63 シラフの泪・後篇

文字数 3,141文字



 とりあえずクエビコさんもわからない万九千神社を調べる。
 イヅモ族の奉じる神社だ。
 旧暦10月、ミサキ神の海蛇神に導かれ、全国の神様が稲佐の浜、恵曇の浦に流れつく。なんか全国の神様だけでなく、外国の神様も流れ着きそうなかんじ。出雲大社、佐太神社で神在祭が行われ、万九千神社で神様を送りだす。
 万九千神社の近所に荒神谷遺跡と加茂岩倉遺跡がある。神谷と岩倉。蛇神の棲む谷と巨石信仰の磐座、神座。
 荒神谷遺跡で銅鐸6口、銅矛16振と、全国最多の銅剣358振が見つかる。加茂岩倉遺跡で全国最多の銅鐸39口が見つかる。ともに整然と並べ埋められる。荒神谷遺跡の銅剣358振のうち344振、加茂岩倉遺跡の銅鐸39口に鋳造後に×印が刻まれる。
 スマホのマップをピンチイン。
 ……富神社。出雲国の神話で、出雲社。
「ど、どうした、ツクヨミ」
「あ、いや、なんでもない」なんとなくクエビコさんの泪目が気になってしまう。

 神話で古の戦の地に、出雲神が天ツ神に負けた地に建つ神社。史話で出雲国の内戦地に、カムド族がホヒ族に負けた地に建つ神社。出雲国が大和国の統治下となった地に神在祭の行われる神社。青銅器の埋められる遺跡。ちょっとだけど離れた処にオオクニヌシさんの宝を隠した神原神社と遺跡がある。やはり神在祭が行われる。
 カムド族を祀りあげるため、鎮めるため、荒神谷遺跡と加茂岩倉遺跡に×印の刻まれた銅剣、銅鐸が埋められる。出雲大社が建てられ、神在祭が行われる。
 天ツ神の全国統治の正当を謳うため、イヅモ族はほんとうの祭神を隠す、変える。神話に、嘘の史話にあわせた神社を建てる。



 神在祭のために建てられた万九千神社。
 創祀、創建は不明。式内社の神代神社の論社。諸説があるけれど、神代神社の祭祀場に地主神を祀る立虫神社が建つ。立虫神社が本社となり、神代神社は摂社となる。神代神社は万九千神社と変わり、本社となる。立虫神社は摂社となる。ややこしい。万九千神社の祭神は、熊野大社の櫛御気野命。神代神社のほんとうの祭神を隠す、変える。
 熊野大社の祭神は意宇川の古の神様だけど、イヅモ族の出雲国造神賀詞で、伊邪那伎日真名子 加夫呂伎熊野大神 櫛御気野命(イザナギがかわいがる子 イヅモ族の祖神・熊野大神 櫛御気野命)となる。つまりスサノヲさん。
 イザナギはかわいがってない。熊野大社の祭神はスサノヲさんでない。スサノヲさんが慕うイザナミさまという神名の、古の神様だ。
 祭神も怪しいけれど、神体も怪しい。万九千神社も斐伊川の巨石を祀る巨石信仰で、神体は拝殿の後方に聳える巨石。じつは3代目の神体。
 かつてあった1代目の神体は斐伊川に流され、2代目の神体を斐伊川で拾ってきた。もうちょい神体っぽい巨石ということで、3代目の神体を斐伊川で拾ってきた。神体っぽいけれど座り悪いからコンクリートで固めた。コンクリートで固められた神体。
 石切劔箭神社を思いだす。
 畿内の神社や仏閣の石塔、大坂城の石垣は、生駒山を削った生駒石で造る。石切劔箭神社のほんとうの祭神は上之社に祀る生駒山の山神。神体を削った生駒石で造った石塔、石像、石柱が境内に並ぶ。生駒石の展示会。考えれば、神社の狛犬、鳥居も石造。石神(シャクジン)信仰の石棒も石造。



 出雲国の神在祭で、イヅモ神の崇めるセグロウミヘビは、海の荒れた後の恵曇の浦にうちあげられる。ミサキ神に導かれ、アマ(海)の彼方からアマの神がやってくる。アマの神は豊漁(海の幸)を齎す海神。荒れた後の豊漁を導くミサキ神(海蛇神)。
 のちに出雲国はイヅモ族が治め、アマの神は天神、天ツ神となる。
店長を祀る佐太神社、タカヒメを祀る売豆紀神社、多賀神社(朝酌下・朝酌上神社)でコトシロヌシさんの釣ってきた海の幸と酒に饗(もてな)され、オオクニヌシさんの宝を隠した神原神社、オオクニヌシさんの妻問(神話で沼河の姫)を行った朝山神社を通り、万九千神社で去る。なぜか神去後も、神在祭は出雲大社、日御碕神社で行われる。
 出雲大社は、神話で出雲硐之曽宮、天日隅宮、出雲国の神話で天日栖宮。
 日御碕神社は、オオクニヌシさんを祀りあげる出雲大社の元社。出雲国の神話で、夕日の神事が行われた。神宮が昼を護り、日御碕神社が夜を護ったとある。

