109 フツの剣の&C(.)・後篇

文字数 1,493文字



 オオクニヌシさんが私の想いをワカヒコくんに繋げるため、いや、伝えるため、前方のレッツゴー三匹と戯れるワカヒコくんに近づく。伝令使(伝令神)。
「私が近づくわけでないから、私は負けてない」
「い、いったい、なんの勝負なんだ」
「私もわからない。ただ、……」担いだクエビコさんを見やる。
「なんか物語が神話と史話と私達の実話が混じってわからなくなる」
「た、確かに。物語の設定は神話。物語の展開は史話。だが、物語の主役をどこに、な、なぜに導いてるか」
 天上で物語の展開を司り、物語の主役を導く神様。別名は作者。亦名はシオツチオジ。
「い、いわゆる、作者の都合だ。いや、気まぐれ、だ。オ、オレもわからない」 
 クエビコさんの口の処の[へ]の字が動く。口角を上げる。
「天勝国勝奇霊千憑彦もわからないか」
「も、もしかしたらカミムスヒと会ったオオクニヌシは、わ、わかるかもしれない」
「なるほど」所造天下大神を見る。
「ねえーー」所造天下大神を呼ぶ。
 前方を歩くオオクニヌシさんでなく、さらに前方を歩くスサノヲさんが振りむく。
「わ、笑える。スサノヲは鼻も効く、耳も効く。まえもツクヨミの呼ぶ声が、き、聞こえたらしい」
「私が呼んだのはオオクニヌシさん。まえに呼んだのもオオクニヌシさん」

 ……思いだした。
 ……スサノヲさんの裸を見た。アレを、初めて見た。

 私はコホンと咳。ストップ下品なネタ。
「なんだ、姉神。ナニかあったか」走ってくる。
 スサノヲさんは、スッキリとツクヨミノイローゼが治り、スッカリと私になじんでる。
 なんかあったんだろうか。
「……えーと、スサノヲさんは石上神宮の剣を盗んできた、のかな」
 尻尾を振りながら走ってきた大犬に、無下はできない。
 スサノヲさんはキョトンとする。クエビコさんが笑い、代わって答える。
「ス、スサノヲの佩剣はカミムスヒに授かってる。剣はつねに佩びてる。まえに陣屋に忘れたとき、雷が落ちて死にかけた。ト、トラウマになった」
「本物の雷神。本物の祟り神。黄泉大神が死にかけたなんて笑える」
「笑えないぞ、姉神」
「オ、オレも隣にいたから、笑えない。カミムスヒは無情の、か、神」
 神話で私(ツクヨミ)は無為の神。私達の実話でカミムスヒさまは無情の神様。
「笑える。うん、スサノヲさんがグレないでよかった。うん、鈍感筋肉神でよかった。よかったね、スサノヲさん」
「そうか。ナニか思いだしたか、姉神。そうかそうか。……そうだ。翔びまわったら記憶も神威も早く戻せるぞ。そうだそうだ」私の手を攫む。スッカリと私になじんでる。
「翔ばなくて、けっこう。話さなくて、こけこっこう。もう、イヤなものと、イヤなことを思いだした。スサノヲさん、あっち行って」攫んだスサノヲさんの手を払う。
 スサノヲさんと話すと話がややこしくなる。なによりも好みでない。
 私をドキドキとさせる、読者もドキドキとするラブコメだけの展開を作者に願う。

「……そうか。きっとそうだ」
 なんとなく物語の展開がわかった。やっぱ主役が動かないと、物語は始まらない。
 私が強くなければならない。戦場で男神を動かなければならない。
 オオクニヌシさんをキープ。そして好みの独り神を捜さなければならない。



 私の、いちばん長い日が、いちばん長い話が終わる。



[&C]はChageのアルバム。CHAGE and ASKAの無期限活動休止後、ASKAのセルフカバーアルバム[君の知らない君の歌]と同時発売。
 人はひとりでない。君はひとりでない。
 君はChageとともにある。だから[&C]。
 CHAGE and ASKAは[ひとり咲き]でデビュー。笑える。
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