80 マゼラン祭りの三島鴨神社・後篇

文字数 3,214文字



 読者がさらに遠のく、ややこしい長い話を続ける。解説役の私も遠のきたい。

 伊豆国の三島神社(三嶋大社)も、伊予国の大山祇神社も、じつは摂津国島下郡三島(大阪府高槻市三島江)に建つ三島鴨神社の分祀という。ほんとやややこしい。旧社地は淀川の中洲、御島。かつて当地は大阪湾(難波ノ海)の川口。祭神はオオヤマツミとコトシロヌシさん。本当の祭神はオオヤマツミだけ。別名は和多志大神。長く広く、支川も水量も多く、台風などの多雨時は水害も起こす淀川の渡し神。オウ族が移り住み、コトシロヌシさんを合わせ祀る。
 かつて三島神社は伊豆半島の先端の伊豆国加茂郡白浜村(静岡県下田市白浜)に建ってた。いまだ大山祇神社は伊予国越智郡鴨部村(愛媛県今治市大三島町宮浦)に建ってる。
 三島神社も、大山祇神社もカモの地に建ち、三島神社も、三島鴨神社もオオヤマツミとコトシロヌシさんを祀る。オオヤマツミは隼人の崇める神様だけど、いずれ。

 カモ神社といえば、賀茂別雷神社と賀茂御祖神社の賀茂二社だけど、カモ神社の本社は、じつは高鴨神社。高鴨神社の分祀が賀茂二社。さらに分祀が全国各地のカモ神社。
 賀茂二社は山城国愛宕郡出雲郷に建つ。
 山城国愛宕郡の隣にある丹波国桑田郡。畿内から山陰道と北陸道へと行くために桑田郡を通らなければならない。愛宕山を越えなかればならない。山城国と、大阪湾(難波ノ海)に臨む摂津国の間にある桑田郡。畿内から大阪湾、瀬戸内海へと行くために桑田郡を通らなければならない。愛宕山を越えなかればならない。

 かつてオオクニヌシさんの統治は出雲国に始まり、北上で山陰道の伯耆国、因幡国、丹波国、北陸道の若狹国、高志国。南下で石見国に及んだ。そしてオウ族を山城国と大和国へ移した。出雲国を離れたオウ族はカモ族と名のった。さらにカモ族は全国各地へ移った。カモの地名がつけられ、カモ神社が建った。

 愛宕(アタゴ)神社の本社も山城国と丹波国の国堺に聳える愛宕山の山頂に建つ。
 さきに愛宕神社が建ち、愛宕山と名づける。社名で山名、地名となる。愛宕信仰は火伏や鎮火の信仰。カガヒコとイザナミさまを祀る。本社の愛宕神社は本宮にイザナミさま、若宮にカガヒコを祀る。若宮は神様と人の間に産まれた子、祭神と若き巫の間に産まれた若神を祀る。だいたいは祟り、災い(禍い)を齎す。神話でカガヒコが産まれたとき、イザナミさまを死なせてしまったので仇子(アタゴ)。のちに浅間信仰ごとく、修験道の影響により愛宕信仰が広まり、全国各地にカガヒコを鎮める神社が建つ。
 のちに比叡山(日枝山)の山神は近江国の敵を、愛宕山の山神は丹波国の敵を塞ぐ神様となる。いつのまにか神様は天狗となり、日枝山の次郎坊、愛宕山の太郎坊となる。さらに天台宗により次郎坊は追い出され、日枝山の山神は北東(艮)の鬼を塞ぐ佛様となり、陰陽道により愛宕山の山神は北西(乾)の鬼を塞ぐ神様となる。
 さて、不思議なのは中国地方に愛宕神社、愛宕山はとても少ない。
 加茂(賀茂)、愛宕など、ホヒ族の本貫地の能義郡の地名、同じ社名の神社が全国各地にある、はず。なんでないんだ。愛宕神社の本社は出雲国でないんだ。
 出雲国能義郡の意多伎神社の論社は2社。島根県松江市の愛宕神社と島根県安来市の意多伎神社。愛宕神社は愛宕信仰の神社。意多伎神社は稲荷信仰の神社。いちおうだけど境内社に愛宕神社もある。
 だけど愛宕神社は、やっぱ出雲国に、出雲神と関わる。
 愛宕山の丹波国側の山麓に愛宕神社が建つ。カガヒコ、イザナミさま、オオクニヌシさんを祀る。本来の祭神は1柱で、本当の祭神はわからない。
 じつは山頂に建つ愛宕神社の元社だ。賀茂二社と高鴨神社みたいなかんじ。山頂に建つ愛宕神社は、かつて白雲寺。明治政府の神佛判然(神佛分離)で、山麓の愛宕神社の分祀で愛宕神社となる。そして愛宕はアタゴのほかにオダキ(オタギ)と読む。じつは山城国愛宕(オタギ)郡。アタゴとオダキは同一語源。つまり愛宕神社と能義郡の意多伎神社の祭神と同神。意多伎神社の祭神は諸説がある。稲荷信仰の稲霊の神様、御饌の神様のウガメ(ウガヒメ)、店長(サダヒコ)、そして神魂(カモス)神社のイザナミさま。
 意多伎神社はホヒ族と名のる前のオウ族と関わる。役小角(賀茂役君)により始まった修験道。愛宕山の修験道もオウのカモ族の役小角による。愛宕神社は古の戦で国ツ軍の最前線に建つ。オオクニヌシさんのなんかの謀(ハカリゴト)か。

