102 勝者の剣のC&C

文字数 3,497文字



 神代三剣はミカヅチヲの佩剣、倭建の佩びたクサナギの剣、スサノヲさんの佩びたハバキリの剣。すべて勝者の剣。神剣。蛇神を斬り殺す剣。蛇の剣を以て蛇の剣を制す。すべて石上神宮にある。本物か偽物かわからないけれど。
 敗者の剣はムラクモの剣。ミカヅチヲに国を譲ったカムド族やオウのカモ族の長の佩剣だ。出雲建の佩剣。八岐大蛇の佩剣。出雲国、大和国、高志国のレガリア(統治権)。鍛冶族のレガリア(砂鉄の採鉄権)。

『ホ、ホンモノも、ニセモノも、神剣はない。弱者の、敗者の佩剣(ムラクモの剣)と、強者の、勝者の佩剣(クサナギの剣)が、あ、あるだけ。ヤマトタケルの佩剣も、敗者の佩剣として祀りあげなおす。だから遷す』

『ムラクモの剣はオウ族を遂い、カムド族を負かしたホヒ族が献じた剣。スサノヲさんの名で、強い酒を呑まして騙して殺して奪って献じた出雲国のレガリア(国魂)』

『近江国の鍛冶族も、オウ族(八岐大蛇)も高志国出自。オウ族の鍛えた鉄剣(ムラクモの剣)は鍛冶族の、国ツ神のレガリア。近江国の鍛冶族が欲したか』

 神話で、倭建の佩剣は景行天皇が授けた比比羅木之八尋鉾とある。雲紋(叢雲紋様)と草紋(蔓草紋様)の刻まれた剣(鉾)。雲が湧き上がる叢雲(八雲)の紋様のムラクモの剣と、曼い(長い)草の紋様のクサナギの剣が合わさったデザイン。
 比比羅木(ヒヒラキ)は、柊で、柊の葉のように棘のある長い剣。柊は鬼を祓う。または開き木で、剣身がふたつに別れた(開いた)長い剣。雲紋の剣と草紋の剣。2振の剣を縛り、祀りあげられた。スサノヲさんのハバキリの剣が毀れるほどの硬度な鉄剣。ムラクモの剣(統治権と採鉄権)は高天原の日神に献じられ、天孫神ホノニニギが賜る。倭建が授かり、火で鍛えてクサナギの剣と成る。
 タカヒメの佩剣は、短剣は、……草紋の蕨手刀、長剣は蛇行剣だ。たしかミナカタヌシさんに貰った、と思う。
 ワカヒコくんの佩剣は、……草紋だ。たしかカムドの剣と言ってた、と思う。つまりカムド族の長の、オオクニヌシさんの佩剣。ムラクモの剣と同剣か。オオクニヌシさんはワカヒコくんに、……あとで訊こう。
 そして。私の佩びた剣も敗者の剣だ。トミ族の長の、トミビコさんの佩剣。

『レ、レガリア(統治権)は、勝者と敗者の2振の神剣で、なる。勝者の佩剣の霊威が、敗者の佩剣の霊威を鎮める。だが、敗者の佩剣に祟られる権力者、罪悪感を感じる権力者は、の、脳髄が弱すぎる。御霊信仰は、弱い権力者のいいわけ』

 敗者の剣で長を斬り殺す。血で穢れるから。奪った長の佩剣で巫を斬り殺す。貰った覡の祭祀の剣で長を斬り殺す。蛇行剣だ。
 血で穢れた剣は祟る。祟りは禍い(災い)を起こす。禍いは直さなければならない。祟りは鎮めなければならない。鎮めるため勝者の剣とともに祀りあげる。
 ミカヅチヲはカガヒコを斬り殺した剣に生じた神様。穢れた神様。死んだ敗者と生きた勝者の堺界の塞神。敗者を斬り殺した地に、甕に屈めて葬る。屈葬。死者が蘇らないように、生者を祟らないように塞神を祀る。だけど禍いが起きる。斬り殺された祟り。もっと神威の強い神様を祀らなければならない。
 一説に甕ヅ霊(ミカヅチ)は厳ヅ霊(イカヅチ)が転じたという。まさに雷は天ツ神も畏れる天神の鳴らす神威。厳(イカ)しき神威。
[厳]の古字は[嚴]。[吅]と[厂(ガケ)]と[敢]の形声文字。部首は口で、吅、品、㗊と口が増えるほど、かまびすしい、やかましい。さらにきびしい、はげしい。または口は祭器で、崖下でおごそかに唱える、いかめしきに唱える。
[敢]も形声文字。祭器を両手で、あえてムリなポーズで攫み、パワーのある祭言を唱える。カヅチヲは敵に、じぶんに厳しき神様。頭も、体も厳しき神様。ストイックな神様。なんかスサノヲさんに似てる。
 いや、ミナカタヌシさんを斬り殺した。オオクニヌシさんの出雲国を、トミビコさんの大和国を奪った。サイテーな神様。だから天ツ神に忌み嫌われ、天ノ川の川上に遂われた。
 ついで。[祝]と[咒/呪]は同じ字源。良い祭言は祝言、悪い祭言は咒言。良い祭器は祝器、悪い祭器は咒器。口に、口が加わって[咒]。口は禍い(災い)の大元。言霊信仰。ついでのついで。[咒う]は、[まじなう]と[のろう]と読む。調べてみてね。
 出雲国の神話に出ないけれど、島根県にミカヅチヲを祀る神社がある。もしかしたら斐伊波夜比古(樋速夜比古)神社の甕速日神もミカヅチヲかもしれない。
 溶岩流(マグマ)、火砕流、土石流の神格化の神様が、噴火雷の神格化の神様(偽物の雷神)となった理由はわからない。



