10 鬼と鬼門と

文字数 2,288文字



 蝦夷はふたつの語意がある。
 古代、遠い東国の先住人。とくに奥羽地方(陸奥国と出羽国)に住む人。蝦夷(エミシ)、東夷と呼ばれた。
 古代中国で、中華の漢族に順わない、服わない四方に住む蕃族は東夷、北狄、西戎、南蛮と呼ばれた。昔の朝鮮半島、日本列島に住む蕃族も東夷と呼ばれた。今の朝鮮半島、日本列島もヨーロッパやアメリカに儘ならない極東と呼ばれる。
 なんで東へ征東軍は征討を進めるのか。なんで東国を平らげるのか。
 理由はわからないけれど、征東はずっとあった。
 初代神武天皇の時代の道臣命、10代崇神天皇の時代の四道将軍と豊城命、12代景行天皇の時代の倭建命。そして49代光仁天皇の時代の大伴弟麻呂で始まる征夷大将軍。征夷大将軍の称号は鎌倉幕府、室町幕府、江戸幕府の長へ継がれる。権威を以って正当(正統)な権力者という称号。

 ゴー・イーストは、じつは覇権の世界的合言葉。みんな東へ東へ。地磁による絶対的方位の南北と違い、東西は相対的方位。東は日が昇る方位。果てしない。理由はわからないけれど、なぜかみんな東へ東へ。ゴー・イースト。
 日高見国を求めて東へ東へ。肥えた地を求めて東へ東へ。日を追って、日神を求めて東へ東へ。賜った稲穂を持って東へ東へ。ゴー・イースト。
「なんかくだらない」
 やがて征東軍は北征を進める。東方は海だから北方へ進む。
 かつて日本列島はジパング、扶桑国と呼ばれた。つまりとどのつまり。
 近代、北海道の先住人を蝦夷(エゾ)と呼んだ。
 のちにアイヌ族と呼ぶ。アイヌ語でアイヌは人。人は、じぶんと異なる他人に名をつけたがる。異なる肌の色、異なる言語、異なる服装。じぶんと異なる他人という名で呼ぶ。
「ヲ、ヲシマ(渡嶋国)を平らげたのは、明治の時代。つ、つい、最近だ」
 1869年、蝦夷の国は北海道と呼ばれる。



 古代中国の占術で用いる八卦。北東の艮(丑寅)。陰陽道で鬼の現れる方位。鬼門。陰陽道は、古代中国の陰陽五行説に、道教、佛教、そして神道が合わさった占術。悪日、悪方を占い、祓う。古代中国の神話を編んだ山海経。北東に鬼の通る門があり、鬼が通らないように桃を植える良い、とある。鬼門の理由。だけど山海経に、鬼の通る門が北東にある理由は書かれてない。
 艮で牛の角に虎の褌。さて、金棒はなぜか。はじめ樫などの硬い木で作られた砕棒は、のちに鉄板に巻かれて金砕棒(金棒)となる。地殻の約5%が鉄。南北を決めるのは地磁。鉄の力。勝敗を決めるのは腕力と筋力と、鉄の力。
 さらに陰陽道で理由はわからないけれど、南西の坤(未申)に裏鬼門(人門)があり、やはり鬼が現れる、とある。

 川に流され、山から里へと下りてきた大きな桃。嫗が掬い上げ、持ち帰る。切ると童が現れる。元の話は桃を食べた翁と嫗が若がえり、童を産む。そして童は猿、雉、犬を従え、鬼ヶ島へ向かう。坤の羊(未)と猿(申)でなく、猿、雉(酉)、犬(戌)が選ばれた理由はわからない。鬼を倒し、悪行で得た財宝を奪う。
 だけど童も、翁や嫗も、鬼の悪行の被害を受けてない。つまり鬼の悪行を罰する目的でなく、財宝を奪い、育ててくれた翁と嫗にあげる目的。だいたい、悪行で得た財宝だろうか。鬼は悪行を行なっただろうか。
 黄泉比良坂で、イザナギは追ってくる黄泉神を祓うために植ってた桃を投げつける。無事に祓えたので、桃に人が困ってたら助けてやってくれ、という。大神実命。

 さらに陰陽道で理由はわからないけれど、北西の乾(戌亥)に天門があり、魑魅魍魎が現れる、とある。大和国の北東に東国、南西に吉備国、北西に出雲国がある。
 さらにさらに南東の巽(辰巳)に地門があり、まだ、なにも現れてない。現れる前に陰陽道が廃れてしまう。連載終了。設定は生かされず、打切となる。
 大和国の南東は海。海の彼方に海の底ノ国、黄泉国がある。修羅の国がある。
 スマホを弄る。屋敷神は北西に祀ると良い。……なんでだろう。

 天門に魑魅魍魎が現れる前は、北西は祖霊(祖神)が眠ってた。祖霊信仰。

『か、観音菩薩のいる浄国(補陀落浄土)は南方だが、阿弥陀佛のいる浄国(極楽浄土)は西方だ。ひ、日の沈む、日神の眠る海の彼方に、阿弥陀佛がいる。つ、つまりイヅモの海の彼方だ。ヒの崎(日御碕)にヒの社(日御碕神社)がある。オオクニの、キヅキの大社(おおやしろ)に、て、天台宗の寺があった。蕃神(トナリノクニノカミ)の説く浄国は海の西方、つ、青潮の彼方にある。潮で流されてくるのは、客神(マラウドノカミ)であったり、ま、客人(マラヒト)であったり、珍しいモノであったり。スクナヒコも流されてきた。い、古の戦でイナサの浜(伊耶佐の浜)に、あ、天ツ軍が流されてきた。笑える』

 前にクエビコさんが言ってた。

 春分と秋分は、日は真東から昇り、真西へと沈む。春分の日と秋分の日の前後3日(7日間)に天門が開くため、西方の極楽浄土を拝む。彼岸会。じつは日本だけの佛教行事。昼夜の中間、東西は南北の中間、つまり中道という佛教的思考と、日神信仰、祖霊信仰が合わさった行事。日本の佛教は浄土信仰というくらい浄土が好き。
「だから屋敷神の憑く巨岩や高木は北西にあるんだ」
 できれば、巨岩は山神の隠れる山の、巨岩が良い。
「えーとなんだっけ。……そう、子犬や子猫にトイレを教える方法」



「天ツ神の治める中ツ国は狭いよね。昔は畿内5国でしょう。今の近畿地方よりも狭いんでしょう」
「よ、世は狭い。狭い世で、己が正当(正統)と、さ、叫んでも、東国に聞こえない。聞こえても、き、聞いてくれない。だから武力で、聞かせる」
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