85 ハリキッたらアサマ神

文字数 5,589文字



[謀]の字源は言と某。[言]は神様にいう。[某]は甘と木で、なぜか楳(梅の古字)。または甘でなく、日(ヒ)でなく、曰(ヒラビ)と木。[曰]は口からの息。コトバ。つまり[謀]の字意は神様に訊きたいコトを曰(イハ)き、言い吐き、木に掛け、神意を某(ハカ)る。訊きたいコトは、神意は、なぜか悪意のあるハカリゴト。
 曰く付きは事故物件。大島てる。某った人は匿名希望。ゆえにそれがし、なにがし。
 ついで。謀叛の[叛]の字意は叛(ソム)く。字源は半と反。[反]の字源は[厂(崖)]と[又(手)]。字意は手を使って崖を登る。神様の棲む海や山と、人の住む里(平)の堺目の崖を登る。ゆえに神域をおかす。神様にそむく。手のひらをかえす。そして神罰の落石で血反吐を吐く。仄しい人は神域をおかし、神様にそむき、血反吐を吐く。
 ついでのついで。手のひらは手の内側(裏側)の平らなところ。別字の[掌]の字源は開いた手。[拳]は握った手。握れば拳、開けば掌。掌(タナゴコロ)の字意は手(タ)の心。手の内側の心(内心)、手の裏側の心(裏心)。善意か、悪意かわかりづらい。



 日本の国土は約14000の島嶼。海の中の島。日本の国土の7割は島も含んだ山。島だらけ、山だらけ。オオヤマツミは山神、そして島のある海も神域の海神(島神)。つまり私達は、オオヤマツミの治める海の中の、島の中の、山の中で生きてる。
 渡り鳥のように島から島へと渡ったエブネ(家船)に住む人や、渡り鳥のように海を渡った南洋諸島(東南アジア)に住む人と比べ、私達に海とともに生きるかんじはない。海人族、海の人の性質はない。
 だから山神を祀る神社は多い。山の祟り神でなく、湧水や山の幸の恵み神を祀る。

 日本の国土は坂だらけ、崖だらけ。急な坂が崖。崖は山の厓(ガケ)。岸も山の厓だったけれど海や川、池沼や湖の厓となる。厓は厂(ガケ)と圭。圭は土を盛って祀られた地の神様。急な坂もあるけれど手を使わないで上れるのが坂。傾斜角30度、高低差3mを越えないと崖にならない。ゆえに上れる坂は道が造られ、地名が付けられる。あたりまえだけど手を使わないと登れない崖は道が造られず、生活に関わらないので地名が付けられない。
 山道を上り、山道を下る。峠は山道で最も高い処。だけど地形で山の最も低い処。山頂と山頂の狹間。山稜の鞍部。峽。ヤマヘンに[夾(カフ)]。夾の字意ははさむ。山にはさまれる。夾の字源は立ってる人を表す[大]の左右に人。たすける。
 改めて[狹]の字意は、イヌヘンに[夾]で心がせまい。転じて間がせまい。
 あたりまえだけど山道は山の最も低い処に造る。山道で、坂道で最も高い処の峠は、昔の国堺、今の県堺。堺目。坂(サカ)の語源は堺(サカイ)。
 峠を、山を越え、異国へと行く人の無事を願い、神様が祀られる。異国から来る鬼を塞ぐ神様が祀られる。塞神、岐神、峠神。峠(トウゲ)の語源は手向(タムケ)。行く人の身を案じ、行く人はじぶんの身を案じ、祀られた神様に花をたむける。
 峽、つまり峠は地質で山の最も弱い処。噴火や地震で山が崩れてできた処。さらに山を崩して山道を造る。崩れて、崩した峠は断層が見える。崖がある。雨が山に降り、地(地層)に浸み、崖(断層)に水が湧く。