 645年、天智天皇と中臣鎌足(のちに藤原鎌足)が乙巳の変を起こす。
 710年、鎌足の子の藤原不比等が、藤原氏族の本貫地の常陸国香島郡の香島神を御蓋山(春日山)に春日神として祀る。藤原氏族の護り神となる。
 768年、藤原不比等の孫の藤原永手が春日神社(春日大社)を建てる。春日神をミカヅチヲとして祀る。平城京の護り神となる。社伝で、ミカヅチヲは鹿に乗って鹿島神宮から春日神社へと来たと伝える。香島は鹿島となり、ミカヅチヲは雷神となる。
 769年、宇佐神宮の神言事件が起きる。
 770年、天智天皇の孫が光仁天皇となる。蕃神(トナリノクニノカミ)、神佛習合の八幡神の神威(法威)により天智系皇統に復する。

 桜島の噴火に合わせた隼人の叛乱。708年の噴火と713年の叛乱。716年の噴火と720年の叛乱と藤原不比等の死。謀叛と叛乱、鎮圧が続く。さらに747年の不比等の子の藤原四子の死。隼人の祟りが禍い(災い)を起こす。自然災害、内乱内戦、飢饉疫病が続く。
 だけど764年の噴火に合わせた隼人の叛乱はない。1468年まで、約700年は桜島の噴火はない。八幡神の神威により西国(西日本)の火山と隼人は鎮まる。

 764年、史話で桜島の噴火で噴火雷があったとある。



 征西が終わり、征東が始まる。そして東国(東日本)の火山の噴火、噴火に合わせた蝦夷の叛乱も起きる。謀叛と叛乱、鎮圧が続く。
 781年、富士山の噴火と光仁天皇の死。禍いは天子の不徳で起きるのか、隼人や蝦夷の恨み、妬み、嫉みが穢れを、祟りを齎し、禍いを起こすのかわからないけれど、光仁天皇の子の桓武天皇の時代も祟りが続く。
 征西時の、神託神の八幡神が護ってくれない。ナニも言ってくれない。
 784年、山城国へ宮所(宮都)を遷す。長岡京。自然災害、内乱内戦、飢饉疫病が続き、近親の変死が続く。794年、改めて宮所を遷す。平安京。

『平城京から長岡京へと遷るとき、雷神を遣わし、蛇神を鎮めなかった。だから長岡京から平安京へと遷るとき、雷神を遣わし、蛇神を鎮めたわけか。藤原京(新益京)は、たしか持統天皇が地鎮祭を行った。天武天皇の死がきっかけ』

 ミカヅチヲが本物の雷神でなく、偽物の雷神(噴火雷の神格化)である理由。東国を鎮める神威。偽物の雷神の神性。征東征夷の神様。



 桜島の古名は鹿児島(籠島/麑島)。桜島を神体とする鹿児島神宮が薩摩国鹿児島郡の郡名、のちの県名となる。ややこしいけれど鹿児島神宮は薩摩国鹿児島郡になく、大隈国桑原郡にある。本当の祭神は火山の神様を鎮めるコノハナサクヒメ。
 鹿児島の語源は諸説がある。鹿が棲んでた島、薩摩半島と大隅半島に囲まれた島、熊野と同じく神様が隠れる島、神様を隠す島、火山(カグヤマ)の島。そして鹿島神の子の棲む島。子神は大きくなり、厳つくなり、噴火雷の神格化のミカヅチヲとなる。

 一説に鹿児島の語源は鑰島神社という。祭神は海のサチヒコ。隼人のアタ族の祖神。随神はオオスミヒコ(大隅命)。クマノオオスミ(熊野大隅命/熊野大角命)と同神。高天原の日神の子神カチハヤヒ(オシホミミ)、ホヒヒコの弟神。別名をクマノクスヒ(熊野久須毘命/熊野櫲樟日命)、クマノオシスミ(熊野忍隅命)など。
 社伝で、鹿児島神宮の鑰(鍵)を奉じたと伝える。



 鍵か。
 たしかミカヅチヲはミナカタヌシを斬り殺す。両腕を捥がれ、蛇のような姿となり、諏訪湖に沈められる、鎮められる。かつて諏訪国といわれた科野国(信濃国)諏訪郡。やはり蛇神信仰がある。ミナカタヌシさんは地主神の蛇神と合わさり、諏訪大社に祀られる。
 やっぱ物語の展開と関わる大事な鍵を持ってた。
 やっぱ世界の変化と関わる大事な鍵を持ってた。だから鎮められた。
 やっぱ遇いたかった。

 ……敗者の、ミナカタヌシさんの佩剣はどこにあるんだろうか。スマホを弄る。

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