82 ハッピーなカラス・前篇

文字数 2,578文字



 ヤタノカラスはわからない。
 なんでホヒヒコや八幡神やナグサヒコと関わるのか。なんでホヒのカモ族の長となるのか。なんでコトシロヌシさんやオオモノヌシ(トミビコさん)と関わるのか。神話で、タカミムスヒに命じられて神武天皇を導いたけれど、神武天皇の義祖父となったけれど、なんで出自はわからないのか。熊野三山の神札、JFAのシンボルで有名となったけれど、なんで無名なのか。わからない。

 三島鴨神社の近所に淀川支川の安威川が流れ、川岸に溝咋神社が建つ。主神は、神話でコトシロヌシさんに、またはオオモノヌシに娶られたヤタノカラスの娘と、のちに神武天皇に娶られた子娘ホトヒメ。随神はヤタノカラス(溝咋耳命/三嶋溝杭耳命)。溝咋耳命は暴れ川の安威川の水神を鎮める一族の長の神格化。三嶋溝杭耳命は三嶋の神様を鎮める一族の長の神格化。三嶋の神様はオオヤマツミか、コトシロヌシさんか。



 壬申の乱で天武天皇に随ったカモ族。天武天皇は賀茂別雷神社と賀茂御祖神社の賀茂二社の創建に関わる。だけど天智系皇統に復した桓武天皇はカモ族を排する。
 桓武天皇は天武系皇統の大和国を離れ、山城国へ宮所(宮都)を遷す。長岡京。だけど飢饉、疫病が続き、改めて宮所を遷す。平安京。
 ホヒのカモ族の本拠地は愛宕郡と葛野郡。のちに葛野郡はハタ族の本拠地となる。平安京は2郡に広がる。平安京は鴨川川上の賀茂二社の神様、川下のハタ族の奉じる松尾大社(松尾神社)の神様に護られる。賀茂二社の神様は賀茂大神。

 松尾大社の神様は松尾山の山神、大山咋神。天智天皇の宮所(近江大津宮)を護った日吉大社(日枝神社/日吉神社)の日枝山の山神と同神だ。まあ、護れなかったけれど。
 日枝山に天台宗が開かれ、比叡山延暦寺の佛様とともに天智系皇統の宮所を護る。平安京の鬼門は延暦寺と日吉大社、裏鬼門は宇佐神宮の分祀の石清水八幡宮が護る。

 ……あれ、ヤタノカラスは出てこない。
 いつのまにかホヒのカモ族の長となり、いつのまにか賀茂御祖神社の神様となり、いつのまにか平安京の護り神の賀茂大神となるヤタノカラス。
 神話で、ヤタノカラスはタカミムスヒに命じられて神武天皇を導いたとある。山城国の神話で、ヤタノカラスは一部のカモ族を随え、高鴨神社から岡田鴨神社、久我神社(久何神社)、賀茂御祖神社へと移ったとある。
「そういえば。クエビコさん、なんでオオクニヌシさんはオウ族を畿内各地に住ませたんだろう。トミ族を護るためと思ってたんだけど。あと、なんで檜隈の姫はオウ族を追いだしたんだろう。オオクニヌシさんと仲は良かったんだよね」
「オ、オレもあとで、気づいた」

『トミビコに言ってませんが、アスカ、ミワ、ウダ、ヨシノ、そしてミシマにオウ族を移しました。すでにアヤ族は黙らせました。ヤマトは中ツ国の中心となる国です。護らなければなりません』

