108 フツの剣の&C(.)・前篇

文字数 3,313文字



 今の島根県出雲市は、昔の出雲国簸川郡、大昔の出雲郡、神門郡、楯縫郡の3郡。カムド族の治めた出雲国西域。オウ族の治めた出雲国東域の、昔の意宇郡も楯縫郷がある。今の島根県安来市。ゲゲゲの女房と安来節で有名。
 出雲国の神話で、ワカフツヌシさんが高天原の巨石で縫った天石楯を葦原ノ中ツ国(出雲国)に置いたという。ワカフツヌシ(フツヌシ)さんを祀る、昔の意宇郡楯縫郷(今の安来市宇賀荘町)の嵩神社に天石楯(巨石)がある。じつは出雲国にワカフツヌシさんを祀る神社が多い。
 出雲国の神話で、オオクニヌシさんと契を交わして義親子となったホヒヒコとワカフツヌシさん。ホヒヒコとともにワカフツヌシさんはオオクニヌシさんを鎮める。出雲大社の本殿に、オオクニヌシさん、別天ツ神5柱、そしてワカフツヌシさんを祀る。
 前方のワカフツヌシさんを見る。

 ミカヅチヲとともに、神話でワカフツヌシさんは葦原ノ中ツ国の平国神。史話で東国の平国神。鹿島灘にミカヅチヲの祀る鹿島神宮と、ワカフツヌシを祀る香取神宮が建つ。
 私達の実話で、高天原の最強剣神ミカフツヲ。古の戦のまえ、天ツ軍進軍に疑問を感じながら斥候として出雲国に降りる。オオクニヌシさんと遇い、国ツ神フツヌシ、のちにワカフツヌシとなる。タカヒメの随神となる。



 1種の剣、沖ツ鏡、辺ツ鏡の2種の鏡、蛇ノ比礼、蜂ノ比礼、品物比礼の3種の比礼、生玉、死反玉、足玉、道反玉の4種の玉でなる十種神宝。一説に玉の神格化が布留御魂大神、剣の神格化が布都御魂大神という。フルは玉(魂)を振るさま、フツは剣で斬るさまを表す。つまり死と再生を表す。石上神宮の宮伝で、4種の玉を振りながら、布瑠の神言を唱えると、病人が治り、死人が蘇ると伝える。鎮魂祭の祭具。
 十種神宝の剣は拳8つぶんの剣身で、八握剣(八拳剣/八束剣)。のちに名をクサナギの剣、またはムラクモの剣と付けられる。やっぱミカヅチヲの佩剣がシンの神剣か。
「スサノヲさんのハバキリの剣も、イザナギのヲハバリの剣も、神話で十握剣(十拳剣/十束剣)。のちに名を付けられる。名が大事か」スマホを弄る。
「そ、そうだ。オレも名を付けられなかったら、タダのカカシ、だ」
「喋るカカシ。名で神威が宿り、神威で神剣となる。言霊信仰」
 グーフィーと、ペットのプルートか。警察犬のプルートはミッキーマウスのペットだったり、ミニーマウスのペットだったり、ドナルドダックやグーフィーのペットだったり。ようはタダの犬。
「そういえば、なんでオオクニヌシさんが、いや、カミムスヒさまが品物比礼を持ってるの。神話で、オオクニヌシさんは蛇ノ比礼、蜂ノ比礼も持ってる。たしか、……」
「カミムスヒ様、そう、カミムスヒ様に戴いたのです」
 オオクニヌシさんが私のスマホを弄る指を抑える。なんで。



 ニギハヤヒの後裔一族は全国の叛乱監視を行う。とくに西海道、山陰道、北陸道を結ぶ筑紫国、出雲国、丹波国、高志国。そして吉備国、播磨国、近江国。製鉄、鍛冶技術で国力を高め、鉄の国となる。強国となる。強国の叛乱の監視と鎮圧のため武具庫が建てられ、のちに石上神宮の分祀の物部神社と変わる。
 さらに石上神宮の奉仕がニギハヤヒの後裔一族から藤原氏族へと替わり、鎮魂祭も藤原氏族が司る。768年に藤原不比等の孫の藤原永手が春日神社(春日大社)を建てる。春日神をミカヅチヲとして祀る。平城京の護り神はミカヅチヲの佩剣から佩びるミカヅチヲへと替わる。
 史話(日本書紀)で、国譲はワカフツヌシさんとミカヅチヲがやってくる。神話(古事記)で、国譲はワカフツヌシさんはミカヅチヲの佩剣となり、やってくる。
 ということはワカフツヌシさんは、……。前方のワカフツヌシさんを見つめる。
 769年に宇佐神宮の神言事件が起き、770年に天武系皇統から天智系皇統へと変わる。桓武天皇は藤原氏族の娘を娶り、色々とあって794年に平安京に遷る。藤原氏族の娘に唆され、804年に石上神宮の神剣を手にいれる。
 色々とあって806年に亡くなる。神剣の祟り。
 崇神天皇も、天武天皇も、桓武天皇も、神剣の祟り。

