28 コノハナサクヒメ

文字数 2,965文字



 4月1日。旅費節約のため日曜出発。
 エイプリルフール。なんでウソをついていいんだろうか。なんでウソをつかれていいんだろうか。スマホを弄る。理由は不明。スマホを弄っても、わからないことはあるんだ。

 石切劔箭神社上之社で休養中の、ニウヒメさんの色々な誤解を解き、ニギハヤヒに色々な事情を聞く大阪旅行。色々な事件事故があり、予定どおりならないと思うけれど。
 スマホで旅程を確認。
 へえ。石切劔箭神社に東京分祠があるんだ。さすが大阪の神社は違う。商売上手。

 オオクニヌシさん、ワカヒコくん、私は島根旅行の罪悪感で現世(ウツシヨ)のままの有賃乗車。クエビコさんは喋るから隠世(カクシヨ)に隠れてほしかったけれど嫌がるので、やはり現世のまま。クエビコさんの畳んだ体とみんなの剣を竹刀袋に、捥いだ頭を防具袋に入れる。クエビコさんは手荷物扱なので無賃乗車(?)。
 店長は店があるので来られない。偶然に、予約客がいるらしい。
 ワカフツヌシさんは旅費節約のため、時空間を翔んで現地で待ちあわせ。

 南与野駅から東京駅まで埼京線、京浜東北線で50分、新大阪駅まで東海道新幹線で150分、本町駅まで御堂筋線で10分、新石切駅まで中央線、近鉄けいはんな線で20分。合計230分。乗換を含め、約4.5時間。まあ、のんびりと行きましょう。



「速い、速い。速いね、ツーちゃん。きっとフーさんに追いついちゃうよ」
「追いつかないって。ワカフツヌシさんは時空間を翔ぶから、すでに神社についてるよ」
 島根旅行の帰路は疲れて眠ってたワカヒコくんは新幹線にはしゃいでる。車窓に流れる風景に驚く。オオクニヌシさんが作った弁当も気になるらしく、チラチラと私を見る。
「もうちょっとしてからね」
「モウチョット、モウチョットってどのくらい」
「拙い口調に騙されないからね」
「ツーちゃんは、イジワルだよね、ホントイジワル」
 ワカヒコくんの頭を軽く叩く。
 オオクニヌシさんは雑誌を読んでる。時々、チラリと私を見る。目が合い、私が手を振る。オオクニヌシさんは目を逸らす。かわいい。

 車窓に富士山が見える。
 コノハナサクヒメは親神オオヤマツミに、富士山とともに東国(東日本)の山々を譲られる。だけど富士山は駿河国の山。足柄関の西側、西国(西日本)にある。なぜか東側、東国の山となる。
 瀬戸内海の大三島にオオヤマツミを祀る伊予国一宮の大山祇神社がある。伊豆国一宮の三島神社(三嶋大社)を東限に、オオヤマツミを祀る神社は西国に多い。三島神社の以東でオオヤマツミを祀る神社は三島神社の分祀、または近代創建の神社。三島系。
 オオヤマツミは西国の山神、島も山ということで海神となる。
 東国の山神は西国の山神の娘神。西東京市、東伏見稲荷神社。ややこしい。

 膝上の防具袋のクエビコさんが喋りたがる。布で作られた頭の口の処の[へ]の字が縦横に動く。
「コ、コノハナサクヒメを祀ったのは、神話の後だ。そして神話で、フ、フジの山も、フジの神も書かれてない」
 聞きたい。うーん。しかたがない。クエビコさんを出してあげる。