 オオクニヌシさんに訊きたいけれど、本心を、本当のことを絶対に言わないオオクニヌシさん。本質は妻帯腹黒鉄仮面神。スサノヲさんもあまり言わないけれど、言いたいことは顔でわかる。硬ったり、目が泳いだり、口がひきつったり、鼻がピクピクと動いたり。

『オオクニ様は、昔も今もジブンより、ミンナのためにガンバってるんだよ。だからボクもオオクニ様のために、ガンバろうって……』

 オオクニヌシさんは、がんばってる。がんばりすぎてる。がまんしてる。がまんしすぎてる。辛くないんだろうか。苦しくないんだろうか。そんなじぶんが悲しくないんだろうか。怖くないんだろうか。

 大和国に始まり、畿内五国に及んだ天ツ神の統治。丹波国桑田郡は天ツ神の要衝地。そして国ツ軍の緩衝地。古の戦が始まり、天ツ軍が勝った。奪った。

 丹波国一宮の出雲大神宮(出雲神社)の社伝で、オオクニヌシさんは中ツ国を譲り、710年に出雲大神宮の分祀の出雲大社(杵築神社)に鎮まったと伝える。出雲大神宮で中ツ国の譲渡が行われたという。つまり中ツ国は出雲国でなく、山城国と大和国、または丹波国(のちの三丹の丹波国)を含む畿内五国。出雲国の神話で、中ツ国を譲ったけれど、出雲国は譲ってないとある。
 だけど神宝検校があり、カムド族とホヒ族の内戦があり、レガリアの献上があり、倭建の出雲建征討があり、出雲国も譲られた。



 賀茂二社の近所に、平安京の宮所の北東(艮)に出雲路幸神社が建つ。幸(サイ)は塞(サイ)で、塞神として店長(サダヒコ)を祀る。鬼を塞ぐ神社。一説に歌舞伎(かぶき踊り)の出雲阿国が若き巫として仕える。阿国はオウ族の娘という。
 同名の神社が島根県にある。出雲路幸(出雲路佐爲)神社。飯梨川の川岸に建ち、やっぱ塞神として店長を祀る。なにを塞ぐ神社なのか。対岸に、野城大神を祀る能義神社が建つ。意宇郡の野城神社、または能義郡の天穂日命神社の論社で、祭神はホヒヒコと同神。
 飯梨川の川岸にホヒヒコを祀る能義神社と、オオクニヌシさんを祀る意多伎(オタキ)神社が建つ。飯梨川を挟んで店長を祀る出雲路幸神社が建つ。
 愛宕山の山麓に賀茂二社と、店長を祀る出雲路幸神社が建つ。愛宕山を挟んで愛宕神社と、出雲大神宮が建つ。きっとなんかある。

 そして愛宕神社は、かつて阿多古神社。富士山を囲むように浅間神社を建て、コノハナサクヒメを祀った海人族の隼人と関わる。アタ族。アタの子。



 山城国、大和国にオウ族は住んでた。オオクニヌシさんのアイデア。
 出雲国のオウ族は別れ、ホヒヒコに随ったオウ族はホヒ族と名のった。山城国のカモ族も別れ、ホヒのカモ族と名のった。

『しかたがないです』

 天ツ軍に順(マツラ)ったアタのウガイ族。オオクニヌシさんは溜息をつき、言った。
 大和国に始まり、畿内五国(中ツ国)を治めた天ツ神。しかたがなかった。

 のちにホヒ族はイヅモ族と名のる。ホヒのカモ族はただのカモ族と名のる。



 ややこしい長い話を終える。

 次回予告。
 さて、次回の[武神彼氏]は、……さらにややこしい長い話を始める。
「クエビコさん。作者はなにが書きたいのか、私はわからない」
「オ、オレも、わからない。まあ、たぶん恋バナはない。すでに[武神彼氏]は、ラ、ラブコメでない」
 担いだクエビコさんの、布で作られた頭を揺する。
「ん、んぐ、ぐぐ……」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み