27 ダメだ、こりゃ。
文字数 2,131文字
***
『はい、戦場(イクサバ)で自尊心はいりません』
ワカフツヌシさんの一言。
*
近所の月読神社(元・氷川神社)で、大阪旅行と戦に備え、リハビリと剣技の修練が始まる。2週間もない。旅費は店長の協力でなんとかなるけれど、リハビリと剣技の修練はなんともならない。私しだい。
だけど。
「ちょ、ちょっと待って、ワカフツヌシさん。ちょっとだけ、キツくないかな」
「いえ、姫が毎日の修練……」
「タカヒメは、こんな修練をやってるの」
だけど。いきなり、ビギナーの私がタカヒメと同じ修練を熟せるわけない。
「いえ、姫が毎日の修練を始める前にやってる、軽い運動です」
軽い運動なのか。朝に剣を振り、軽い運動と修練。タカヒメの笑う顔が浮かぶ。
タカヒメに笑われるのは、イヤ。とっても、イヤ。
「はい、どうしました、ツクヨミさま」
「まったく、キツくないから、大丈夫だから」
「はい、わかりました。では、まいります」
ワカフツヌシさんが竹刀を振り上げる。
「だッ、だけどッ。ちょっとッ待ってッ。キツくなくてもッ大丈夫だからああああッ」
私は叫ぶ。
**
「カカカ。ぼくはウワノヲ」
「ククク。ぼくはナカノヲ」
「ケケケ。ぼくはソコノヲ」
「「「カクケカクケ。ぼくらはアマノクメ組……」」」
ガコ、ガコ、ガコン。
「「「カクケッ」」」アマノクメ組ツツノヲ三男神が叫ぶ。
正座で畏る三男神の頭に金タライが落ちる。見あげると銀の鈴がある。ここは舞台でないので吊り物はない。落ちた金タライもない。しかしなんで金タライが見えたのか。
「なーーんで金タライが見えたのか。ヘマをやったから天ツ罰」
東京駅八重洲地下中央口の銀の鈴の待合処。1968年に、東京駅待合処の目印として本坪鈴(神社鈴)が掲げられた。2007年に4個目の銀の鈴が掲げられた。
隠世(カクシヨ)に隠れてるため、人々にイヅメも三男神も見えてない。イヅメの説教も三男神のグチも聞こえてない。
「ったく、神威の弱まってるワタっ娘の代わり、甲子園で連れてきたのが、こんなポンコツか。いーか。つぎにヘマをやったら、ケツの穴に手ェ突っこんで尻子玉……」
ウワノヲは怯える。ナカノヲは泣きじゃくる。ソコノヲは尻に手を当てながらすごいスピードで後ずさる。
「そんな怯えない、泣かない。おーい、後ずさらなーい。戻ってこーい。イヅメが苛めてるみたいじゃん。ったく、今時の神は」イヅメは眉間に中指を当てる。
恐る恐るとソコノヲが戻ってくる。
「いーかー、明後日、ツクヨミがカワチに向かう」
「カカカ。明後日なのに集合だって。それに朝の8時だよ」こそっとナカノヲに話す。
「ククク。おばさんは気も早いけれど、朝も早いよね」
ボコ、ボコ、ボゴン。
「「「カクケッ」」」ツツノヲ三男神が叫ぶ。
正座で畏る三男神の頭をイヅメがメガホンで殴る。見るが、イヅメの手にあるのは頭槌の剣。メガホンはない。しかしなんでメガホンに見えたのか。
「聞こえてるんだよ」
「ケケケ。ぼくはなにも言ってないのに」
「心の声も、聞こえてるんだよ。ツツノヲ三男神といえど、イヅメを怒らせると鬼籍に入れるよ。住吉大伴神社のことは忘れないからね」
「ククク。かってに、一族が落ちぶれただけじゃん」
「カカカ。じぶんのこと、イヅメって言うんだ」
「ククク。イヅメさまってぶってる、ぜったい」
「おい、ナカノヲ」イヅメが睨む。
「ケケケ。ぼくはソコノヲです。ナカノヲはこっちです」隣の男神を指す。
