41 忘れてた神

文字数 2,219文字



「「「……シヤシコヤぁ。アーシヤコシヤぁ。エーシヤシコヤぁ……」」」
 新幹線のドアが開き、三男神が歌いながら出てくる。乗車はドアを開けず、降車はドアを開ける。なんか余裕。鎖を回しながら歩いてくる。鎖が鎌鼬のように新幹線を降りる人、ホームにいる人を斬りつける。突然の鎌風に人が騒めく。
 まずい。名古屋駅は新大阪駅と違い、閉じられた空間でない。
 制する構内アナウンスとホームの騒乱に誘われ、スマホ片手に階段を登る。登った人が騒めく。制するアナウンスと階段の騒乱に誘われ、スマホ片手にコンコースに集まる。集まった人が騒めく。
 禍い(災い)を被るとわからない人も、被るとわかる人も、誘われ、集まる。パニック映画の、わかりやすいパターンだ。
「なんで集まる。クソ、クソ、クソッ。どこか人のいない処に翔ぼう」
「……」オオクニヌシさんが私を見つめる。
 私はコホンと咳。ストップ下品なネタ。
「ちょっとだけど、ヒロインとして訂正と謝罪があります。只今、不適切なセリフがありました。ごめんなさい」オオクニヌシさんに頭を下げる。
「タマの川があります。イセの海ですね」にっこりとほほえむ。
「オオクニヌシさんも、そう思うよ、ね」ほほえみがえし。
 父さんはミキちゃんが好きだった。……でなく。
「戦況を確かめ、戦局を動かすための、戦法だけを考える」
 庄内川。なんとなく物語の展開が伊勢国、三重県に導かれてる。

 三男神は歌いながら鎖を回し、集まる人を斬りつけながら歩いてくる。
「カカカぁ。おれはぁバカノヲ(ウワノヲ)ぉ」
「クククぅ。おれはぁアホノヲ(ナカノヲ)ぉ」
「ケケケぇ。おれはぁニクノヲ(ソコノヲ)ぉ。カナにすればぁ2字ぃ」
「「「カクケカクケぇ。おれらはぁ、アマノクメ組ツツノヲ三男神改ぃ」」」
 GTとならず、改となった。神名が変わった。キレたキャラとなった。作者はアニメ化を、いや、ニギハヤヒ化を考えたか。
「しかたがないですね。……イセの国はスサノヲさまがいます。ワカヒコ、ワカフツに現況を伝えてください」
 ワカヒコくんが使い鳥を飛ばす。どこに隠してたんだろうか。
「……あ」私は気づく。
 飛ばした使い鳥に襲いかかる鳥。使い鳥は落とされる。
「キギス(雉)だ」
 ワカヒコくんが周囲を見わたす。
「どうしたの」
「サグメがいる。調神社もキギスがいた」
「そ、そうなの。鳩でないの」鳩でなく桃太郎のともの雉。
 アパートで囀ってた鳥。鳩でない。調神社でワカヒコくんが見あげてた鳥。いや、見つめてた鳥。鳩でない。キューピーちゃん(スクナヒコさん)が戯れてた鳥。いや、戦ってた鳥。鳩でない。早く言ってよォ。
 戦況はどんどんとまずくなる。
「……忘れてた」
 ワカヒコくんが隠してた使い鳥(の設定)でなく、ワカヒコくんが思いだした鳥(の伏線)でなく、使い鳥を襲った鳥(の展開)でなく。
「私達は翔べない」なんで東海道新幹線で来たか、忘れてた。
「オオクニヌシさん」私は振りむく。
「久々だ、ツクヨミ。翔ぶぞ。ワカヒコはあとで来い」
 振りむくと眼鏡をかけてない。非眼鏡男子、シコヲさんがいる。
「三男神、オレを追ってこれるかな」口角を上げる。
 シコヲさんは、私の腕を攫み、翔ぶ。



 国ツ神は空間移動(飛行移動)ができる。天ツ神はさらに時空間移動(瞬間移動)もできる。だけど神威の強弱差がある。時空間移動は距離、空間移動は速度と高度。オオクニヌシさんは空間移動はできるけれど疲れやすい。後のことを考えてしまう。修練を積んだ結果、シコヲさんのときは神威が強くなり、できる。やはり疲れやすいけれど、シコヲさんは後のことを考えない。昔は軽々とできたんだけど、歳をとったらしい。なんとなく笑える。私は神威が無い。ワカヒコくんは弱いので元・天ツ神だけど時空間移動はできない。ちょっとだけ、空間移動はできる。やはり疲れる。
 協議結果、新幹線で移動。

 オオクニヌシさんは、シコヲさんにバトンタッチ。たぶん辛かったと思う。プライドを捨てる。ワカフツヌシさんのいない戦況で、戦局を動かす。戦法を変える。
 私は翔びながら思いだす。
 神話で、サグメはワカヒコくんに仕え、まちがった神託を伝える。タカミムスヒの還矢でワカヒコくんは死んでしまう。サグメは神託を伝える巫の神格化。
 摂津国の神話で、タカヒメを祀る比賣許曾神社のほんとうの祭神はサグメとある。
 祭政一致の時代。祭(マツリゴト)を司る巫は、政(マツリゴト)を司る時の権力者の事情に合わせてた。神託を翻してた。
 宇佐神宮の神託事件。宇佐神宮は、いまだ巫によるトラブルが多い。

『か、巫の罪といえば、罪だ』
『巫にしか、わからない神託だから、確かめようにないでしょう』
『た、確かめられる。巫は神託を翻した。時の権力者側の事情に、あ、あわせた』
『だって翻さなければ、合わさなければ、殺されたかもしれない』
『そ、そうだ。神のために殺される。まるで、に、贄だ。笑える』

「……笑えるわけない」独り言ちる。
「ツクヨミ、あいかわらず佛頂面だな。笑ったらどうだ」
「笑えるわけないでしょうォ」私は翔びながら叫ぶ。
「そうか。オレたちは神だった。笑えないな」口角を上げる。
「……」
 なぜか。
「……お、大阪のとき、御礼を言えなかった」
「構わない。オレは戦うだけの、神だ」顔を背ける。
「……ありがと」横顔を見つめる。



 なぜか非眼鏡男子、シコヲさんにときめく。
 とんだ下車で、翔んだカップル。笑える。
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