 神代に、神様と人、そして神人がいた。神威が有れば神様と成り、一族の長と成った。無ければ人と成った。神人は神様に焦がれ、一族と離れ、神威を得るため、神様に成るため、山神に仕えた。やがて神威を得られないまま、神様に成れないまま山中で死んだ。
 ヒダルは、神人の死霊と山に棲むモノノ怪(悪しき精霊)が合わさった、神人の成れのはて。神様に成りたい欲望を満たすまで死なない。いや、死ねない。餓鬼。

 福岡県うきは市に建つ賀茂神社の社伝で、神武天皇を導くため、ヤタノカラスは豊前国から熊野国(紀伊国牟婁郡)へと渡ったと伝える。神人のカラス衆とともに、神武天皇を導き、熊野那智大社の摂社の御縣彦社から宇陀(菟田)の八咫烏神社へと山々を越えたという。神話で、ヤタノカラスは三本足と書かれてない。古代中国の伝説の鳥・三足烏と合わさり、三本足となる。死なない三足烏は、死んだ王の霊魂を日に導く。

 熊野那智大社と熊野本宮大社を結ぶ熊野古道。熊野那智大社の近所に餓鬼穴がある。
 山道を歩くとヒダルと遇う。疲労と峠を越えたときの安堵で体が硬る。熊野詣でヒダルに遇い、硬ったまま死んでしまう。まさに死後硬直。
 ヒダルと遇わない前に、体が硬らない前に崖に湧いた水を飲む。原・熊野信仰は、岩壁(崖)や巨岩の石神(イシカミ)信仰と、湧水の水神信仰。



 土砂が溜まった洲処の地名にスカ(スガ)が多い。例えば須賀。崩れやすい洲処や岸の地名にアスカ(アスガ)が多い。例えば阿須賀。崩れやすい崖の地名にアス(アズ)が多い。例えば阿須。峠の地名に、アスマ(アズマ)が多い。
「例えば吾妻、……浅間」
 長野県(信濃国)と群馬県(上野国)の県堺(国堺)にある碓氷峠。神話で、倭建は碓氷峠で弟橘姫の入水を[我が妻よ]と案じたという。群馬県吾妻郡嬬恋村の地名となる。
 浅間山と妙義山の峽に碓氷峠がある。山稜の鞍部に東山道が通る。
「えー」スマホを弄る。こんなところでアサマ神か。
「ど、どうした、ツクヨミ」
 担いだクエビコさんの、布で作られた頭を抱きよせる。
 倭建が、神剣が、砂鉄が、カモ族がアサマ神と関わるか。
「作者は恋バナを書く気はあるか」
 担いだクエビコさんの、布で作られた頭を揺する。
「ん、んぐ、ぐぐ……」
 スマホを弄る。
[アサマ]は、アイヌ語の語意で樽や桶の底。地名として低地、窪地。池沼や湖の奥地。ヤマト語の語意で、地名として山と山の狹間(峽)。有名な狹間は今川義元と織田信長が戦った桶狹間。東北地方に多いアサマは狹間の地名。アサマの峠。東北地方に浅間山はない。だけどアサマの峠はある。群馬県吾妻郡嬬恋村鬼押出と長野県北佐久郡軽井沢町中軽井沢を結ぶ山道に浅間峠がある。アサマ神はアサマの峠に祀られた神様。

