46 ガテンな男神

文字数 2,044文字

***

 私は、(オオクニヌシさんはあまり翔べないため)シコヲさんに抱えられ、カゲヒコさんを祀る多度大社の別宮の一目連神社へ翔ぶ。
「なんで眼鏡をかけないの。見えないんじゃないの」
「神威で見える。戦にジャマ。だいたい、カッコわるい」
「オオクニヌシさんは、カッコいいよ」
 シコヲさんが眼鏡をかければ、サイコーなんだけれど。
「……オオクニは神威が弱いからな」プイと顔を背ける。
 もしかしたらヤキモチか、……やめておこう。
「メンドーな三角関係になる。翔んだカップルになる」
「なにをブツブツと言ってる」
「なにも言ってない」

 ワカヒコくんは防具袋を抱えながら、フラフラと翔ぶ。
「ワ、ワカヒコ、落とすなよ、いいな」
「クーさん、ウルサイ。ウルサイよ」



 旅程変更。スサノヲさんを連れて名古屋で泊まり、翌朝に大阪へ行く。
 眼下に濃尾平野の尾張国(愛知県西域)。後方に養老山地、鈴鹿山地が連なる。山のあっちが伊勢平野の伊勢国(三重県)。前方の境川のこっちが岡崎平野の三河国(愛知県東域)。養老山地の、多度山の山麓に伊勢国二宮の多度大社が建つ。

 かつて東海道は大和国、伊勢国から伊勢湾の海路で三河国へと進んだ。のちに鈴鹿山地の鈴鹿坂(鈴鹿峠)ができ、大和国、伊賀国、伊勢国から陸路で尾張国、三河国へと進む。伊勢湾で漁撈や海運を生業とした海人のイソ族は廃業。一部のイソ族は鈴鹿坂で山賊を開業。鈴鹿の姫や大嶽丸など、服わない鬼と化し、アヤ族の坂上田村麻呂に討たれる。
 東海道が陸路に変わり、窮したイソ族と潤ったアヤ族(のちのヲハリ族)。

* 

 多度大社は鬱蒼とした森のなかにあり、わかりづらい。わかりやすい大鳥居に降りる。
 参拝も終わり、広い駐車場に車はない。参道に沿い、ポツンポツンとある家の灯が灯籠がわりに黄昏時の参道を彩る。けっこう、遠いようだ。
「参道というか、ただの道路」
 布で作られたクエビコさんの頭を抱えながら歩く。
「クエビコさん、なんでスサノヲさんはカゲヒコさんの神社にいるの」
「ス、スサノヲは天ツ神でありながら、国ツ軍を、ひ、率いる大軍将だ。ただ、率いるほどの語意力、と、統率力がない。脳髄が、ない」

『ドバーッというかんじで斬る。いや、違うな。ズバーッというかんじだ。ズバーッ』

「なんとなくわかる」
「だ、大軍将はタダの飾りだ。東の軍はオオクニ、に、西の軍はコトシロが率いた。いや、オオクニも、難しい。脳髄が弱い。うわべだけの軍将、だ」
 後方の遅れて歩くオオクニヌシさんを見やる。ワカヒコくんと話してる。
「ひ、東の軍はツクヨミが率いた。初めて遇ったとき、オ、オレも、女将(オカミ)ツクヨミが国ツ軍を率いれば、勝てると、か、考えた」
「すごいプレッシャー」
「ス、スサノヲも、姉神、いや、兄神ツクヨミに敵わないと、わかってた。スサノヲは居づらかったのだろう。国ツ神も、き、気をつかう。傍に居てほしくない。めんどうなスサノヲの、グチを聞けるのは、お、同じ元・天ツ神、カゲヒコくらい」
「天ツ神なんだ。あと、鍛冶神だよね。どんな神様なの」スマホを弄る。
「オ、オノレの損得で動く。トミビコは嫌ってた。ツクヨミ、む、昔のツクヨミは、たしか好いてた、はず。……き、記憶があいまいだ、が」
「ツクヨミはカゲヒコさんを好きだったんだ」
「い、いや、違った。カゲヒコが、ツクヨミを好いてた。た、たしか断った、はず」
 ……なにを断ったんだ。

 スマホを弄る。
 別名をイチメヒコ。元・天ツ神マラノヲで、剣や斧などの武具を作る鍛冶の神様。古の戦で天ツ軍のため、降りて国ツ軍のため、武具を作った。
 オオモノヌシ(トミビコさん)を鎮めるための祭具も作った。
 店長(猿田彦大神)を祀る滋賀県高島市の白鬚神社。蕃国(トナリノクニ)の鍛冶族が奉じる。鍛冶族は、じつはカゲヒコさんも奉じる。
「オ、オウミは、鉄の国だ。鍛冶の神として祀ったのだろう。鍛冶族は天智を支え、の、のちに天武を支えた。武具を作るのが、生業。い、戦がなければ廃業となる」
 近江国の鍛冶族は、倭建命の征東征西、天智天皇の乙巳の変、天武天皇の壬申の乱、そして関ケ原合戦の武具を作った。

 多度川を渡る。
 橋を通り、川を渡ることは、神域に入る前に人の居る世界(現世)の穢れ、過ちを禊ぐこと。身を濯ぐこと。ハデな社殿。結婚式関係の社殿か。まさに世俗の汚れ。
 人は橋を通り、川を渡るけれど、神様は川を渡れない。流されてしまう。神様は橋が見えないため通れない。つまり神様は神域を出れない。あと、参道の真中は神様の通り道というけれど、神様は参道が見えないため通らない。
 怨霊を祀りあげた御霊の神様。つまりもとは人。ゆえに橋や参道が見える。御霊の神様が神域を出ないよう、橋を参道とずらしたり、参道を曲げたり、本殿を参道とずらしたり。御霊の神様は橋や参道が見えるけれど、なぜかまっすぐでしか進めない。まあ、御霊信仰も、怨霊直進も人の事情だ。
 じつは神宮も、明治神宮も参道が曲がってる。……なんでだろう。
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