47 ゲヒンな男神

文字数 1,576文字



「ウン、ツクヨミ、やーとオレに嫁ぐ気になったか」
 右目に眼帯を付けた、隻眼の巨躯の神様。だからイチメヒコか。
 多度大社の本宮と、別宮の一目連神社へ続く於葺門の前でカゲヒコさんが迎える。
 巨躯というより、マッチョ。ランニングシャツに虎柄のニッカボッカ。肌は褐色に焼け、短髪。ヘルメットを被ったら、工事現場が合いそう。
 なるほど、ガテンか。
 熱った体に滲む汗を拭きながら近づく。
「アー、結婚式は盛大に行う。もちろん神前だ。式場に予約をいれよう。ウン、ダブルで祭神割引が使える。新婚旅行は伊勢湾フェリー。もちろん貸切だ、ウン。まずはナガシマスパーランドか、アー、新しくできたレゴランドか。つぎは鳥羽水族館、志摩スペイン村。アー、二見シーパラダイスはやめよう」
 笑いながら私に抱きつく。状況のわからないまま茫然と抱きしめられる。汗くさくないと、なぜか思ってしまう。
「ウン、祝い言は、結ぶ神のオオクニだ。アー、よろしくな」
 抱きしめながら、遅れてきたオオクニヌシさんに拳を差しだす。オオクニヌシさんも、状況のわからないまま茫然と拳を差しだし、合わせる。
 状況のわかったワカヒコくんが口を開く。
「やめ……」
 ズコーン。
 飛んできた長剣の柄頭に、カゲヒコさんは後頭を殴られる。摩りながら、飛んできた長剣を拾う。
「アー、爺さま、刺さったらどーする。ウン、剣神が大事な剣を投げるなんて、高天原最強の剣神ミカフツヲが知ったら怒る」
 スサノヲさんが歩いてくる。
「刺すつもりで投げた。残念だ、刺さらなくて。……姉神を離せ。姉神は記憶がない。姉神はオマエを覚えてない」
 スサノヲさんは抱きしめる腕を剥がす。カゲヒコさんは私を見やる。私は頷く。
「アー、そーなのか。婚約も覚えてないのか」
 スサノヲさんは長剣を奪う。柄頭でカゲヒコさんを殴る。
「姉神。案ずるな、婚約はしてない」
 なんか。スサノヲさんがスッキリとしてる。ふっきれたかんじ。
「アー、ずーとグチグチと言ってた爺さまが、なーんだ、つぎはヤキモチか。ウン。姉神、姉神とうるさい」
「オマエに嫁ぐくらいなら、な」
「ウン、くらい、なんだ」
「な、なんでもない。……姉神、疲れただろう。汚い処だが、休んでくれ」
「スサノヲさん、なんかスッキリとしたかんじ」
「ウン、毎晩毎晩、ツクヨミの夢を見ればな。アー、好々爺もスッキリもしたく……」
 ズゴーン。
 飛んできた太剣の柄頭に、カゲヒコさんは後頭を殴られる。摩りながら、飛んできた太剣を拾う。
「アー、ミカフツヲ、刺さったらどーする。ウン、高天原最強の剣神が大事な剣を投げるなんて、高天原最悪の剣神ミカヅチヲが知ったら怒る」
 ワカフツヌシさんが歩いてくる。
「いえ、刺すつもりで投げました。残念です、刺さらなくて。……ツクヨミさまに失礼です。同じく元・天ツ神として恥ずかしい」
 カゲヒコさんが横目で私を見る。
「だからマラノ……、いや、ダメ。」
 私はコホンと咳。ストップ下品なネタ。
 腐った頭を振る。マラノヲは、りっぱな神名。決して下品な神名でない。一説に[マラ]は隻眼。決して下品なネタでない。
「アー、ミカフツヲも元・天ツ神なのか」カゲヒコさんが剣を渡す。
「はい、ワタシは国ツ神ワカフツと神名を改め、ミカヅチヲの敵となりました」
「ウン、つまらん展開だ。アー、剣を変えたのか。かなり前に鍛えた剣だ」
 ワカフツヲさんが太剣を受けとる。
「あ、あいかわらず、テキトーな神、だ」
「アー、クエビコ。あいかわらず、ウン。カカシだ」
 カゲヒコさんはクエビコさんの布で作られた頭を攫み、高く掲げる。
「ウン、ノトの社は気にいってるんだ。アー、家賃を払うか、出て行け」
「わ、わかった。ミワの社の件が、か、かたづいたら出て行く」
 クエビコさんとカゲヒコさんのパターンの挨拶らしい。
 ちょっと、なにを言ってるかわからない。
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