31 フジの女神・後篇

文字数 2,580文字



 1707年の宝永地震と富士山の噴火で関東地方も災害を被る。
 徳川綱吉の悪政に対する、江戸幕府の護り神の家康の祟りか。または東国の護り神の富士山の祟りか。とりあえず鎮めるために浅間神社が建ちまくる。影響で徳川家の本貫地の愛知県(三河国・尾張国)も浅間神社が建つ。ただし愛知県の浅間神社は、水神コノハナサクヒメの鎮火祈願でなく、母神コノハナサクヒメの、尾張徳川家の後嗣祈願(?)。やがて安産祈願の神社となる。

 不死の山は噴火で死の山となる。植物も動物もない、溶岩流と土石流だらけ。死の山に棲むのは浅間(アサマ)神でなく、浅間(センゲン)菩薩。八幡(ヤハタ)神が八幡(ハチマン)菩薩と変わったように、神様でなく、佛様。
 美しい山容の遥拝信仰は、アサマ神を鎮める鎮火祈祷のアサマ信仰となる。
 やがて噴火が鎮まり、修験道の影響もあり、センゲン菩薩に遇う登拝信仰、センゲン信仰となる。富士講という講社(組織)が、関東地方にセンゲン信仰を広げる。
「イヅモ族の出雲講と同じ」
「そ、そうだな」
 噴火被害を被った地に建つアサマ神社はセンゲン神社へ変わり、境内に富士山の見立山ができる。擬似登拝の築山。木造の築山の富士山縦覧場もできる。とても人気があったけれど、築2年で崩壊。スサノヲさん(台風)に壊される。
 東山道の沿道は、いまだアサマ神社。甲斐国一宮の浅間神社(山梨県笛吹市)、河口浅間神社(山梨県南都留郡)、そして長野県・群馬県の浅間神社(長野県北佐久郡)。浅間山の噴火被害を被った地域、富士山の遥拝信仰の神社はアサマ神社。富士山の噴火被害を被った地域、富士山の登拝信仰の神社はセンゲン神社となる。



 美しい山容の富士山の遥拝信仰、富士信仰。
 アサマ、フジはアイヌ語が語源という。アサマはアソー(噴火)とオマイ(場所)で噴火口。フジはフチ(火)とヌプリ(山)で火山。
「ヌプリは、アイヌ語で山。フチは、……姥」スマホを弄る。
 アイヌの神様のアペ・フチ・カムイ(火姥神)。フチ・カムイが富士山の山神となり、噴火で富士山がフチ・ヌプリとなる。
 アイヌ語で火山はウフイ・ヌプリ。燃える山。北海道にアサマの山、フジの山の火山はない。浅間山、富士山だけが火山でない。富士山も浅間山でない。神話や史話で、富士山の古名や別名に浅間山はない。
「あれ、東北地方にアサマの地名が多い。山でなくても、アサマなんだ」
 山頂にセンゲン神社が建ち、富士山が見える遥拝信仰のセンゲン山。山麓にセンゲン神社が建ち、富士山の疑似登拝信仰のセンゲンの山。富士山に似た山容の、または肖った擬似遥拝のフジの山。
 ついで。
 山は訓読の[ヤマ]と、音読の[サン]があり、佛教に関わる山は[サン]。山号。
 群馬県は、語源は県庁所在地の群馬郡。かつて上野国車(クルマ)郡。好字二字化で、馬が群れる馬産地だから群馬(クルマ)郡。車から馬へと変わる。読みにくいから群馬(グンマ)郡に変わる。

 [フジ]の語源は神話後に編まれた、721年の常陸国の神話にある。福慈(フクジ)神という美しい水神、女神の棲む山が福慈山。
 常陸国筑波郡に筑波山がある。西の富士山と東の筑波山と称されるほど、美しい山容。また、山頂から富士山が見える。常陸国の神話で、厳しい福慈神と優しい筑波神と書かれる。筑波山神社の祭神。つまり火山でない筑波神の山麓にたくさんの人が移り住む。

 富士山本宮浅間大社の元摂社で富知(フクチ/フヂ)神社がある。式内社の富知神社の論社。別名は福地神社。
 富士山本宮浅間大社の現社地に建ってた。富知(福地)神という地主神を祀ってた。
 800年の噴火で、浅間神を祀る浅間神社(のちに富士山本宮浅間大社)が富知神社の社地に遷る。そして浅間神はコノハナサクヒメへ変わる。
 現社地に遷った富知神社はオオヤマツミを祀ってるけれど、ほんとうの祭神は富知神。富士山本宮浅間大社の境内の、湧玉池の水神。こんこんと水の湧く地で福地(フクチ)。富士山は山裾が長い、広いため湧水量も凄い。つまり遥拝信仰とともに湧水信仰がある。
 湧玉池は湧水信仰、遥拝信仰の中心地。自生の桜が多い。
「アイヌ語で、プシは水が噴き出す。地名として湧水地だって」
 火山と湧水(泉/温泉)は特別な関係。固体のマントルが水により液体のマグマとなり、噴火。そして積もった火山石や火山灰は雨水を溜め、湧水となる。火山の神様と水神は特別な関係。水神は噴火で火山の神様となり、そして噴火の神様を鎮める水神となる。

《山を富士と名づくるは、郡の名を取れるなり。山に神有り、淺間大神と名づく》

 834年の富士山記で、郡名で富士山と呼ばれ、アサマ神を祀り、とある。こんこんと水の湧くフクチ(フジ)の地に聳える高嶺の山、富士山。

 浅間神も浅間山の山神であり、じつは水神である。
 噴火という祟りがありながら、なんで人は火山の山麓に住み続けるのか。湧水(泉/温泉)という恵みがあるから。数十年に、数百年に一度の祟りよりも毎日の恵み。
「し、神話で最も多い神は、水神。川、滝、湖、泉(湧水)、雨も水神が司る。水神も気儘な神。人のために動かない。山神とともに動く、恵み神であり、た、祟り神である。スサノヲも人のために動く神でない。わかるだろう。気儘にひょいと、いなくなる神、だ。なにも思ってない、考えてない。の、脳髄が、ない」
「ヒドい」
「ス、スサノヲだけでない。神は、なにもしない。なにも思わない、なにも考えない。人のために、動かない。オ、オレも動かない。いや、動けない。だから考え、オオクニを、く、国ツ軍を動かす」
「クエビコさん、ほんと神様なの」
「あ、ああ。人に、いや、オオクニに作られた神、だ。笑える」
「うん、笑える」
 調神社にいたとき、クエビコさんはオオクニヌシさんを動かし、パソコンで調べてくれた。スサノヲさんはタカヒメに頼み、ワカフツヌシさんが来てくれた。



 二見興玉神社の興玉神石のさきに富士山が見える。6月10日から15日まで、6月28日から7月2までは富士山の山頂に日が昇る。王冠富士。日の先にある浄土を拝む。来迎。山岳信仰と浄土信仰が合わさった日本だけの佛教儀礼。
 店長は高天原の日神とフジの美しい女神のミサキ神になる。……夫婦仲は大丈夫なんだろうか。
「つ、つねに女神のシモベ神。笑える」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み