94 リズムに合わせた草奈伎神社・前篇

文字数 2,367文字



 40代天武天皇と后(のちの41代持統天皇)は、神話により神道を整え、伊勢国に建てた神宮により神社を整え、祀った祭神(高天原の日神)により神統を整える。
 そして明治維新。政権は江戸幕府から明治政府へと移る。大政奉還。
 明治政府は、神話により神道を整え、伊勢国の神宮により神社を整え、祭神(高天原の日神)により神統を整える。
 神話に出ない八幡神は皇祖神になれない。まして蕃神。高天原の日神は天武系皇統の皇祖神。明治政府はさらに神話の上書保存を行う。改めて高天原の日神は天智系皇統の皇祖神となる。わりきれないけれど明治天皇は神宮に奉じる。
 国を平らげるための、人を治めるための新たな権威の力。
 空間だけでなく時間までも治める超越な、隠然な存在の威力。人の力が及ぼない絶対な存在の威力。人が畏まる大いなる存在の威力。
 神様の威力、神威の畏怖と畏敬のリユース。リサイクル。

『し、神威。高天原を統べ治める日神の神威、だ。己は日神の神威を継ぐゆえ、葦原ノ中ツ国も、永遠に統べ治める正当(正統)な権威もあると、の、曰った』

『前も話したが、社(ヤシロ)は、農耕、稲作の時代にできたムラ社会の集会場だ。と、当然、祀られるのは農地の、護り神。つまり日神』

 人は神威に、神様の威力に畏まる。神威を以て正当(正統)な権力者と成る。
 明治政府は、神社合祀を行う。たくさんの神社がまとめられ、たくさんの祭神が高天原の日神と変る。ただし日の神格化でなく、日の本の国の神格化の日神と成る。
 国体のため、多数のサルが必要となる。国土(領地)を広げるため、隣のサルの国土を奪うため、多数のサルが必要となる。国民教化による国体強化で国家ができる。



 ムラクモの剣を祀りあげた熱田神宮。クサナギの剣を祀った真清田神社。だけど景行天皇が倭建を討ったとき、クサナギの剣も熱田神宮で祀りあげられた。
 熱田神宮の前は、勝者の佩剣のクサナギの剣は氷上姉子神社に奉じられた。かつてミヤヒメが倭建(ホノアカリ)とともに暮らした愛智郡成海郷氷上(火上/ホノカミ)村。伊勢海は色々な海人族の領海。岬の先端に、ヲハリ族の領域を知らせるために燎を灯した。ミヤヒメが火明命(ホノアカリ)とともに暮らした火上(ホノカミ)村。
 ミヤヒメは倭建の死後、クサナギの剣を敗者の佩剣として祀りあげるため、熱田神宮の土用殿に遷した。のちに熱田神宮は尾張造から神宮の神明造へと造り変えられ、本殿に2振の神剣が祀りあげられた。

 神話で、倭建の佩剣は景行天皇が授けた比比羅木之八尋鉾とある。雲紋(叢雲紋様)と草紋(蔓草紋様)の刻まれた剣(鉾)。雲紋のムラクモの剣と、草紋のクサナギの剣が合わさったデザイン。比比羅木(ヒヒラキ)は、柊で、柊の葉のように棘のある長い剣。柊は鬼を祓う。または開き木で、剣身がふたつに別れた(開いた)長い剣。雲紋の剣と草紋の剣。2振の剣を縛り、祀りあげられた。

『レ、レガリア(統治権)は、勝者と敗者の2振の神剣で、なる。勝者の佩剣の霊威が、敗者の佩剣の霊威を鎮める。だが、敗者の佩剣に祟られる権力者、罪悪感を感じる権力者は、の、脳髄が弱すぎる。御霊信仰は、弱い権力者のいいわけ』

「クエビコさん。出雲建(カムド族)の佩剣は熱田神宮に祀りあげられた。討った倭建の佩剣は真清田神社に祀った。そして2振の剣を縛り、熱田神宮に祀りあげられた。わかった。じゃあ八岐大蛇(オウ族)の佩剣は、どこに祀りあげられたんだろう」



 1185年。宮中のレプリカの神剣は、壇ノ浦合戦(源平合戦)で海に沈んだ。改めて外宮の神剣のレプリカを作り、献じられた。

 つまりホンモノの神剣は熱田神宮でなく、いまだ神宮に祀る。
 外宮の摂社1位の草奈伎神社。同社地に2位の大間国生神社が建ち、大間国生神社のうち大間社はアマのムラクモの子を祀る。外宮に奉じる一族の祖神。国生社は弟を祀る。
 神話で、10代崇神天皇の時代に四道将軍のオホヒコが高志国平国を行う。そして伊勢国の神話で、11代垂仁天皇の時代に高志国で叛乱が起き、大間国生神社の祭神が平国を行う。佩剣は草奈伎神社に奉じられる。神話で、12代景行天皇の時代に初代斎王の倭姫が倭建にクサナギの剣を授ける。
「アマのムラクモの子の佩剣がクサナギの剣か。なんかデキスギくん」スマホを弄る。
「し、神話は同じ話、似た話が多い。タカクラジも、コシ(高志国)の平国神話がある。とくにコシの平国神話は、お、多い」
「高志国は強国だからか。オウ族も、カムド族も高志国出自だからか。熱田神宮と神宮に奉じられた2振の神剣。ホンモノの神剣は……」
「ホ、ホンモノも、ニセモノも、神剣はない。弱者の、敗者の佩剣(ムラクモの剣)と、強者の、勝者の佩剣(クサナギの剣)が、あ、あるだけ。ヤマトタケルの佩剣も、敗者の佩剣として祀りあげなおす。だから遷す」

『じゃ、蛇神を奇し薙ぐ剣(クサナギの剣)。蛇神を斬る剣(ハバキリの剣)と同じ勝者の佩剣だ。き、機を以て機を奪い、毒を以て毒を、せ、攻む』
『蛇の剣を以て蛇の剣を制す。敗者の佩剣(ムラクモの剣)と勝者の佩剣(クサナギの剣)は別の剣。たしか天孫降臨神話で、ホノニニギが賜った神剣の名はクサナギの剣とある。つまり倭建が相模国焼津で草を薙ぎ払う前からも、クサナギの剣』

 クエビコさんの目の処の[の]の字がキラリと光る。担いでるからわからないけれど。「は、佩剣に神威があったから勝ったわけでない。だが、佩剣に神威がなかったから負けたわけだ。運(神威)も実力のうちだ。国ツ軍に運がなかったから、ま、負けたわけだ」
「軍師が運なんて言わないでよ」
「ざ、戯言だ。前も話したが、国ツ神は戦を好まない。天ツ神も蕃神(トナリノクニノカミ)も戦を好む。戦歴で、戦果は決まる。う、運は決まる」
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