様。鬼神は祓っておきました』
『うむッ。褒美だッ。祝い酒だッ。焔と屍はアタイを笑わせてくれるッ。笑えるッ。はっははははッ。笑えッ。焔と屍を肴にッ、酒を吞めッ』



 火山活動でできた島根半島は砂鉄が採れる。いや、火山活動でできた日本列島は全国各地で砂鉄が採れる。島根半島は玄海(玄界灘)からの青潮(黒潮の分流の対馬海流)で大陸や朝鮮半島の物や人が流れてくる。異なる文化や新しい技術を齎す異装の一族がやってくる。

 出雲国は製鉄と交易で栄えた。
 出雲国は出雲郡を中心に、妻木晩田遺跡、竹ヶ崎遺跡、柳遺跡の鉄器が見つかった東域の古きオウ族と、荒神谷遺跡、加茂岩倉遺跡の青銅器が見つかった西域の新しきカムド族が合議で治めてた。
 杵築神社に神門(鳥居)を献じたカムド族。杵築神社のほんとうの祭神は古の蛇神。
 オオクニヌシの率いるカムド族は、ミナカタヌシの一族とともに神門郡古志郷に移った。比布智神社の社伝で、高志国出自と伝える。
 オウ族の砂鉄の採鉄と製鉄、カムド族の朝鮮半島や大陸の交易で出雲国は大国となった。カムド族は北陸道の高志国(のちに越前国・越中国・越後国)、山陰道の丹波国(のちに丹波国・但馬国・丹後国)、因幡国、伯耆国、石見国と姻戚関係で結ばれた。
 カムド族の権力が強まり、オウ族とカムド族の関係が崩れはじめたとき、オウ族に異装の一族が訪れた。異装の一族は大和国を治めたという。異装の一族の長の代役が、友好の手を差しだした。
 オウ族は、異装の一族に順うホヒ族と、順わない一族に別れた。

 出雲国の国譲神話で、オオクニヌシは異装の一族に大和国(畿内5国)は譲ったが、出雲国は譲ってない。
 カムド族とホヒ族の内戦が起きた。異装の一族の武力でホヒ族が勝った。戦地は山崎ヶ丘(久那子の岡)のあたり。つまりカムド族は圧倒的武力に圧され、本拠地で負けた。ホヒ族がイヅモ族を名のり、出雲国を治めた。出雲国は大和国の統治下となった。
 ホヒ族はオオクニヌシを杵築神社に祀りあげた。
 小さな無名な杵築神社は867年に熊野大社と同じ神階の、大きな杵築大社となり、1871年に有名な出雲大社となった。
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