「ククク。イヅメさまも、今年で1800000と50歳。人でいえば井森美幸と同じ歳」
「カカカ。悪魔でいえばデーモン小暮の5歳下」
「ククク。見た目は若くても物覚が悪いのは、やはり歳の……」
ゴン、ゴン、ゴーン。
笑う三男神の頭をイヅメが一斗缶で殴る。見るが、イヅメの手にあるのは頭槌の剣。一斗缶はない。しかしなんで一斗缶に見えたのか。
「ケケケ。ぼくはなにも言ってないのに」
「笑ってただろ。わかった。同じ顔がいけない。イヅメが神名を改めてあげる」
三男神の額に入墨を施す。
「オマエはバカノヲ」ウワノヲの額に莫迦の字の入墨。
「オマエはアホノヲ」ナカノヲの額に阿房の字の入墨。
「オマエは、……そう、ニクノヲの神名を、あ、げ、る」ソコノヲの額に肉の入墨。
「ケケケ。ぼくだけが1字」
「カカカ。ぼくは2字」
「ククク。ぼくも2字」
「ケケケ。イヅメさま、ぼくも2字がいい。一緒がいい」
「ツッコミどころが違うでしょ。なんで肉、でしょ。イヅメがボケまちがえたみたいじゃん。ったく」イヅメは眉間に中指を当てる。
「ケケケ。イヅメさま、ぼくも2字の神名を……、ケ。ゆ、揺れたよね」
「ク。ゆ、揺れた」
「カ。地震、地震」
三男神は怯え、イヅメにしがみつく。
「ケケケ。イヅメさま、地震です」
「カカカ。イヅメさまはツツノヲ三男神が護ります」
「うっとおしい。ひっつくな。もう、揺れてない。離れろ」
「ククク。イヅメさまの胸は揺れないくらい小さ……」
ドス。イヅメが拳でアホノヲ(ナカノヲ)を殴る」
「ケケケ。見えました、ぼくは拳が見えました」
「カカカ。ぼくも見えました。グーで殴りました」
「ククク。ぼくは見えませんでした。一緒がいいのに、ぼくだけ……」
イヅメは溜息をつく。
「ダメだ、こりゃ」
『はい、戦場(イクサバ)で自尊心はいりません』
ワカフツヌシさんの一言。
*
近所の月読神社(元・氷川神社)で、大阪旅行と戦に備え、リハビリと剣技の修練が始まる。2週間もない。旅費は店長の協力でなんとかなるけれど、リハビリと剣技の修練はなんともならない。私しだい。
だけど。
「ちょ、ちょっと待って、ワカフツヌシさん。ちょっとだけ、キツくないかな」
「いえ、姫が毎日の修練……」
「タカヒメは、こんな修練をやってるの」
だけど。いきなり、ビギナーの私がタカヒメと同じ修練を熟せるわけない。
「いえ、姫が毎日の修練を始める前にやってる、軽い運動です」
軽い運動なのか。朝に剣を振り、軽い運動と修練。タカヒメの笑う顔が浮かぶ。
タカヒメに笑われるのは、イヤ。とっても、イヤ。
「はい、どうしました、ツクヨミさま」
「まったく、キツくないから、大丈夫だから」
「はい、わかりました。では、まいります」
ワカフツヌシさんが竹刀を振り上げる。
「だッ、だけどッ。ちょっとッ待ってッ。キツくなくてもッ大丈夫だからああああッ」
私は叫ぶ。
**
「カカカ。ぼくはウワノヲ」
「ククク。ぼくはナカノヲ」
「ケケケ。ぼくはソコノヲ」
「「「カクケカクケ。ぼくらはアマノクメ組……」」」
ガコ、ガコ、ガコン。
「「「カクケッ」」」アマノクメ組ツツノヲ三男神が叫ぶ。
正座で畏る三男神の頭に金タライが落ちる。見あげると銀の鈴がある。ここは舞台でないので吊り物はない。落ちた金タライもない。しかしなんで金タライが見えたのか。
「なーーんで金タライが見えたのか。ヘマをやったから天ツ罰」
