93 せつない大縣神社

文字数 2,728文字



 かつて瀬戸内海の海岸づたいにエブネ(家船)に住み、海とともに生きた海人がいた。海を渡った渡り鳥のように。九州西域(肥前国=佐賀県・長崎県)の海人の末裔。一説に青潮(黒潮の分流の対馬海流)で南洋諸島(東南アジア)から台湾島、五島列島を経て九州西域へと流れついたという。かつて海の中の山神の、島神を崇め、海とともに生きた海人がいた。島から島へと渡った渡り鳥のように。
 さらに海人は陸に上がり、岡を登る。大和国忍海郡高尾張村へ移る。土隠(土雲/土蜘蛛)を葛で編んだ網で討った地。
 尾(ヲ)は山稜、または山麓へ続く稜線、張(ハリ)は墾(ハル)で、葛城山の森を墾いた族名であり、地名である。
[麓]は木々と鹿(ロク)の形声文字。[鹿]は角のあるシカの象形文字。シカはシシカミ。木々のような角が春に生え変わるため、再生や蘇生の象徴として森神のミサキ神。または崖を翔け登る、翔け降りる、堺界守護の象徴として山神のミサキ神。天迦久神。
 ヲハリ族は知多半島へ移り、知多郡、愛知(愛智)郡と治め、尾張国となる。残ったヲハリ族がフエフキ族。ヲハリ族は順(マツラ)ったか、順わなかったか。フエフキ族は順ったか、順わなかったか。わからない。
 神武征東神話で、紀ノ川(吉野川)で贄持之子、尾の張った井氷鹿や石押分之子が順ったとある。



 天武天皇の死後、皇位は1子(妃の子)の高市皇子でなく、2子(后の子)の草壁皇子が嗣ぐ、つもりだったけれど嗣ぐ前に亡くなる。草壁皇子の子の珂瑠皇子は幼く、代わって草壁皇子の母が、后が41代持統天皇として嗣ぐ。ホノニニギの天孫降臨神話は、珂瑠皇子(のちの42代文武天皇)の正当(正統)を宣うため書かせた神話という。天武系皇統は奇しくも早世の父系血統を母(女)の血で継いでる。現代の天智系皇統は辛うじて父系(男系)血統で継がれる。
 高市皇子の母の檜隈の姫はなにを思ったか。考えたか。わからない。

『じ、神武征東神話で、熊野で塞ぐ国ツ神は、なぜか女神。または女の族長、だ。石神(イシカミ)信仰は、地の、古の神の畏敬だ。水も、草木も、地から生じ、地へと還る。そして再び生じる。出生と死。さ、再生や蘇生の祭、だ。祭を司る巫が族長となり、母系血統の女が長を、信仰を継いだ。天ツ神は、順(マツラ)わぬ巫がジャマとなる』

 明治時代、天智系皇統は本当に辛うじて父系血統で継がれる。古の神様、地母神、イザナミさまの祟りか。だから祀りなおされるか。わからない。
 神話に出ない八幡神は皇祖神になれない。まして蕃神。だけど高天原の日神は天武系皇統の皇祖神。日本書紀を神話でなく、史話とした明治政府は神話の上書保存を行う。イザナミさまは祟り神でなく高天原の日神の親神として祀りなおされる。改めて高天原の日神は天智系皇統の皇祖神となる。わりきれないけれど明治天皇は神宮に奉じる。
 現代の天智系皇統は本当に辛うじて父系血統で継がれる。