「オ、オレもヤマトを護るためと思ってた。だが、天ツ軍侵攻前にオオクニは金砂(カナスナ)、朱砂(アカスナ)を採ってた。檜隈の姫は、製鉄権はオオクニに譲ったが、採鉄権は、ゆ、譲らなかった。サダヒコは無意識下の予知。オオクニは無意識下の予想。カツラギもオウ族を移してた。オオクニは山師、あ、穴師だからな」
「まあ、砂鉄の採鉄と製鉄技術で出雲国は大国となったけれど」
 オオクニヌシさんの別人格(別神格)のナムヂさんがやったんだろうか、オオクニヌシと名のる前のナモチさんがやったんだろうか、いや、オオクニヌシさんの本性は妻帯腹黒鉄仮面神。やりかねない。だけど飛鳥の地は檜隈の姫が治めた地。大和国はトミビコさんが治めた国。採鉄権はオオクニヌシさんのものでなく、トミビコさんのもの、檜隈の姫のもの。やっぱ無意識下であろうと罪だ。
 とりあえず鉄を制する国主が、葦原ノ中ツ国を制する。



 奈良盆地(大和盆地)は、大昔は盆地湖、大和湖。湖岸に葦原が広がり、鈴石(褐鉄鉱石)が採れた。湿原となり、たつた揚げに関わる龍田川、ヤマトのアヤ族に関わる飛鳥川、ヲハリ族に関わる葛城川、トミ族に関わる富雄川などが流れ、合わさって大和川となる。大和川は河内国と大和国の国境に聳える生駒山と金剛山。狭間の、東の本陣のあった大和国龍田を通り、大阪平野(河内平野)へ流れる。昔は大和国で砂鉄(磁鉄鉱石)が採れた。飛鳥川と葛城川で川砂鉄が、三輪山で山砂鉄が採れた。ニウヒメに関わる吉野川で丹砂(赤色硫化水銀)が採れた。
 飛鳥の地の北方に、耳成山とともに大和三山と呼ばれる畝傍山と香具山。畝傍山は山稜が火のように畝ってるので畝火山、香具山は天から降り立ったので天香具山。ともに祭祀遺跡と製鉄遺跡がある。

 大阪平野も、昔は盆地湖、河内湖。大昔は河内湾。河内湾の湾岸に、河内湖の湖岸に葦原が広がり、鈴石が採れた。
 琵琶湖からの唯一の流出川、宇治川。京都盆地(山城盆地)を流れ、大阪平野で大和川と合わさり、木津川と桂川(葛野川)と合わさって淀川となり、大阪湾(難波ノ海)へ流れでる。
 淀川と木津川と桂川の三川合流地。土砂が溜ってできた洲処。岡田鴨神社と久我神社が建つ。大阪湾の川口の洲処、御島。三島鴨神社が建つ。砂鉄の集積場。採鉄の集会場。
 やがて製鉄原料は鈴石から砂鉄へと変わる。鉄分の含んだ川水が葦原の根元で鈴石に成るのを待てない。鈴石は採り尽くす。
 意宇ノ海(宍道湖)の鈴石を採り尽くしたオオクニヌシさん。大和湖、河内湖の鈴石も採り尽くす。焦ったとき、砂鉄と、オウ族の採鉄と製鉄技術を知る。鉄穴流しとタタラ製鉄。そして鍛冶技術。砂鉄の採れる各地にオウ族を移す。
 出雲国の国引神話。オウ族(八岐大蛇)は高志国出自。
 スサノヲさんの佩剣の、ハバキリの剣が毀れるほどの硬度な鉄剣。ハバキリの剣はカムド族が鍛えた鉄剣。ムラクモの剣はオウ族が鍛えた鉄剣。雲紋(叢雲紋様)の刻まれたムラクモの剣。鬼を祓う剣。
 天武天皇が、近江国の鍛冶族が、欲した神剣。ハタ族も欲した神剣。

  そして。

『レ、レガリア(統治権)は、勝者と敗者の2振の神剣で、なる。勝者の佩剣の霊威が、敗者の佩剣の霊威を鎮める。だが、敗者の佩剣に祟られる権力者、罪悪感を感じる権力者は、の、脳髄が弱すぎる。御霊信仰は、弱い権力者のいいわけ』

 草紋(蔓草紋様)の刻まれたクサナギの剣は、だれの佩剣か。
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