90 ハッスル音頭で葵祭・前篇

文字数 3,463文字



「ツ、ツクヨミ。カモの祭を知ってるか」
「知ってる。みたらしだんごを食べまくる祭」
「ち、違う。まったく、さっぱり、すっぱり、みっちり、ち、違う」
「……」抱きしめた、布で作られた頭を睨む。
「あー、鴨鍋だ。あれ、ホットドッグだっけ」
「か、鴨鍋はわからないが、ホットドッグはない。いちおう、567年に始まったと言われる。だからホットドッグはない。だいたい、賀茂祭と御手洗祭は、ち、違う」
「解説に飽きたから、ボケてみました」抱きしめた、布で作られた頭にほほえむ。
 御手洗祭はみたらしだんごを食べまくる祭でなく、鴨鍋を食べまくる祭でなく、ましてホットドッグを食べまくる祭でなく、賀茂御祖神社の御手洗池に足を浸かる祭。みたらしだんごは御手洗池の水泡に模しただんご。
 賀茂祭は賀茂別雷神社と賀茂御祖神社の賀茂二社の例祭。賀茂二社の神紋はフタバアオイの葵紋。ゆえに葵祭といわれ、石清水八幡宮の石清水祭、春日大社の春日祭とともに三勅祭のひとつ。29代欽明天皇の時代に全国で長雨が続き、賀茂大神の祟りとなり、鎮めるため行なった祭祀が起源。黄泉大神のイザナミさまも、熊野大神のスサノヲさんも、所造天下大神大神のオオクニヌシさんも、佐太大神(猿田彦大神)の店長も、祟り神は、すべて大神として祀り上げられる。熱田大神も、土佐大神も、賀茂大神も、そして高天原の日神も祟り、伊勢大神として祀りあげられる。祀りあげられた祟り神は護り神と成る。

 賀茂祭は御阿礼祭(御蔭祭)で始まる。御生山(御蔭山)に建つ賀茂御祖神社の摂社の御生神社(御蔭神社)で行われる。御生山は賀茂大神(賀茂別雷命)が降りた山。ミアレは御生、御顕、御荒、のちに御蔭。空間だけでなく時間までも治める超越な、隠然な存在。人の力が及ぼない絶対な存在。人が畏まる大いなる存在が生まれる、顕れる、荒れる。決してアレでない。い、いや、アレだけど、エッチな祭だけど。
 とにかく、御阿礼祭で賀茂大神が降り、賀茂祭が始まる。



 山城国の神話で、鴨川でヤタノカラスの娘が川上から流されてきた赤い矢を掬い上げ、寝床に置いてたら、子を宿したという。子はホトヒメでない。つまり父神(赤い矢)はコトシロヌシさんでなく、オオモノヌシ(トミビコさん)でなく、火雷大神。DNA鑑定がなかったのでわからないけれど、子は雷神(賀茂別雷命)となり、天へ昇る。神話に出ない神様。女人のアレに、男神の、ア、アレを挿して生まれた神様。
 御阿礼祭は若宮(賀茂別雷神社)に祀る若神(賀茂別雷命)を降ろす祭。神様が降りるでなく、神様を若き巫(アレヲトメ)に、昔は斎王(斎院)、今は斎王代に降ろす祭。
 若神は男神と女人(ヤタノカラスの娘)の間に産まれた子。半神半人。ギリシャ神話のヘラクレス、アキレウス、ペルセウス。インド神話のアスラ(阿修羅)など。だいたいの半神半人はキレやすい。グレやすい。祟り、災い(禍い)を齎しやすい。
 ホヒのカモ族はヤタノカラスの娘の後裔でなく、兄の後裔という設定。賀茂大神は天へ昇ったので後裔一族はない。ホヒのカモ族の祖神でない。甥神。ややこしい。
「なんで遷都前の山城国で、ホヒのカモ族の祖神でない、神話に出ない賀茂大神の祟りで賀茂祭が始まるんだ。なんかあやしい」
「そ、そうだな」

 ハタ族の神話で、桂川(葛野川)でハタ族の娘が川上から流れてきた赤い矢を掬い上げ、戸に刺してたら、子を宿したという。父神は大山咋神。じつは大山咋神は火雷大神と同神。つまり平安京はハタ族の奉じる親子の神様に護られる。

 ついで。播磨国の神話で、荒田神社の祭神がカゲヒコさんを宿したという。カゲヒコさんの父神は天目一神社の祭神。本当の父神は台風の神様、つまりスサノヲさん。だけどカゲヒコさんは認めない。じぶんは鍛冶の神様と言いはり、独学で鍛冶技術を学ぶ。
 似た神話が多いのは山の鍛冶族の長と、タタラ製鉄や鉄穴流しによる水害(土砂災害)を被った里の一族の若き巫の恋バナ。赤い矢は砂鉄を含んだ川砂。違えて子は山に還る。



 大陸から豊前国を経て山城国葛野郡太秦へと移ったハタ族。本拠地は大酒神社(大辟神社)。のちに松尾大社(松尾神社)へ移る。ハタ族は豊前国の宇佐神宮(宇佐八幡宮)の祭神、八幡神に関わる。[辟]の字意は開く、除く、治める、召す。[酒]の字が当てられ、いつのまにか祭神は酒の神様となる。