『よ、夜見ノ国を通らなければならない。さ、さっきのニサの社(爾佐神社)がある処だ。よ、夜見の国を護る神が、ツクヨミだ。そ、そういえば、ヒのミサキの社(日御碕神社)の末社にツキヨミの社がある。やはり社を、隠してる』

『カ、カンノン(観音菩薩)のいる浄国(補陀落浄土)は南方だが、アミダ(阿弥陀佛)のいる浄国(極楽浄土)は西方だ。ひ、日の沈む、日神の眠る海の彼方に、アミダがいる。つ、つまりイヅモの海の彼方だ。ヒの崎(日御碕)にヒの社(日御碕神社)がある。オオクニの、キヅキの社に、て、天台宗の寺があった。蕃神(トナリノクニノカミ)の説く浄国は海の西方、つ、青潮の彼方にある。潮で流されてくるのは、客神(マラウドノカミ)であったり、ま、客人(マラヒト)であったり、珍しいモノであったり。スクナヒコも流されてきた。い、古の戦でイナサの浜(稲佐の浜)に、あ、天ツ軍が流されてきた。笑える』

『さ、さらに何気にクマノの神は天台宗の権現となる。ハヤタマの神の本地仏は、ヤクシ(薬師佛)だ。クマノの神は天台宗とヤハタの神ともに、ト、トヨ(豊国)に始まる、と言いたいのだろう』

 佛様が出雲国と紀伊国の熊野を変えた。天台宗が熊野大社と出雲大社の祭神をスサノヲさんに変えたという。佛葬で、日の沈む、日神の眠る西の海の彼方に、浄国、常世(幽世)に出雲神は送られたわけか。

 そしてホヒ族(のちのイヅモ族)の奉じる神魂神社。イザナミさまを祀るため、ホヒヒコが建てたという。古社ながら神話に、出雲国の神話にない私的神社。つまりホヒ族がオオクニヌシさんを祀りあげる出雲大社の元社。



 神話のために建てられた斐伊神社。
 式内社の斐伊神社と同社坐斐伊波夜比古神社の合社。やはり創祀、創建は不明。斐伊波夜比古神社の祭神はカガヒコ。つまり加害者(イザナギの佩剣のオハバリの剣)と被害者を祀る。
 イザナミさまはカガヒコを産んで死ぬ。イザナギは怒ってカガヒコを斬り殺す。イザナギはイザナミさまを追って黄泉国へ堕ちるけれど、約束を違えて還り、三貴神を生む。イザナミさまを慕ったスサノヲさんはイザナギに怒られる。高天原を神逐。葦原ノ中ツ国(出雲国)に降りて八岐大蛇を斬り倒す。そしてカムド族のオオクニヌシさんに葦原ノ中ツ国の統治を任せる。天ツ神が降りて葦原ノ中ツ国を譲る。
 出雲国の神話で書かれない八岐大蛇退治神話、国譲神話の神社が、なぜかある。神話(712年の古事記)の撰上にあわせ、出雲国造神賀詞(716年)の奏上。出雲国の神話(733年の出雲国風土記)の献上と、神社の創建。

 イヅモ族が建てた神社。
 葦原ノ中ツ国は天ツ神の統治下となる。天ツ神の全国統治の正当を謳うため、イヅモ族はほんとうの祭神を隠す、変える。神話に、嘘の史話にあわせた神社を建てる。全国各地にオオクニヌシさんを祀り、国譲神話を伝える。



 カガヒコを斬り殺したオハバリの剣。八岐大蛇を斬り倒したスサノヲさんの佩剣、ハバキリの剣。
「すべてハバの剣」スマホを弄りながら、浴衣を脱ぐ。
「蛇の古語はカカ(カガ)、ハハ(ハバ)。カカは月光で鱗が輝く虫。ハハは咬(ハ)む虫。ハブも咬むが転じる、か」乾いたブラジャーをつけながら話す。
「ム、ムラクモの剣も、オロチの佩剣、だ。ツクヨミ、オ、オレも男神だぞ」
「わかってる」
「か、体も、心もぞんざいに、あ、扱われる」
「そうかな」
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