71 アンラッキーな丹生神社

文字数 1,986文字



 天武天皇と后(のちの41代持統天皇)は、神話により神道を整え、伊勢国に建てた神宮により神社を整え、祀った祭神(高天原の日神)により神統を整える。
 力は衰える。または古い力は新たな力に潰される。武力による権力は衰える。衰えない力。潰されない力。武力によらない権力。新たな武力も畏まる権力。
 国を平らげるための、人を治めるための権威の力。

『い、畏怖も、畏敬も、同じ感情だ。わからない存在に、お、おびえる心。うやまう心。つまり超越な、隠然な存在に、人の力の及ぼない絶対な存在に、か、畏まる心』

 空間だけでなく時間までも治める超越な、隠然な存在の威力。人の力が及ぼない絶対な存在の威力。人が畏まる大いなる存在の威力。
 神様の、畏怖と畏敬の利用。
「し、神威。高天原を統べ治める日神の神威、だ。己は日神の神威を継ぐゆえ、葦原ノ中ツ国も、永遠に統べ治める正当(正統)な権威もあると、の、曰った」
「永遠は、出雲神だけでないんだ」
「そ、そうだ。己が衰え、死んだ後も永遠に権威は継がれる。今の空間だけでなく、先の時間までも統べ治める。まさに、し、神威だ」
 祭(マツリゴト)は、政(マツリゴト)とともに権力者の下で行われる。神宮(高天原の日神)の奉仕が許されるのは天武系皇統だけ。



 天武天皇の母の、35代皇極天皇(重祚で37代斉明天皇)はまさに神威を継いだ。
 皇極天皇から天武天皇の時代まで自然災害が多かった。とくに皇極天皇の時代は旱魃や長雨などの気象異常が多かった。天災。天の災い。天の祟り。
 皇極天皇は天の祟りを鎮めた。旱魃に雨を降らせ、長雨に雨を止ませた。日神の随神、水神を自由に操った。祈止雨祈願。
 皇極天皇は夫の34代舒明天皇の後を嗣ぎ、蘇我氏の外戚政治(摂関政治)を排した。
 皇極天皇は道教を重んじた。宮所(岡本宮)の近所にある酒船石遺跡は皇極天皇の祭祀場。両槻宮、または古代中国の天帝(道教の天皇大帝)の天宮と呼ばれた。
 槻(欅)は神木。斎槻。槻(ツキ)は月(ツキ)。再生や甦生の象徴。調神社も槻だらけ。月神は祀ってなかったけれど。

 また、紀伊半島は丹生(赤色硫化水銀の鉱脈)があった。丹生の東端に神宮が、西端に神宮と同格の日前神宮国懸神宮。神宮よりの三重県多気郡多気町に丹生鉱山と、タヂカラヲを祀る佐那神社。大昔からタヂカラヲは丹砂を採ってた。
 ニウ族は九州北部から丹生を求め、中央構造線づたい紀伊半島へとやってきた。中央構造線の線上に丹生神社を建てた。
 空海も丹生を求め、紀伊半島へやってきた。丹生都比売神社の神領に高野山金剛峯寺を建てた。空海は神宮も関わった。勝峰山金剛證寺を建てた。
 道士徐福も丹生を求め、紀伊半島へやってきた。紀伊半島に多い徐福神話。丹砂は道教の錬丹術で仙薬(丹薬/不老不死の薬)となった。
 丹砂の色は生きた血の色。顔料として神社や佛閣の装飾に使われた。赤色硫化水銀の精製で水銀。水金(ミヅカネ)。鍍金(滅金)で東大寺盧舎那仏像は金色に輝いた。
 みんな丹生を求め、紀伊半島へやってきた。やがて紀伊半島の丹砂が採れなくなり、空海は全国各地に丹生を求めた。空海は全国各地で有名となった。ラッキーな空海。丹生神社の祭神は水神となり、皇極天皇の祈止雨祈願の神社となった。アンラッキーなニウヒメさん。

 皇極天皇は皇祖母と呼ばれた。祖父の押坂彦人大兄皇子は皇祖大兄、母の吉備姫も同じく皇祖母と呼ばれた。一説に皇極天皇の父は茅渟王でなく押坂彦人大兄皇子。吉備姫も、茅渟王も系譜だけで非実在という。つまり夫の舒明天皇と同父兄妹。そして押坂彦人大兄皇子は近江国の鍛冶族。
 鍛冶族の血統を継ぎ、崇神・応神・継体系皇統を、正当(正統)な皇統を嗣ぐ天智天皇。
 皇極天皇の前夫の子の天武天皇。かつて傍流ながら主流であった上宮王(厩戸王と山背大兄王)の血統を継ぐ。だけど正当(正統)な皇統を嗣がない天武天皇。天武天皇は、じぶんに継がれた皇極天皇の神威の血に賭けた。

 天武天皇は皇極天皇の影響で道教を重んじ、両槻宮で祭祀を行なった。皇極天皇の排せなかった鍛冶族を排し、皇親政治、専制政治を行なった。
 そして天皇となった。



 ヲハリ族は壬申の乱で天武天皇に随い、武功で外戚一族となった。熱田神宮に神剣が奉じられ、神宮に次ぐ権威の神社となった。
 鍛冶族も天智天皇から天武天皇へと翻ったけれど、すでに遅かった。



 蘇我氏が排され、大化改新で中臣氏が強くなり、のちに復した天智系皇統は再び中臣氏の外戚政治(摂関政治)となる。なぜかヲハリ族は政(マツリゴト)に関わらないまま、隠れる。
 中臣(藤原)氏は排される。
 崇神・応神・継体・天智系皇統は、正当(正統)な皇統は現代へ嗣がれる。万世一系。そして敏達天皇、押坂彦人大兄皇子、舒明天皇の父系血統は、近江国の鍛冶族の血統は、いまだ継がれる。
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