76 わりきれない神宮

文字数 2,007文字



 ヲハリ族は壬申の乱で天武天皇に随い、武功で外戚一族となった。
 近江国の鍛冶族を排したあと、ヲハリ族は強くなった。そして天武天皇はヲハリ族の帰順を疑った。猜疑に係わらず、ヲハリ族はさらに強くなった。天武天皇の死後の天武系皇統と関係が悪くなり、さらに天智系皇統が復した。
 天智系皇統は再び藤原氏の外戚政治(摂関政治)となった。
 桓武天皇は石上神宮の神宝献上を強いた。

『し、神剣も、ミカヅチヲの佩剣も高天原から葦原ノ中ツ国へと降りる。か、下賜だ。ミカヅチヲの佩剣は、崇神によりニギハヤヒの後裔一族が賜る。イ、イソノカミの社に奉じられる。神剣は、天武によりホノアカリの後裔の、ヲ、ヲハリ族が賜る。アユチの社に奉じられる。神剣はホノアカリの佩剣と、か、考える。高天原の日神に座を奪われた、天運(強い神威)のない葦原の日神、だ』

 だけど祭神の祟りで返した。藤原氏の欲した神剣は石上神宮に返された。
「なんでミカヅチヲの佩剣が、ミカヅチヲの祀る鹿島神宮や藤原氏の奉じる春日大社でなく、石上神宮にあるのか。なんで神剣はニギハヤヒの佩剣でなく、ミカヅチヲの佩剣なのか。なんとなくわかる」スマホを弄る。

 神託は覡により伝えられる。
 時代は変わる。武力による権力も、高天原の日神の、神威の力による権力も衰える。古い力は新たな力に潰される。八幡神の神威の力、藤原氏の権威の力に潰される。
 ヲハリ族の長は熱田神宮の神官を嫡子でなく、養子の藤原季範に譲る。隠れる。
「ヲ、ヲハリ族は隠れたから、ほんとうのコトはわからないが、ホノアカリも、ヤマトタケルも高座に座る機会はあった。ニ、ニギハヤヒは高座を欲した。高市も、タカクラジも欲しなくとも、周囲は高座に座るコトを欲した。た、高座は欲望だけで座れない。天運(強い神威)が必要、だ」
 藤原氏はニギハヤヒの後裔一族が行なってた宮中祭祀も行う。神宮の祭祀も行う。大中臣氏。
「と、時の権力者が代わり、時代が変わる。高天原の日神と異なり、ヤハタの神は権力者の事情にあわせた神言(神託)を言う。や、やがて権力者と成る権威も、神威も要らなくなる。まさに法威、だ。佛の世の理(コトワリ)も、人の世の理と変わらない。強かな知力と、金力と武力を以て権力と成れる」
 超越な、隠然な神様の威力。畏まる大いなる神様の威力。人の力の及ぼない絶対な神様の威力は弱まる。いや、なにもしない、なにも言わない神様は要らない。佛様が居ると神様は居れない。隠ヌモノとなる。
「ヤ、ヤハタの神は、オノレに随えばいいと言う。手とり足とり。なにも思わず、考えず。脳髄は腐り、シらす政治は、再び、う、領(ウシ)はく統治と変わる。天皇の権威は、高天原の日神の神威は権力保持の道具と成る」
 昔の尾張国と三河国は、今の愛知県。偶然だろうか、源頼朝、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の本貫地だ。
 源頼朝は藤原季範の家で産まれる。幼名は鬼武者。鎌倉幕府を作り、武家政権を始めた時の権力者。源頼朝は鎌倉幕府の護り神として熱田大神でなく、鶴岡八幡宮の八幡神を選ぶ。天智系皇統の護り神は坂東武者(武士)の護り神となり、東国に多く祀られる。わりきれない後白河天皇。
 八幡神は天ツ神、国ツ神、八百万神を随え、静かに全国に佛教を伝える。

「脳髄の弱いバカの、懸命に戦うバカのニギハヤヒがかわいく思う」
「ツ、ツクヨミがニギハヤヒを褒めるのか。わ、笑える」
「笑えない。なんでニウヒメはニギハヤヒに惚れたのか、まーったく、わからない」
「……な、なるほど。なぜ、ニウヒメはニギハヤヒに惚れたのか、き、気になる」
「私はニウヒメと遇いたいけれど、ニギハヤヒと遇いたくない。色々な事情を訊かなければならないとわかるけれど、わりきれない」
「あ、遇ったほうがいい。なにかニギハヤヒは惹きつける力が、ある」
「どうしたの、クエビコさん。マジメなムーな話が、ヘンな話に変わった」
「ど、読者が長く続くムーな話にクレームを言ってきた。言いたくないが、ぶ、[武神彼氏]はラブコメ、だ。恋バナもしなければならない」
「えーーーーーーーーーーーーーー」ワカヒコくんよりも長く。
「さ、さらに長く続くから、な。読者が遠のかないためだ」
 前方を歩くレッツゴー三匹が立ちどまり、後方を歩くオオクニヌシさんが顔をあげる。私は手を振る。つられて、レッツゴー三匹とオオクニヌシさんも手を振る。



 そして明治維新。政権は江戸幕府から明治政府へと移る。大政奉還。
 明治政府は、神話により神道を整え、伊勢国の神宮により神社を整え、祭神(高天原の日神)により神統を整える。
 神話に出ない八幡神は皇祖神になれない。まして蕃神。高天原の日神は天武系皇統の皇祖神。明治政府は神話の上書保存を行う。改めて高天原の日神は天智系皇統の皇祖神となる。わりきれないけれど明治天皇は神宮に奉じる。こっそりと石清水八幡宮は神宮とともに二所宗廟となる。
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