16 アイドルっぽいラブゲーム

文字数 932文字

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 埼京線南与野駅。
 昔の駅の周辺は田圃。田圃のなかにぽつんと高架駅ができた。田圃のなかの駅。
 埼京線は渋谷、新宿、池袋などの東京都の副都心と、埼玉県の新都心を結ぶ。建設当時の地下線予定が、地盤問題で高架線となる。
 今の駅の周辺は整備が行われ、地盤問題対策もなく、商業施設、マンションの建設工事が進んでる。唯一、高架線の下に河童の森という整備を免れた小さな森があった。しかし河童の森も避難場として整備が行われ、キャプテン翼スタジアムが造られる。
 護ってくれた古代の田の神、森の神は逐われ、住んでた神社は壊され、マンションが建ち、人が住む。現代の埼玉県は日本列島で最も人口増加が著しい。たくさんの人が住む。


 
 南与野駅から徒歩10分の住宅街に、土合古墳群のひとつ、日向古墳がある。
 墳頂に、鮮やかなラメつきフリフリステージ衣装のアイドルっぽいイヅメと、白い神衣の山伏っぽいタヂカラヲが立つ。狭く、根で足場が悪い。イヅメの頭槌の剣と、タヂカラヲの錫杖のような鉾でたがい体を支え、寄り添うように立つ。
「もうちょっと離れてよ、タッちゃん。そんなイヅメとくっつきたいの」
「…………」
「ダメよォ、ダメダメ。イヅメはァ、オモヒカネさまのオキニだからァ」
「…………」
「どうしてもォくっつきたいってタッちゃんがいうならァ、ちょっとだけだぞ。きゃ」
「…………」
「ねえ、タッちゃんは無口なの、歌を忘れたカナリアなの」
「…………」
「山に捨てるよ、鞭でしばくよ」
「…………」
「もう、タッちゃんのキャラの設定、小説に向かないよ」
「……スサノヲが離れる」
「喋れるじゃん。ちょっとちょっと、チャンスじゃん。殺(ヤ)れるじゃん。タッちゃん、いつもの殺ったげて」
「……イヅメがやればいい」
「おいッ、やらんのかい」
「…………」
「ツッこんでよッ、おねがいだからツッこんでよ」
「…………」
「タッちゃん、なんのためにここにいるの」
 タヂカラヲは嘲う。そして見あげる。
「ちょっと、タッちゃ……ん。消えちゃった。もう、なんなのー。ちょっとだけ、オモヒカネさまのオキニだからって、偉そうに。プンプンだよ」
 曇天を見あげる。頭槌の剣を掲げる。
「オモヒカネさまのオキニはイヅメだけ。……オジャマ虫は、潰すからね」
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