72 駆け巡ろう天照御魂神社

文字数 1,894文字



 熱田神宮の社伝で、神剣の創祀は倭建命の親の景行天皇、熱田神宮の創建は子の仲哀天皇と伝える。
「倭建命は疎んだ親と、他人の子に祀られる」
「ヤ、ヤマトタケルに同情。笑えるな」
「笑える。祟らないように祀りあげられる」
 神剣が奉じられ、神宮に次ぐ権威の熱田神宮は、じつは尾張国三宮。一宮はホノアカリを祀る真清田神社。二宮は出自不明の大縣大神を祀る大縣神社。
「神剣はぞんざいに扱われてる」
「シ、シンケンに同情」
「神剣と真剣を掛けたんだ」
「わ、笑えるな」
「笑えない。レベルが低い」
 金山駅までの同情、いや、道中(同じレベル)。レッツゴー三匹のドツキコントを前方に見ながら、担いだクエビコさんと話す。オオクニヌシさんは私の後方で考えごと。ワカヒコくんが歌いながら、踊りながら、私とレッツゴー三匹の間を行ったり来たり。
 スマホを弄る。ヲハリ族の祖神はホノアカリとアマのカグヤマ。ホノアカリはニギハヤヒと、カグヤマはタカクラジさんと同神という。前に調べたけれど、畿内に高天原の日神と異なる日神を祀る神社がある。天照御魂神社。スマホのマップピンを駆け巡る。京都府京都市の木嶋坐天照御魂神社、奈良県桜井市の他田坐天照御魂神社、奈良県磯城郡の鏡作坐天照御魂神社、大阪府茨木市の新屋坐天照御魂神社。すべて式内大社。すべて祭神は女神でなく男神。ホノアカリだったり、ニギハヤヒだったり、ほかの神様だったり。高天原の女神に日神の座を献じた地主神の男神。
 熱田神宮の祭神は、主神は熱田大神。神剣の神格化。配神に神剣に関わる神様。もとの持主の八岐大蛇は祀られない。
 スサノヲさん、神剣を献じられた高天原の日神、授けられた倭建命、預けられたミヤヒメと兄。倭建命が景行天皇の子でなく、勅命で征西征東軍を随えた軍将の神格化ならば、ホノアカリも倭建命だったんだろうか。神剣はホノアカリの佩剣だろうか。
 西へ東へ征討を行い、強くなりすぎたため疎まれたんだろうか。剣を向けると思われたんだろうか。謀叛を起こすと考えられたんだろうか。
 神剣は、昔は本殿になく、土用殿に祀られてた。本殿は正殿と土用殿の2殿構成の尾張造。1893年に神宮と同じ神明造となり、今は本殿(正殿)に祀られる。
 では、かつて正殿に祀られたのは……。

 真清田神社はホノアカリを祀る。
 熱田神宮は倭建命を祀る。西へ東へ征討を行い、強くなりすぎ、殺した倭建命を祟らないように祀りあげる。
「ミヤヒメを娶らなければ、倭建命は殺されなかったんだろうか」
「か、哀しい恋バナ、だ」
「読者は倭建命の哀しい恋バナよりも、私の楽しい恋バナを読みたい」
「さ、3部は論説が、メインらしい」
「あー、読者が遠のく。主役の私が解説役なんて。オタクな作者は展開でなく、解説(設定)で物語のカタルシスを考える。読者はムシかー。裸の虫かー」
 倭建命と仲哀天皇の父子関係は怪しく、仲哀天皇の母もじつはわからない。
 倭建命に后(正妃)はいない。妃は、倭建命に随ったキビ族の娘、ニギハヤヒの後裔一族の娘、近江国の鍛冶族のふたりの娘、出自不明の娘、そしてヲハリ族のミヤヒメ。倭建命はミヤヒメを選び、殺される。



『タ、タカクラジは日神に仕えた覡、という。つまりタカクラジという名の、か、覡はたくさんいた』

「色々な一族の崇める日神と、一族の覡の関係か。なんかタカクラジさんが授かったミカヅチヲの佩剣のほうが神剣っぽい」
 神話で、神武天皇は熊野の荒ぶる山神(または大熊)と戦う。苦戦だったけれど、ミカヅチヲの佩剣で荒ぶる山神を討つ。荒ぶる山神は私。私はタカクラジさんに討たれる。
「し、神剣も、ミカヅチヲの佩剣も高天原から葦原ノ中ツ国へと降りる。か、下賜だ。ミカヅチヲの佩剣は、崇神によりニギハヤヒの後裔一族が賜る。イ、イソノカミの社に奉じられる。神剣は、天武によりホノアカリの後裔の、ヲ、ヲハリ族が賜る。アユチの社に奉じられる。神剣はホノアカリの佩剣と、か、考える。高天原の日神に座を奪われた、天運(強い神威)のない葦原の日神、だ」
 後裔一族が長の佩剣を献上。帰順の証。そして改めて剣を下賜。帰順の標(シルシ)。もしかしたら長は殺されたかもしれない。
 石上神宮の祭神と仕える覡、熱田神宮の祭神と仕える覡。もしかしたら覡も一族のために殺されたかもしれない。

『そ、そうだ。神のために殺される。まるで、に、贄だ。笑える』

『か、巫が人であるかぎり、生きてるかぎり神格化とならない。し、死んで神となる』

 高天原の日神に座を献じた、同じ境遇の日神と覡神が同神となったわけか。長と覡を殺された一族が随った、順(マツラ)ったわけか。
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