『あれ、東北地方にアサマの地名が多い。山でなくても、アサマなんだ』

『か、か、火山の神もッ、地震の神もッ、アサマの神もッ、す、すべ……』

「クエビコさん。アサマの峠は浅間山と同じく関東地方と、静岡県、三重県も多い」
「そ、そうだ。水の湧きでる峠のある山で、浅間山、だ」
 富士山の見える山が、すべて浅間山にならなかったのは水の湧きでるアサマの峠があるか、ないか。アサマ神は、長野県・群馬県の浅間山(浅間山火山)の噴火で、浅間山の山神となる。富士山の噴火で、富士山の山神(火山の神様)となる。
 東山道の沿道に建つ浅間(アサマ)神社。甲斐国一宮の浅間神社(山梨県笛吹市)、河口浅間神社(山梨県南都留郡)、そして長野県・群馬県の浅間神社(長野県北佐久郡)。
「アサマ神は、アサマの峠の水神か」
「ち、違う。水神でない。水神は、嫁神のような、そ、存在」
 本来のアサマ神はアサマの峠に祀られた神様。湧水信仰と合わさり、嫁神と合わさり、水神となる。
「水神でないならば……」スマホを弄る。
 富士山本宮浅間大社(浅間大社)の旧社地に山宮浅間神社が建つ。元社。社伝で、倭建が征東のさい、富士山の山神を祀り、当社を建てたと伝える。
「ア、東国(アヅマノクニ)のアサマの神が東山道を通り、当地に祀られたとき、すでにフジの山神と変わってたのだろう」
 富士山の溶岩流の上に建ってる。創建は781年の後になる。スマホを弄る。
「……富士山は781年の前に、482年に噴火。浅間山は685年に噴火。なるほど、浅間山よりも先に富士山の噴火があった。浅間山よりも富士山のイメージが強かった。まあ、いずれ火山の神様か」
「ア、東国へ陸路は東山道から東海道へと変わる。征東軍も東海道を、と、通る」
「湧水のないアサマの峠、アサマの峠のない浅間山。さらに富士山の見えない浅間山、浅間山のない浅間神社が静岡県や関東地方に多い理由か」
「そ、そうだ。フジの山の遥拝信仰や湧水信仰が広がった。さらに噴火で東海道が通れなくなり、噴煙は東国に広がり、鎮火信仰が広がる」
「天武天皇の時代の、噴火や地震でアサマ神の神性は変わる」
「そ、そうだ。イセの国が関わる。高天原の日神とアサマの神が関わる」
「ギャグも、蘊蓄も、物語の展開も、いまだ続く論説も三重県に導かれる」

 神話で、倭建は征東のさい、日本平で東国を見てる。神話で書いてないけれど、富士山を見てる。富士山の山神を祀ってる。だけど神話で富士山を見てない。
 685年の浅間山の噴火は書いてる。781年の富士山の噴火は書いてない。

 常陸国の神話で、夜刀神は山間の谷に棲んでる。狹間(峽)に棲む神様。
 常陸国の神話で、なんで福慈山を書いたんだろうか。
 スマホを弄る。東北地方、狹間、常陸国、茨城県、色々なキーワードを入れる。
 古代、遠い東国(関東地方)、北国(北陸地方)の先住人を蝦夷(エミシ)と呼び、住む地を蝦夷の地と呼んだ。のちに東山道と東海道の道奥の国、陸奥国となる。
 征夷の要衝地の常陸国(茨城県)と、陸奥国、のちに石城国と石背国(福島県)の国堺に棚倉構造線がある。蝦夷の地の堺目、アイヌ語の堺目(南限)。中央構造線は中央地溝帯の土砂、富士山や浅間山などの火山灰で隠れて東日本は見られない。一説に棚倉構造線と合わさり、鹿島灘に続いてるという。
 東日本(東国)と西日本(西国)の堺目、縄文文化と弥生文化の堺目は糸魚川静岡構造線か、棚倉構造線か。

 ……作者は気になるけれど、私は気にならない。[武神彼氏]は恋バナ、だ。
 わけのわからない論説を終わらせなければ。恋バナは始まらない。三重県に、大阪府に行かなければ。物語の展開が進まない。だいたい、なんで主役の私が物語の展開を気にしなければならない。作者が気にしろ。もっと読者に媚びろ。もっと私に媚びろ。