 わからないけれど、なんとなくせつない話は続く。

 1話。和風諡号と漢風諡号。
 和風諡号は持統天皇の時代に始まった正当(正統)の血統、皇統を表す諡号。持統天皇の和風諡号は高天原廣野姫天皇。高天原の姫。
 漢風諡号は、最後の天武系皇統の46代孝謙天皇(重祚で48代称徳天皇)の時代に始まった古代中国に習った生前の行為を現す諡号。神武天皇から持統天皇までに贈られる。孝謙天皇の父は聖武天皇、母は藤原不比等の娘(妹)で、男子はなく、孝謙天皇が皇位を嗣ぐ。聖武天皇の父は文武天皇、母は藤原不比等の娘(姉)で、子は聖武天皇だけで、皇位を嗣ぐ。皇嗣の男子もないまま政乱と政争が続き、孝謙天皇は佛様に縋る。縋る手を握ってくれたのは佛僧の道鏡。
 769年の宇佐神宮の神言事件。天武系皇統は絶える。天智系皇統が復する。

 文武天皇の和風諡号は倭根子豊祖父天皇。根子の語意は根元。大元。大和国(倭国)の根元の祖父。天智天皇の娘で、持統天皇の父方の姉で、母方の従姉で、天武天皇と持統天皇の子の草壁皇子の后で、文武天皇と44代元正天皇の母で(ややこしい)ある43代元明天皇の和風諡号は日本根子天津御代豊国成姫天皇。持統天皇よりも強かな和風諡号。
 持統天皇と同じく天武系皇統を嗣ぎながら天智天皇の血統も継ぐ。



 2話。継体持統。
 応神系皇統は、子のいなかった25代武烈天皇で終わる。
 近江国で生まれ、越前国(高志国)で育った応神天皇の来孫(5世孫)の26代継体天皇が皇位を嗣ぐ。近江国の鍛冶族の血統と、継体系皇統が始まる。崇神・応神・継体・天智系皇統は、正当(正統)な皇統は現代へ嗣がれる。万世一系。

 亡くなった天武天皇に代わり、神話を書きはじめた持統天皇。一説に天武天皇の書きたかった神話と異なるという。きっかけは祖母の35代皇極天皇(重祚で37代斉明天皇)の死。神話で、神功皇后、推古天皇、皇極天皇は賢い、強い、優しい女。夫の仲哀天皇、敏達天皇、舒明天皇は賢しい、弱い、うっとおしい男として書かれる。男のリリーフでありながら、祭(マツリ)も、政(マツリゴト)も行う女。皇極天皇は皇祖母と呼ばれ、日神ごとく雷神を遣わす。水神を操る。蛇神を操る、鎮める。

 皇極天皇は新羅国を討つまえ、筑紫国で亡くなる。新羅国に負ける。白村江の戦。皇極天皇が生きてたら勝ってたという神話が、神功皇后の三韓征討神話。
 祖母の皇極天皇、父の天智天皇、夫の天武天皇の死を、子の草壁皇子、孫の文武天皇の死を見ながら、政乱と政争を見ながら持統天皇は、神様のドラマを書きはじめる。作者は神話を読みながら、神様のドラマを書きはじめる。

 政乱と政争を見ながら、天武系皇統の男子もない、孝謙天皇は神話を書きおえる。一説に持統天皇の書きはじめた神話と異なる。上書保存という。


 
 3話。ツボキリの剣。
 神意を得た皇位のレガリアが三種神宝のひとつ、クサナギの剣。一説に三種神宝は神意で皇位を嗣ぐモノを決める。みずからの意思で動くという。
 人意を得た皇嗣のレガリアもある。ひとつがツボキリの剣。皇嗣は人意で決める。ツボキリの剣は、本来は藤原氏族の長のレガリア。クサナギの剣を模した剣。皇嗣で争ったとき、怒って壺を斬ったらしい。笑える。いつのまにか現代までも皇嗣のレガリアとなる。さらに皇嗣のレガリアはもっとある。色々な姻族が皇位を欲したため、レガリアが増え、現代の立皇嗣の礼はちょっとだけどうんざりらしい。かまいたちの来賓紹介みたい。



 話が神剣に戻る。次回は真剣に神剣の話。

 さて、尾張国二宮の大縣神社は不明のまま、論説は尾張国、大和国、山城国から伊勢国へと続く。説(せつ)ない大縣神社。説を知ってたら教えてください。
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