 781年の噴火で浅間神社が建つ。神話で富士山は書かれてないけれど、延喜式神名帳で富士郡の浅間神社は書かれてる。駿河国一宮。比定社は富士山本宮浅間大社。
 じつはコノハナサクヒメの前は浅間(アサマ)神を祀ってた。ゆえに浅間神社。
 800年から802年までの噴火で、降灰で足柄坂を越える足柄路(昔の東海道)が塞がれる。箱根坂を越える箱根路(今の東海道)ができる。さらに富士山を囲むように浅間神社が建つ。コノハナサクヒメを祀ったのは、海人族の隼人。アタ族。
 オオヤマツミは隼人の崇める神様。神話でコノハナサクヒメはアタの姫。オオヤマツミに仕えるアタ族の若き巫。コノハナサクヒメは、巫の神格化で娘神となる。
[巫]の字源は神様を天降ろす工形の祭具の象形文字。のちに歌い、舞い、祭で神様を誘う人。饗す人。カムナギ(神和ぎ/神薙ぎ)。巫は女で、男は覡、祝。巫を見て随う下位の[覡]。祭主が男となり、示(饌台)と兄(跪いて祭言を唱える人)で上位の[祝]。家族の祭祀は長男が、一族の祭祀は長の長男が行うため、兄となる。
 ついで。[祝]と[呪]は同じ字源。良い祭言は祝言、悪い祭言は呪言。口に、口が加わって[呪]。口は禍(災)のもと。ついでのついで。[呪う]は[まじなう]と[のろう]と読む。調べてみてね。

 大隅半島と薩摩半島に挟まれた鹿児島湾(錦江湾)の桜島。桜島も火山。昔も今もチョー火山活動中。桜島の古名は鹿児島(籠島/麑島)。 鹿児島神宮の神体で、ほんとうの祭神はコノハナサクヒメ。山に咲く桜の神様。火山の神様。隼人のアイドルは昔も今もチョー活躍中。

 隼人は征東軍に入れられ、蝦夷(エミシ)の征討を強いられる。毒を以って毒を制す。
 コノハナサクヒメは、東国に旅だつ隼人の夫を見おくる妻の神格化となる。

 のちに隼人は東国に留まり、山々に住み、山人族となる。富士山本宮浅間大社に奉じるフジ族はアタ族の後裔一族。コノハナサクヒメは富士山の、東国の山神となる。一説に伊古奈比咩命神社の祭神と同神。
 富士山本宮浅間大社の奉仕を命じたのは征夷大将軍の坂上田村麻呂。じつは蕃国(トナリノクニ)のヤマトのアヤ族の後裔。一説に出自は和歌山県(紀伊国)。本家の近所に墓がある。なんかとても嫌なかんじ。
 801年に音羽山清水寺で征夷祈願を行い、征夷軍を率いる。
 802年に蝦夷の長アテルイ(阿弖流為)に和平を解き、捕える。アテルイを連れた帰路、アタ族に富士山本宮浅間大社の奉仕を命じる。



 九州の式内大社は青潮の流れる対馬国、壱岐国、九州北域の筑紫国(筑前国・筑後国)、肥国(肥前国・肥後国)、豊国(豊前国・豊後国)に集まる。天孫降臨神話に関わる九州南域の薩摩国、大隅国、日向国は大隅国の鹿児島神宮だけ。
 そして九州南域の神社は隼人や熊曾に関わる祭神、国ツ神は少ない。あたりまえだけど天孫降臨神話に関わる祭神は多い。一宮は天ツ神だらけ。ボスザルの祖神。大隅国一宮の鹿児島神宮、薩摩国一宮の枚聞神社、新田神社。天孫降臨神話の発祥地の日向国だけが国ツ神。都農神社(一宮)、都萬神社(二宮)。
 なんでだろう。
 なぜかミナカタヌシさんを祀る諏訪神社(南方神社)は多い。大隅半島に諏訪神社がある。神社のさきに佐田岬がある。
 九州南域の神社に、善くも悪くも大きく影響を与えた島津忠久。信濃国を経て大隅国、薩摩国、日向国の守護職を命じられた。九州南域の神社の崇敬と、県民教育を積んだ。
「す、崇敬の結果、祭神は天ツ神に変わった。教育の結果、は、隼人の後裔は、め、明治維新を進めた。昨日まで反乱を起こしてたが、あ、明日は尊王攘夷。笑える」
 隠された大隅国、薩摩国、日向国の国ツ神。
「天ツ神の戦で、ともに戦いたいけれど、隠しさきがわからない」
「く、国ツ神だから、な。すでに幽世(カクリヨ)に去っただろう」
「あと、日神の随神、ミサキ神になったか」
「そ、そうだな。とても笑える」



 田村麻呂の請願も虚しく、アテルイは斬首となる。和平に応じ、殺されたアテルイ。1994年に音羽山清水寺に慰霊碑が建てられる。
 そしてコノハナサクヒメは、東国の護り神となる。
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