33 蝦夷の剣と熊曾の剣

文字数 1,744文字



 日本刀の原形、蕨手刀。8割は東日本で見つかったため、蝦夷(エミシ)、または蝦夷(エゾ)のものと考えられる。のこり2割は西日本で見つかる。
 熊曾国で2振の蕨手刀が見つかる。

 古代、遠い西国の先住人。九州南域に住む人は隼人、または熊曾と呼ばれた。
 天ツ神に順った隼人と順わなかった熊曾という説、海人族の隼人と山人族の熊曾という説がある。
 熊曾国は、じつは国名でなく地名。九州南域(九州山地の以南)。熊曾の住む地。肥後国球磨郡から大隅国曽於(囎唹)郡までが熊曾国。クマ国とソオ国でクマ・ソ国。
 反乱が起き、鎮圧、順化のため、702年に霧島連山を国境に南麓に薩摩国が別けられる。さらに713年に薩摩国は大隅国が別けられる。そして霧島連山の北麓が日向国となる。日向国は日神生誕神話、天孫降臨神話の地。

 蕨手刀が見つかった鹿児島県の塚崎横穴墓群と熊本県の大村横穴墓群。東日本の蕨手刀と形が異なる。蝦夷製でなく、葬った蝦夷のため、作られた副葬品と考えられる。
 順った隼人が征東軍に入れられたように、順った蝦夷(夷俘という)も征西軍に入れられた。のちに蝦夷は留まり、隼人や熊曾とともに生きた。副葬品とともに厚く葬られた蝦夷は、隼人や熊曾と特別な関係があった。

 塚崎横穴墓群は九州南域特有の地下式横穴墓で、大隈国姶羅郡(鹿児島県鹿屋市)にある。ソオ国。最南端の前方後円墳を含む塚崎古墳群のひとつ。
 大隅半島は黒潮の分岐点、海路の要衝地。九州北域の海人アヅミ族を率いた天ツ神。隼人のオオスミ族を順わせ、大隅半島を統制下とした。姶羅郡は鹿文の姫が治めてた。隼人のアタ族が辛うじ護ってた。だけど鹿文の姫は討たれた。
「か、鹿文の姫はアタ族を率い、イヅモに逃げた。トミビコに似た、し、神話もある。海人族は土地に縛られない。一族の存続が、だ、大事」
「もしかしたら、ひとりの蝦夷が一族の存続が大事と諭した」
「わ、わからない」

 大村横穴墓群は肥後国球磨郡(熊本県人吉市)にある。四方を山に囲まれ、球磨川が流れ、濃霧に隠された球磨(人吉)盆地。クマ国。昔の狗奴国といわれる。狗(犬)の治めた国。犬狼信仰、月神信仰の国。
「たしか隼人は狗のように吠える」
「そ、そうだ」
 球磨郡は熊曾兄建と弟建が治めてた。球磨川の川上にあり、別名は川上兄建と弟建。天ツ神に討たれた。討たれた兄建と弟建は、天ツ神に倭建命の名を献じた。
 倭建命は、倭(大和)国の建(猛/武/タケ)キモノ。征東軍、征西軍の軍将の神格化。実在だけど特定の人でない。
「く、熊曾建は兄弟でなかった。べつの神話もある」
「もしかしたら、ひとりの蝦夷が熊曾建についた。熊曾建と義兄弟の契を交わした」
「わ、わからない。だが、熊曾建は、厚鹿文の別名があり、ふたりの娘がいた。あ、姉は父をうらぎった。妹は一族を率い、クマ国に残った。またはソオ国に移り、か、鹿文の姫となった。まあ、色々な人の思いや考えの上書により、つ、創られた神話、と考える」
「鹿文の姫は、チョーかっこいいヒロインとして語り継がれるわけだ」
「そ、そうだな。脳髄がとっても、つ、強いヒロイン、だ。そして鹿文の姫を逃した蝦夷。く、熊曾建と義兄弟になった蝦夷。神話はないが、チョーかっこいいヒーロー、だ。隼人も熊曾も、蝦夷も同じ境遇。こ、殺しあう必要はない。ゆえに厚く弔われた」
 家族と離され、天ツ神に順い、隼人や熊曾と殺しあう。そして累々と横たわる屍。泣きすがる家族。ひとりの蝦夷が犯した、抗えない罪。月を見ながら家族を思う。泣きすがった家族を訪ねる。ひとりの蝦夷に課された、抗えない罰。
 やがて亡くなった、葬ったひとりの蝦夷のため、作った蕨手刀。
 語り継がれる神話。神話に書かれない神様。



 タカヒメが佩びるノヅチの剣。出雲神の崇める古(イニシエ)の神様の蛇神を模した蛇行剣。多数の蛇行剣は西日本で見つかる。とくに九州南域特有の地下式横穴墓。ついで畿内。隼人が呪術儀礼で使った剣と考えられる。
 たしかワカフツヌシさんが、戦に向かないふざけた剣と言ってた。斬るのでなく、打ち潰す、一打必殺の剣。剣撃になると扱いづらい。ゆえに抜いたときは一瞬で打ち潰さなければならない剣。
 なるほど。戦に向かない剣でなく、戦で使わない剣。
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