112 将星のキリン

文字数 1,758文字



 後方でなんかぶつかる音。
 振り返る。須佐之男神社の鳥居に鎖が絡まってる。
 音とともにワカフツヌシさんが私の前に出る。
 絡まった鎖を辿ると鎖鎌のような曲剣。曲剣の柄頭についた鎖をいそいそとたぐる緑色の神衣でなく、金色の神衣のアマノクメ組ツツノヲ三男神の1柱。
「キキキぃ。まちがったぁ」まちがったようだ。
 笑いかたが変わったけれど、アホの男神(阿房の入墨の男神)だ。
 住吉神社の祭神のツツノヲ三男神。ツツノヲの語源は、定説は津(港)を護る神様説。玄海(玄界灘)や瀬戸内海の津波(潮流)は操船が難しいので航海を護る神様説。夕星(ユウヅツ)で、のちにオリオン座の参星の神格化として夜間の航海を護る神様説。
 なんと星神か。
 数多の星があるならば、星神もカガセヲやアマノミナカヌシだけでない。
 ツツノヲの語源は諸説があってわからない。だけどツツノヲ三男神の額に莫迦、阿房、肉の入墨が彫られた理由はわかる。イヅメの趣味だ。莫迦、阿房はなんとなくわかる。だけど肉はわからない。イヅメの趣味か。肉食系女神か。
 アホの男神が改めて鎖を回す。
 ワカフツヌシさんが剣を構える。がっちりとした体に、ぴっちりとした迷彩色のカットソーとカーゴパンツ。スキンヘッドに迷彩色のバンダナ。タカヒメの趣味だ。
「ネビュラぁチェーン」鎖を放つ。
 技名が気になる。生きたような鎖が鳥居を抜け、私達を襲う。
「ワカフツヌシさん」
「はい、ツクヨミ様、退いてください」

 私達の1mくらい前を、うねうねと鎖が畝ってる。
「たりなかったようね」憐れむ。
「はい、たりなかったようです」憐れむ。
「キキキぃ。たりなかったぁ」悔やむ。
 しょせんはニセモノだ。
 いそいそと鎖をたぐる。アホの男神は鎖を左手に、鎌のような曲剣を右手に構えながら、ゆっくりと歩いてくる。なにもなかったように、不敵に笑いながら。
「キキキぃ。イヅメ様の下命でぇ、オジャマ虫を潰すぅ」

「1柱で、8柱と戦えるの」
 私の両隣にオオクニヌシさん、ワカヒコくん。前方にワカフツヌシさん、後方にスサノヲさん、カゲヒコさん。さらに戦えないけれど、ワカヒコくんの持つ防具袋にクエビコさん、いまだ小さいけれど、私の頭上にキューピーちゃん。多勢に無勢だ。卑怯といえば卑怯だ。ただ、私達は悪くない。
 私達は正しい。主役という正義がある。戦隊モノはチームワークだ。
「キキキぃ。1柱じゃないぃ。クメ水軍にぃ、アマノクメ組にぃ三組頭ありぃ。さらにアマノクメ組108組でぇ最強のぉ5組頭ありぃ。5組頭の名はぁ、南斗ぉ六星隊ぃ」
「「「「ナントロクセイタイっ」」」」
 どこからかハモリが聞こえる。周囲を見わたす。こんな強引な展開はまさに、……。
 社務所の陰から1柱、柳川公園の遊具の陰から1柱、道路の電柱の陰から1柱、道路に停まってる車の陰から1柱と現れ、走ってくる。
「仁星のホワイトタイガアっ」白色の神衣が、虎っぽいポーズで叫ぶ。
「妖星のバーミリオンバードっ」赤色の神衣が、雀っぽいポーズで叫ぶ。かわいい。
「義星のブルードラゴンっ」赤色の神衣が、なんとなくだけど龍っぽいポーズで叫ぶ。
「殉星のブラックトータス」黒色の神衣が、よくわからないけれど亀と蛇っぽいポーズでコソッと言う。本人(本神)も気にしてるらしく、叫ばない。
 鳥居前の公園に横一列に並ぶ。そしてちょっと空いた中央の隙間に、後方からゆっくりと歩いてくるアホの男神が立つ。計ったようなタイミング。まさに戦隊モノ。
「ナカノヲを改めぇ、アホノヲを改めぇ、将星のキリン」
 麒麟っぽいポーズで叫ぶ。すでにジェスチャーゲームだ。

「額にマジックで虎、雀、龍、亀と蛇か。なんか出オチっぽい展開ね」憐れむ。
「はい、出オチっぽい展開です」憐れむ。



 北斗七星に対する南斗六星。射手座のλ星、φ星、σ星、τ星、ζ星、μ星でなる。
 道教で、北斗七星の神格化の北斗星君は醜い老き姿で、厳格な性格。死を司る。南斗六星の神格化の南斗星君は美しい若き姿で、温和な性格。生を司る。
 北斗星君の別名は北斗真君。まずは北斗星君が創られ、南斗星君が創られる。
 北斗星君は、のちに北極星の神格化の天皇大帝と同神となる。北極星と北斗七星。
 動かない星と、護る星。避けられない死と、避けたい願望。生きたい願望。

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