 一説にワカフツヌシさんは牛飼(牽牛)の神様という。出雲国の神話で、イヅモ族の長は亡くなくなると牛車に乗せ、菱根池に沈めたという。沈めて眠る。亡くならず、眠る。
 出雲平野(稲佐の浜)は、大昔は神門水海。神門水海と宍道湖と中海は繋がり、今の島根半島は、大昔は島。嶋根の島。神門水海も、菱根池もなくなり、神西湖だけが残る。



「い、古の戦の、西の戦でミカヅチヲの佩びた剣、東の戦でタカクラジの授かった剣。平国(クニムケ)の剣。のちにジトウ(持統天皇)が、テ、テンム(天武天皇)の佩びた剣の名を付けた」
「石上神宮に祀られた剣にクサナギの剣と名を付け、宮中に、神宮に、熱田神宮に遷ったということか」
「そ、そうだ」

[平]の字源は于(斧)で木を削り、八(木片)の飛び散る象形文字。たいらにする。たいらげる。または水面に浮く水草の象形文字。苹、萍の原字。たいらになる。
 たいらにする。たいらになる。つまり治める、治まる。
 かつて漁撈や狩猟や採集の時代から農耕(稲作)の時代へと変わる。土地は神様のものから人のものへとなる。定住化。だけど平地は30%だけの日本国土。山を崩し、海、池沼や湖を埋め、森を墾き、農地を広げる。やがて農具は武具となり、他人の土地を奪う。
 たいらげる。たいらにする。
 ワカフツヌシさんの別名はイワイヌシ(斎主)。神話で、平国後、順い、国を譲った国ツ神を誉めたという。順わず、死んだ国ツ神を弔い、祀ったという。たいらになる。

 神在祭のため建てた万九千神社。イヅモ族が奉じる。近所に、カムド族を祀りあげた荒神谷遺跡と加茂岩倉遺跡がある。荒神谷遺跡で銅鐸6口、銅矛16振、銅剣358振が見つかる。加茂岩倉遺跡で銅鐸39口が見つかる。ともに整然と並べ埋められる。
 矛と剣は戦だからなんとなくわかる。鐸は戦で鳴らすのか。
 鐸の原形は古代中国の鐘(扁鐘)。一説に和睦や誓約で鳴らしたという。とくに鎮圧後の和睦、国譲(領地の献上)時の誓約で鳴らす。
 鎮圧も、国譲も恨み、妬み、嫉みが伴う。穢れ、祟りを齎し、やがて禍い(災い)を起こす。再び謀叛や叛乱を起こす。古代中国の鐘も、鐸も穢れを浄め、祟りを鎮める。
 嶋根の島の佐太神社から神門水海を渡って嵩神社。神門水海に沿って売豆紀神社、多賀神社(朝酌下・朝酌上神社)、神原神社、朝山神社、万九千神社。
 神話で、ワカフツヌシさんは順わず、逆らった国ツ神を斬り殺し、祟らないよう、蘇らないよう、弔い、祀りあげたという。前方のワカフツヌシさんを見つめる。
 ワカフツヌシさんの本望がわからない。神話で書かれてない。
「国ツ神を斬り殺し、弔い、祀りあげる平国の剣の神様、か」
 オオクニヌシさんに聞こえないよう私は独り言ちる。
 全国の兵主神社の銅鐸も、諏訪大社の鉄鐸もオオクニヌシさんやミナカタヌシさんの祟りを鎮めるため。

 ついで。鐸も、墓も小さな日本列島にやってくると、なぜか大きくなる。国土の30%だけの平地に埋める、建てる。穢れや祟りが大きいほど鐸も墓も大きくなるらしい。
 昔の鐸は今の鈴。天ノ岩屋神話で店長の妻神が持った祭具の鈴。鈴の音で心を浄める。



 私達の実話で、タカクラジさんは平国の剣をヤマトのアヤ族のため、ニギハヤヒでなく、天ツ軍に渡す。平和的平国を願ったんだろうか。平和的平国ってあるんだろうか。
 なんでミカヅチヲはタカクラジさんに授けたんだろうか。ミカヅチヲの渇望も、タカクラジさんの切望も、ニギハヤヒの欲望もわからない。神話や史話で書かれてない。
「やっぱニギハヤヒに訊くしかない」
「そうですね」
 国ツ軍を率いる女将ツクヨミの、国ツ神を正しいほうへ導く女神ツクヨミの私が神話や史話で書かれてない事実を明かす。

[望]の字源は背のびしながら目を開き、遠方をのぞむさまの会意&形声文字。字意は見わたす、見あげる。願う。憂う。恨む。そしてなぜか満月。

 だけど物語の展望がわからない。月神の、私の希望は叶わないのか。
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