43 ワタシは私

文字数 2,503文字



「……ケ、ケケぇン。覚えてろ、よぉぉ」
 アホの男神がバカの男神の屍を抱えながら去る。目前のニクの男神も踵を返し、去る。
 バカも、アホも、ニクもわからないけれど、神名は大事。ごめんなさい。頭を下げる。



 私は疲れて座りこむ。左腕に巻きつけた品物比礼を解く。右手でブレスレットを握る。天を見あげる。色々と考える。感想戦。
 天ツ神も多いから覚えてられるかな。チビ恐龍、妖怪みたいに仲間になってくれたら、覚えるけれど。そうだ。ワカヒコくんも、ワカフツヌシさんも仲間になったんだ。
 なるほど、雉の囀はケーンか。雉も鳴かずば討たれまい。スマホを弄る。
 雉は、雄はハデだけど雌はジミなんだ。意外と大きいんだ。あまり飛ばず、走るんだ。国鳥なんだ。たしか雉鍋、……国鳥を食べるんだ。知らなかった。
 修練で脚力も鍛えられたんだ。
 飛行機雲だ。周囲を見わたす。中部国際空港か。いや、名古屋空港か。
 戦場(イクサバ)で自尊心はいらない。目前の敵だけでなく、つねに周囲の敵も見る。戦況、戦場を鳥瞰で見る。
 修練中にワカフツヌシさんに言われた。シコヲさんの戦を見ず、ニクの男神を逃した。
「うん、まあ、ちょっとだけどレベルアップ」

 ワカヒコくんが防具袋と私のバックパックを抱えながら走ってくる。シコヲさんも歩いてくる。私は手を振る。
「ツーちゃん、大丈夫」
「ツクヨミさま、大丈夫ですか」眼鏡をかけてる。
「オオクニヌシさん、だ」
 オオクニヌシさんもレベルが上がった。状況の応じてシコヲさんに変わった。私が修練でがんばったとき、オオクニヌシさんも料理だけでなく、意識下で変わるようにがんばった。ただ、変わってるときの記憶がないため、ちょっとメンドー。あと、ナムヂさんは遇わなくていいけれど、ウツシさんと早く遇ってみたい。

 オオクニヌシさんは跪き、私の外傷を確かめる。ウエストバッグから消毒液を出す。
「沁みます」沁みて体を動かす。体中が痛い。
 背筋力は、筋力は鍛えられてない。筋肉痛。腕力、脚力、剣力に体がついていけてない。修練がたりてない。主役の特権はない。炭治郎くんもたいへんだった。タカヒメもたいへんだった。きっと昔のツクヨミもたいへんだった。
「たいへん、か。……ま、いっかー」
「いっかー、ですね。やっとツクヨミさまの口癖が聞けました」
「追いこまれてたんだね。主役のプレッシャー。おちついて考えればわかるのに。主役だから死なない。主役の特権は、死なないだけ。友情(恋愛)、努力(修練)を積み、戦い続けよう。勝ち続けよう。生き続けよう。がんばろう」

 ツクヨミと感情の共有、意識の共有ができた。まだ、記憶の共有はできないけれど。
 がんばればツクヨミと記憶の共有も、知識の共有もできるだろう。
「私はワタシ、ワタシは私。私もワタシも言葉にすれば同じ」
「ツーちゃん……」
 ワカヒコくんは、まだ、ワタシが倒れたときに頭を打ったと思ってる。
「私もワタシも同じ赤い血が流れてる」
「ツーちゃん……」
「大丈夫。弁当を食べようか」
 河川敷で弁当。ピクニックみたい。



「オナカイッパイー、イッパイー」ワカヒコくんが寝ころがる。
 オオクニヌシさんは弁当箱を風呂敷で包み、防具袋から水筒を出す。
「荷物になると思ったのですが……」
「やっぱ食べた後は、茶を飲みたいよね」
「そうですよね、ツクヨミさま。やはり茶を飲むまでが弁当。水筒はインターネットショッピングで買いました」
「かわいい水筒」全面藍色に銀色で月が描かれてる。
「カワイイ、カワイイ」ワカヒコくんが覗きこむ。
「一目で気にいりました。ツクヨミさまの水筒が潰れ、新しい水筒をインターネットで捜し、ほしい物リストに入れました」
 オオクニヌシさんの自由時間は、もしかしたら……。
「じつはコンビニエンスストアのアルバイトのとき、節約のためペットボトルに茶を入れてたのですが、入れづらくて。あと、温かい茶を飲みたかったんです。弁当のリクエストをいただき、即ポチです。すみません、兼用となります」
「うん。平日はオオクニヌシさんが使って」
 ずっと使ってたバックパックもオオクニヌシさんが繕ってくれた。
 割烹着とサンダルがにあう所造天下大神(アマノシタツクラシシオオカミ)は、ペットボトルに茶を入れ、コンビニエンスストアでアルバイト。時々、夜なべで裁縫。
「やはり越賀茶はおいしいですよね、ツクヨミさま」
「伊勢茶か」
 うーん。物語の展開が伊勢国、三重県に誘われる。
「お、おい。水筒よりもさきにオレを、だ、出せ」防具袋のなかから呻き声。
 布で作られたクエビコさんの頭を出す。すっかりと忘れる。
「な、なんかオレは戦のたびに放り出される。いつも戦果だけ。せ、戦況分析ができない。最強の、ぐ、軍師なのに」
「クーさん、ムリだよ、ムリ。だってジャマなんだもん」
「ジャ、ジャマというのか、最強の軍師に。ワカヒコも、や、役に、たってないぞ」
「役にたったヨ。がんばって戦ったヨ。ネー、ツーちゃん」
 うーん。確かに剣力もついた。前の大阪戦よりもがんばった。ただ……。
「ねえ、ワカヒコくん、剣を変えたらどうかな。大きすぎるよ。もっと振りやすい……」
「ダメ、ゼッタイダメ。ボクはカムドの剣がイイ、ゼッタイ、イイ」大声にびっくり。
「カムドの剣というんだ。……父神に授かった剣なの」
 ワカヒコくんは俯いて黙る。オオクニヌシさん、クエビコさんも黙る。前もあった。新大阪駅でタカヒメと別れたとき。だれもなにも言わない、気まずいかんじ。
「そ、そ、そ、そうだ。じ、地震の神の、は、話だ」
「なに、どうしたの急に、クエビコさん」
「あ、あ、いや、な、なんだ……」
「ツクヨミさま。スサノヲさまの処に行きましょう。そして武神を集めましょう」
 うーん。武神はチビ恐龍、妖怪か。
「クエビコ、スサノヲさまはどこに居ると思いますか」
「イ、イセでスサノヲがいるとしたら、た、たぶんカゲヒコの社、だ」
「なるほど。ワカフツも戻しましょう。ワカヒコ。使い鳥を飛ばしてください」
「……うん」
 俯いてたワカヒコくんが、オオクニヌシさんに急かされ、使い鳥を飛ばす。
 うーん。どこに隠してたんだろう。
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