12 光圀

文字数 1,989文字



 うわばみ呑んべえ呑助呑んだくれで、チョー乙女で、チョーダラシないスサノヲさんは、オオクニヌシさんのあげた水を飲み、そして酒を呑む。
 オオクニヌシさんも、クエビコさんもなにも言わないので、私もなにも言わない。
 なんでこんなダメ神が国ツ軍大軍将なんだ、次代黄泉大神なんだ。
 姉神として窘めたいけれど、チョーメンドー。父さんが酒を嫌ってたので、私も影響で、なんとなく呑む人を避けてる。
「そういえば親戚に……」
「そ、そういえば、い、家康の親戚に、笑える神と人が、いる」
 スサノヲさんを睨む私に、クエビコさんが話しかける。
「カ、カガセヲと、徳川光圀、だ」
「水戸黄門。たしか家康の孫」
「こ、黄門か。古代中国で皇帝の傍に仕える、か、官職(郎官)。だが、鬼門も黄色の門と、いわれる。笑える。いや、な、称が笑えるわけで、ない」
 宮中の門が黄色のため、黄門侍郎。黄色は五行思想で中央に座し、万物を生み育てる。古代中国の神話で、三皇五帝の最初の帝は黄帝。黄帝を護る門。禁門。
「なにが笑えるの。家康の遺志を継ぎ、世なおしで諸国に行くよね」
「み、光圀は、どこも行かない。家康の遺志を継がない。光圀の懲らしめる悪は、え、江戸幕府と、徳川宗家、だ」
 カガセヲは天ツ神なのに、服(マツラ)わない。
 光圀も徳川御三家なのに、服わない。



 高天原を逐われ、茨城県(常陸国)の大甕山に降り、東国を治めた星神カガセヲ。祀る星宮神社は茨城県と栃木県(下毛野国/下野国)に多い。

 かつて栃木県、群馬県(上毛野国/上野国)、茨城県の一部(筑波郡/つくば市)、そして埼玉県の一部に広がる毛野国という大国があった。カガセヲが治めた国があった。

『常陸国に、すでにカガセヲが降りてた。服(マツラ)わない元・天ツ神』
『そ、そうだ。星神は、鬼の崇める鬼神と、化す。う、艮の金神』

 神話で、ミカヅチヲは出雲国(中ツ国)の平国の前に、古の戦の前に、常陸国に降りてたカガセヲを服わせるけれど、服わない。ミカヅチヲはハヅチヲに命じ、カガセヲは討たれ、大甕山の山頂に鎮められたという。
 鎮められたカガセヲは鬼神と化す。
 常陸国の神話で、カガセヲは出ない。出るのは夜刀神という蛇神。谷に棲む。または闇(夜)に潜む。やはり服わない神様。
 カガセヲと夜刀神は似た神話がある。
 常陸国多賀郡(日立市)に、神様の棲む山と人の住む里の境界に大甕を埋め、神社を建てたという。
 常陸国行方郡(行方市)に、神様の棲む山と人の住む里の境界に標の梲(シルシのツエ)を立て、夜刀神社を建てたという。
 大甕も、標の梲も塞ぐ塞神。岐神。イザナギが黄泉比良坂でイザナミを塞ぐために杖(ツエ)を投げ、岐神が生じる。人が神様の神域へ入らないように、神様が人の領域へ入らないように塞ぐ神様。

 だけど茨城県(常陸国)の史話でカガセヲは、なぜか出る。
 大甕神社の社伝で、1695年に光圀が大甕山の山頂に建ってた当社を山麓に遷し、カガセヲを鎮めなおしたと伝える。境内に宿魂石という岩山に建つ。宿魂石は天から降りてきた(降ってきた)石という。
「常陸国の神話と、似た話。神話の神社と大甕神社は異なるということか」
「ま、まあ、神話も史話も、実話かわからない。か、書いた人の切望が書かれる。ただ、光圀は、カガセヲを鎮めなおさなければならなかった、わ、わけだ。当時は3代将軍、徳川家光。家康を敬い、東照宮を建てなおした。み、宮処の権威が弱まり、徳川宗家の権力が強まった。まあ、光圀は武断政治を、あ、危ぶんでたか、わからないが」

 西国の権威を強めるため、権威を東国に及ぼすため、カガセヲは鎮めなおされた。祀りなおされた。
 東北諸藩の反乱防止のための常陸国水戸藩。2代藩主の光圀は王政復古を望んでた。事実、光圀の論じた水戸学は、吉田松陰や西郷隆盛に影響を与えた。
 そして江戸城入城もない、最後の征夷大将軍の徳川慶喜は、無血開城、大政奉還を行った。明治維新。
「よ、慶喜の出自は、水戸藩だ。み、光圀を敬ってた」
 明治政府は西国の権威を迎えるため、1868年に江戸を東京(東の京)と、江戸城を東京城と変えた。
 家康の下命で、東海道の整備時に当地に移した三縁山広度院増上寺。江戸城の裏鬼門。東海道からの、西国の鬼を塞ぐ。家康の葬儀が行われ、のちに徳川家の菩提寺。
 西国の権威を迎えるため、増上寺を国家神道の教育機関の本部と変えた。

 平将門も、江戸幕府に護り神として神田神社に祀られたけれど、西国の権威を迎えるため、明治政府に隠された。戦後に改めて祀りなおされる。つまり鎮めなおされる。

 西国の権威を迎えた。
 けれど。

『そういえば、クエビコさん。天ツ神と遇わないけれど、なんで』
『あ、ああ。三国之関(三関)のこっち、ひ、東側を関東、東国という。東国は天ツ神の統治下で、ない。統制下、だ。ゆえに、あ、遇わない』
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