 一説に天智天皇は、はじめハタ族に山城国遷都を勧められた。だけど山城国は未開の地。山だらけ。技力と財力のある近江国の鍛冶族に嘯かれ、近江国遷都を決めた。
 天智系皇統に復した50代桓武天皇は、やっぱ技力と財力のあるハタ族に囁かれ、山城国遷都を決めた。ハタ族の勧誘を断った天智天皇は兄弟に殺されました、と。

 平安京はホヒのカモ族の治める愛宕郡と、ハタ族の治める葛野郡の2郡に広がる。すでにホヒのカモ族とハタ族は姻族。産鉄や製鉄の技術はハタ族のほうが優れる。
 ハタ族はナグサヒコの一族の紀伊郡を治める。伏見稲荷大社はナグサヒコの一族が奉じてた神社。鍛冶族の綴喜(筒木)郡を治める。朱智神社は鍛冶族の祖神を祀ってた神社。ハタ族の造船技術はナグサヒコの一族よりも優れ、鍛冶技術は鍛冶族よりも優れる。
 オウ族の桑田郡を治める。愛宕神社はオウ族が奉じてた神社。ハタ族は誰も気づかないように、ゆっくりと治める。誰も気づかないように、ひっそりと地主神を変える。ハタ族の技力と財力は河内国、和泉国、摂津国、播磨国、阿波国、伊予国と広がる。一帯一路。



 桓武天皇は政略で藤原氏族の娘を娶る。
 藤原氏族の血統を継ぐ子、兄の51代平城天皇と弟の52代嵯峨天皇。藤原氏族の推す兄は父の政策を変えたい。弟は父の政策を継ぎたい、藤原氏族を除きたい。兄弟は戦い、弟は賀茂大神に戦勝祈願を行う。勝ち、娘を生贄(アレヲトメ)として献じる。
 賀茂祭は宮中祭祀となる。
 
 ハタ族が囁く。
 あなたの望みを叶えましょう。ほかの賢しい蕃族、姻族と違い、ハタ族はみかえりを望みません。ただ、みんなと楽しく暮らしたい。ただ、みんなの地主神の隣にハタ族の神様を同じく祀りたい。誰も気づかないように、ハタ族は武力でなく、技力と財力で河内国、和泉国、摂津国、播磨国、阿波国、伊予国の商権を治める。誰も気づかないように、ハタ族は商圏の中心の、神社の祭神を変える。
 祝いましょう。言祝(寿)ぎましょう。祭を行いましょう。祭る神を考えましょう。
 ショータイム。好きなだけ楽しみましょう。
 そうだ。リブート。子神という設定はどうでしょうか。シン・八幡神。
 賀茂祭を始めた欽明天皇。八幡神を祀りなおした欽明天皇。ハタ族は欽明天皇の、桓武天皇のスポンサー。平安京も、賀茂祭もハタ族の技力と財力の御蔭。賀茂祭は、まずは御阿礼祭(御蔭祭)で始まる。賀茂祭で賢しい蕃族、姻族にハタ族の権威と、祀った神様の神威を気づかせる。
「ヲハリ族、近江国の鍛冶族、オウのカモ族、ホヒのカモ族、藤原氏族を排するため、無名な神様は創られた。祭のために創られた神様」
「そ、そうだ。ハタ族は強くならない。祀る神も、なにも言わない。しない。気づかないように、ゆっくりと古の神に合わさる。ひっそりと古の神を、あ、合わせる」
 負けず850年に藤原氏族は、奉じる春日大社で春日祭を始める。
 ホヒのカモ族は、ただのパリピーとなる。



『い、古の戦の話だ。ヤマシロのアタ族は月神を祀るが、キイのアタ族は、ま、祀らない』

 山城国葛野郡、綴喜郡、丹波国桑田郡にツクヨミ(月神)を祀る神社が多い。だけどツクヨミでない。アタ族の崇める月神でない。ハタ族の奉じる月神。シン・月神。
 
 有名な神社は、葛野郡に建つ松尾大社の摂社の月讀神社(葛野坐月読神社)。綴喜郡に建つ隼人舞発祥の月讀神社、神南備神社(甘奈備神社)、樺井月神社。桑田郡に建つ出雲大神宮よりも古い小川月神社。すべて伊勢国や丹波国と関わる神社。
 さらに綴喜郡は竹取物語の話の地。
 話は、帝は富士山の山頂で不死の薬を焼き捨てる。富士山は不死の山となる。帝は死ぬけれど、富士山は死なない。かぐや姫を諄く男は壬申の乱の功臣が、帝は文武天皇がモデルという。じつはかぐや姫が主役の話でなく、竹取の翁が主役の話。かぐや姫により財宝を得た翁(鍛冶族の長)の物語。
 帝と翁はかぐや姫を失い、かぐや姫は記憶を失う。大和国は穢れた地で、かぐや姫は月へ還る。一説に月は山城国(または丹波国)という。月からのシ者はハタ族か。カジ族か。
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