81 ラッキーなカラス

文字数 2,466文字



 かつて瀬戸内海の海岸づたいにエブネ(家船)に住み、海とともに生きた海の人がいた。海を渡った渡り鳥のように。九州西域(肥前国=佐賀県・長崎県)の海人の末裔。エブネの遺物遺跡はない。一説に青潮(黒潮の分流の対馬海流)で南洋諸島(東南アジア)から台湾島、五島列島を経て九州西域へと流れついたという。五島列島は約150の、瀬戸内海は約700の島嶼があり、かつて海の中の山神の、島神を崇め、海とともに生きた海の人がいた。島から島へと渡った渡り鳥のように。
 島の本字は鳥の下に山(嶌の逆の形)の会意&形声文字。[灬]が省かれ、[島]となる。嶌や嶋は本字の異字。
 島陰の江(浦)は波や風から泊めた船を護った。水や山菜野菜、船材となる木などの幸を恵んだ。

 朝鮮半島から対馬島、壱岐島を経て九州北域(筑前国=福岡県西域)へと流れついた海人とともに関門海峡、瀬戸内海へ移り、大いなる山神を祀る大山祇神社に奉じた。瀬戸内海の潮流、潮位の変化は激しく、とくに芸予叢島は航海が難しい。別名の和多志大神は瀬戸内海の渡し神。江や津(川口)に祀られ、山神は航海を導く神様、海路を護る神様となる。やがて海人は家族単位で移り住み、漁撈を生業とする海人族。一族単位で住みつき、海運を生業とする海人族に別れた。

 江や津に泊(船どまり)を設け、船が泊めやすいように、人や荷が乗り降りやすいように港湾ができる。水門(ミナト)、水戸(ミト)、または瀬戸。大きな江は入海(イリウミ)、内海(ウチウミ)。つまり瀬戸内海はとても大きな港湾。
 大阪湾(難波ノ海)に臨むスミノエ。清んだ江のスミノエ(清江)に祀られた神様。日神生誕神話で、淀みを浄め(清め)、穢れを禊ぐ神様という。やがて航海を導く神様、海路を護る神様、そして港湾を護る神様となる。
 ヒエ(日枝)がヒヨシ(日吉)となり、スミノエはスミヨシ(住吉)となる。
 摂津国住吉から瀬戸内海、関門海峡、九州北域、壱岐島、対馬島を経て、朝鮮半島へと向かう中継地(寄港地)に住吉神社が建つ。摂津国住吉郡の住吉大社(住吉坐神社)、関門海峡の長門国豊浦郡の住吉神社(住吉坐荒御魂神社)、九州北域の筑前国那珂郡の住吉神社、壱岐国壱岐郡の住吉神社、対馬国下県郡の住吉神社。津(港湾)を治める津守氏。各津に建つ住吉神社に奉じる。血縁関係はない。
 さらに応神天皇の母の、近江国の鍛冶族の娘の神功皇后により征討を導く神様となる。三韓征討神話で、九州北域の海人アヅミ族の奉じる神様とともに天ツ神の征討を導く神様となる。さらにさらに神託神となり、……なんか八幡神みたい。なるほど、天ツ神の陸戦用導き神と海戦用導き神か。



 瀬戸内海の西端の大三島と東端の淡路島。住吉大社の対岸の、淡路島の岩屋港にヒルコを祀る岩樟神社が建つ。コトシロヌシさんを祀る恵比須神社の奥社。港にある絵島は、神話の淤能碁呂島といわれ、イザナギとイザナミさまが降り、結ばれ、最初に産んだ神がヒルコ、最初に産んだ島(国)が淡路島(淡道之穂之狭別島)。淡路国は、摂津国とともに瀬戸内海の要衝地。淡路国津名郡多賀村(兵庫県淡路市多賀)にイザナミさまと結ばれ、別れ、日神を生み、常世(幽世)に逝ったイザナギの幽宮の伊佐奈伎神社(伊弉諾神宮)が建つ。殆んど無名だ。平和観音寺のほうが有名。
 ついで。近江国犬上郡多賀郷多賀村(滋賀県犬上郡多賀町多賀)に多賀神社(多賀大社)が建ち、やっぱイザナギの幽宮。かなり有名だ。神徳は家内安全、無病息災、夫婦円満。神徳は祭神の成せなかったこと。かなり強引だ。ついでのついで。多賀は神階(神位)の高い神様の坐所(祀る所)という地名。



 青潮に、黒潮に流され、そして瀬戸内海の渦潮に流され、色々な海人が結ばれ、滅ぼし滅ぼされ、混ざり、色々な海人族となった。
 朝鮮半島から対馬島、壱岐島を経て九州北域へと流れついた海人。
 青潮で南洋諸島から台湾島、五島列島を経て九州西域へと流れついた海人。
 さらに青潮で島根半島へ流れついた。瀬戸内海の渦潮で大阪湾、紀伊水道を通って紀伊半島へ流れついた。
 黒潮で南洋諸島から南西諸島を経て九州南域(熊曾国=大隅国と薩摩国の鹿児島県・日向国の宮崎県)へと流れついた海人。さらに黒潮で紀伊半島へ流れついた。
 島根半島も、紀伊半島も異なる文化や新しい技術を齎す異装の神様がやってくる。隣の国の神様(蕃神)がやってくる。



 福岡県うきは市にある賀茂神社の社伝で、ヤタノカラスは神武征東を導くため、豊前国から熊野国(紀伊国牟婁郡)へと渡ったと伝える。そして熊野那智大社の摂社・御縣彦社から宇陀(菟田)の八咫烏神社へと山々を越えたという。
 なんか陸戦用導き神の八幡神だ。

 神話でヤタノカラスは三本足と書かれてない。古代中国の神話の三足烏と合わさり、いつのまにか三本足となる。ヤタノカラスは朝鮮半島から九州北域、関門海峡、瀬戸内海、紀伊水道、紀伊半島へと飛んできた渡り鳥。ミサキ神。蕃神の渡し(導き)神。
 和歌山県にある矢宮神社の社伝で、ヤタノカラスは名草の姫を討ったと伝える。社伝どおりならばヤタノカラスはナグサヒコ。
 名草の姫を討ったヤタノカラスが、名草の姫の領地に祀られる。

『じ、神武征東神話で、熊野で塞ぐ国ツ神は、なぜか女神。または女の族長、だ。巨石信仰は、地の、古の神の生気や生力の畏敬だ。水も、く、草木も、地から生じ、地へと還る。そして再び生じる。出生と死。さ、再生や甦生の祭、だ。祭を司る巫が族長となり、母系血統の女が長を、信仰を継いだ。天ツ神は、順(マツラ)わぬ巫がジャマとなる』

 神話で、ヤタノカラスの娘はコトシロヌシさんに娶られる。またはオオモノヌシ(トミビコさん)に娶られる。稀れ神(異装の神様)と違う。ふつう異装の神様は長の娘を娶り、長の地位を、一族の領地を譲りうける。
 ヤタノカラスの娘はコトシロヌシさん(またはオオモノヌシ)に娶られる。産まれた子娘ホトヒメも神武天皇に娶られる。うーん。ラッキー、クッキー、トリッキー。
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