 私は心が狹くないので解説を続けます。



 陸奥国石城郡苦麻村(福島県双葉郡大熊町)に、夜ノ森と福島原子力発電所がある。棚倉構造線も凝り固まった古い断層で、断層運動は少なく、地震は少ない。
 天武天皇を苦しめた伊豆半島以西の西国(西日本)の南海トラフと関わる地震は、なぜか天智系皇統に復したあと、以東の東国(東日本)の三陸沖と関わる地震へ変わる。陸奥国を別けた陸前国、陸中国、陸奥国の三陸の沖にある、大陸プレートの北米プレートと海洋プレートの太平洋プレートの堺目にある日本海溝で起きるプレート型地震(海洋型・海溝型地震)を三陸沖地震という。
 869年の貞観地震。1611年の慶長三陸地震。1677年の延宝八戸沖地震。1763年の宝暦八戸沖地震。1793年の寛政地震。1856年の安政八戸沖地震。1896年の明治三陸地震。1933年の昭和三陸地震。1968年の十勝沖地震。1978年の宮城県沖地震。1994年の三陸はるか沖地震。
 そして2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震。

『だけど2016年に熊本地震が起きた。中央構造線に建つ阿蘇神社が壊れた』
『日奈久断層と布田川断層が震源です。九州の中央構造線も火山灰で隠れてます。地下に隠れた断層を見つけることはたんへんといいます。地震が起き、新しい断層を見つかることもあります。また、地震が起き、新しい断層ができることもあります』

 プレートが動いて断層ができる。断層が動いて地震となる。いつ、断層型地震(内陸型・直下型地震)が起きるか。1995年の兵庫県南部地震、2004年の新潟県中越地震、2008年の岩手・宮城内陸地震など。棚倉構造線も影響を受ける。



 渡り鳥は、なんで海を渡れるのか。島から島へと渡れるのか。地磁と関わる。
 渡り鳥は、なんで海を渡るのか。島から島へと渡るのか。山の幸と関わる。
 地殻の5%が鉄。南北を決めるのは地磁。鉄の力。渡り鳥は地磁で、餌を求める。

 一説に倭建の征東征西神話は、熊曾征討や蝦夷征討でなく、鍛治族の統制という。征東征西神話に関わる地はカモ科の鵠(白鳥)の渡来地。つまり鍛冶族も、征東軍も、渡り鳥を追い、鉄を求める。ゴーイーストでなかった。ゴーサウス、ゴーノースだった。

 全国各地へ移る鍛冶族にとり、渡り鳥は動物性蛋白質だけでなく、ビタミンB2、鉄分、良質な脂質、そしてイミダゾールペプチドの摂れる山の幸。
 鵠はおいしくないけれど、鴨はおいしい。鵠は瑞鳥だけど、鴨は贄鳥。
「国鳥の雉も食べる。ようはおいしいか、おいしくないか」
「ま、まあ、古代中国からは色々と学んだわけ、だ」
 ついで。鵠ものちに家畜化で家雁(ガチョウ)となる。雁は川、池沼や湖などの水辺に棲む、鴨よりも大きく、鵠よりも小さい鳥の総称。



 碓氷峠は、大昔は海中。オオヤマツミの神域。
 造山活動、火山活動で土砂が溜まり、山となった。やっぱオオヤマツミの神域。断層運動で山稜が崩れて、崩して道が造られた。手を使わないと上れないくらい急な坂道。全力坂。じつは近所の烏川で砂鉄が採れるので倭建も全力で、ハリキッて上った。

 碓氷峠の近所に熊野皇大神社が建つ。やっぱ長野県と群馬県の県堺に建ち、社殿と参道の中央が県堺となる。同じ社殿と山道で長野県側は熊野皇大神社、群馬県側は熊野神社。ひとつの社殿にふたつの賽銭箱と本坪鈴がある。別々の社務所で御祈祷、御朱印を受けつける。熊野皇大神社の社伝で、碓氷峠で遭難中の倭建をヤタノカラスが導いたと伝える。
 碓氷峠は地勢(地質・地形)や気候、そして倭建神話の堺目となる。分水界。
 倭建神話は、碓氷峠からは怒濤の展開となる。きっかけはヤタノカラス。

 ということでハリキッたらアサマ神。
 今回は[剣にまつわるエトセトラ]の分水界。次回へ続く。
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