東京駅八重洲地下中央口の銀の鈴の待合処。1968年に、東京駅待合処の目印として本坪鈴(神社鈴)が掲げられた。2007年に4個目の銀の鈴が掲げられた。
隠世(カクシヨ)に隠れてるため、人々にイヅメも三男神も見えてない。イヅメの説教も三男神のグチも聞こえてない。
「ったく、神威の弱まってるワタっ娘の代わり、甲子園で連れてきたのが、こんなポンコツか。いーか。つぎにヘマをやったら、ケツの穴に手ェ突っこんで尻子玉……」
ウワノヲは怯える。ナカノヲは泣きじゃくる。ソコノヲは尻に手を当てながらすごいスピードで後ずさる。
「そんな怯えない、泣かない。おーい、後ずさらなーい。戻ってこーい。イヅメが苛めてるみたいじゃん。ったく、今時の神は」イヅメは眉間に中指を当てる。
恐る恐るとソコノヲが戻ってくる。
「いーかー、明後日、ツクヨミがカワチに向かう」
「カカカ。明後日なのに集合だって。それに朝の8時だよ」こそっとナカノヲに話す。
「ククク。おばさんは気も早いけれど、朝も早いよね」
ボコ、ボコ、ボゴン。
「「「カクケッ」」」ツツノヲ三男神が叫ぶ。
正座で畏る三男神の頭をイヅメがメガホンで殴る。見るが、イヅメの手にあるのは頭槌の剣。メガホンはない。しかしなんでメガホンに見えたのか。
「聞こえてるんだよ」
「ケケケ。ぼくはなにも言ってないのに」
「心の声も、聞こえてるんだよ。ツツノヲ三男神といえど、イヅメを怒らせると鬼籍に入れるよ。住吉大伴神社のことは忘れないからね」
「ククク。かってに、一族が落ちぶれただけじゃん」
「カカカ。じぶんのこと、イヅメって言うんだ」
「ククク。イヅメさまってぶってる、ぜったい」
「おい、ナカノヲ」イヅメが睨む。
「ケケケ。ぼくはソコノヲです。ナカノヲはこっちです」隣の男神を指す。
「ククク。イヅメさまも、今年で1800000と50歳。人でいえば井森美幸と同じ歳」
「カカカ。悪魔でいえばデーモン小暮の5歳下」
「ククク。見た目は若くても物覚が悪いのは、やはり歳の……」
ゴン、ゴン、ゴーン。
笑う三男神の頭をイヅメが一斗缶で殴る。見るが、イヅメの手にあるのは頭槌の剣。一斗缶はない。しかしなんで一斗缶に見えたのか。
「ケケケ。ぼくはなにも言ってないのに」
「笑ってただろ。わかった。同じ顔がいけない。イヅメが神名を改めてあげる」
三男神の額に入墨を施す。
「オマエはバカノヲ」ウワノヲの額に莫迦の字の入墨。
「オマエはアホノヲ」ナカノヲの額に阿房の字の入墨。
「オマエは、……そう、ニクノヲの神名を、あ、げ、る」ソコノヲの額に肉の入墨。
「ケケケ。ぼくだけが1字」
「カカカ。ぼくは2字」
「ククク。ぼくも2字」
「ケケケ。イヅメさま、ぼくも2字がいい。一緒がいい」
「ツッコミどころが違うでしょ。なんで肉、でしょ。イヅメがボケまちがえたみたいじゃん。ったく」イヅメは眉間に中指を当てる。
「ケケケ。イヅメさま、ぼくも2字の神名を……、ケ。ゆ、揺れたよね」
「ク。ゆ、揺れた」
「カ。地震、地震」
三男神は怯え、イヅメにしがみつく。
「ケケケ。イヅメさま、地震です」
「カカカ。イヅメさまはツツノヲ三男神が護ります」
「うっとおしい。ひっつくな。もう、揺れてない。離れろ」
「ククク。イヅメさまの胸は揺れないくらい小さ……」
ドス。イヅメが拳でアホノヲ(ナカノヲ)を殴る」
「ケケケ。見えました、ぼくは拳が見えました」
「カカカ。ぼくも見えました。グーで殴りました」
「ククク。ぼくは見えませんでした。一緒がいいのに、ぼくだけ……」
イヅメは溜息をつく。
「ダメだ、こりゃ」