110 なんと・前篇

文字数 4,095文字



「石切劔箭神社上之社に行く前に神宮に行くのか。ニギハヤヒとニウヒメさんに遭う前に天ツ神の最高神の、高天原の日神に遭うのか。なんとヒントの前に、レベルアップの前にラスボスと戦うのか。なんと無情」担いだクエビコさんに聞こえるよう独り言ちる。
「い、いや、高天原の日神はラスボスでない。イソ族に北辰信仰がある。イ、イソの社(神宮)に太一を祀る。ラスボスは北星の神と考える」
「なんと行く前に、遭う前に、戦う前にシンのラスボスの正体が明かされるのか。なんと夜の月神対昼の日神でなく、夜の月神対夜の星神というのか。なんと星神のムーな話は伏線だったのか。そしてなんと記憶も神威もない私に行けと、遭えと、戦えというのか。なんと無計画」
「さ、作者は物語の展開を、急いでる」
「なんとわけのわからない論説を、なんと1年間も書き続けた作者は、なんと私に責任を転じるのか。なんと無責任」
「な、なんとなんとと、う、うるさい」
「……なんと作者でなく私が怒られるのか」



『ゆ、ゆえに月神を祀る社は、少ない。あと、星神対策に忙しかったと、か、考える』

『あ、天ツ神は順わぬ星神を畏れた』

『そ、そういえば、神話で月神と星神のほかに、出ない神がいる。いや、で、出ても出自を、なぜか隠してる。……か、火山の神、地震の神、だ』

 「なんと神宮に星神が祀られてるのか。いや、隠されてるのか」
 数多の星があるならば、星神もカガセヲだけでない。
 カガセヲの別名は甕星の神。甕形の星で流星、または彗星。夜天を昼空に変えるほどの明るい流星もあり、火球と呼ばれる。日神のような星神。天ツ神の畏れる星神。
 月神、星神、火山の神様、地震の神様。神社の少ない神様。神話に出ない神様。



 道教を重んじた天武天皇と徳川家康。道教の最高神は天皇大帝。
 北の天極星(北極星)、北天の星(北辰)の神格化。天の中心で、全天の星を統べ治める星。日(太陽)と月(太陰)も統べ治める神様。

  ついで。ややこしい話。
 十二支のひとつに辰があり、星を表す。日月星辰。十二支は年月月日や方位を示し、十干と合わせて暦を示す。干支。十二支の基準は1の子でなく、なぜか5の辰。
 十二支は植物の生育過程を表す。動物は無関係。[辰]の字源は二枚貝と農具の象形文字説の2説がある。辰(タツ)は、本来は振(シン)。[振]の字源は手と辰で、手で道具をふる。十二支で[振]の字意は植物の生育がととのう。農具でととのった植物を振って刈る。ややこしいけれど[辰]の字源は農具説となる。
[農]の字源は田と辰で、貝殻でととのった植物を振って刈る。さらにややこしいけれど[辰]の字源は二枚貝説となる。農具がなかった時代は貝殻で刈ってたらしい。

 さらにさらにややこしくなる前に十二支のついで。
 十二進法の時代にできた十二支。壬申の乱や戊辰戦争など、昔は干支で記録を付けたという。1の子(ネ)の星は北極星。なんで5の辰の星の木星が基準なのか。木星は12年で天をひとまわりするため、木星の見える方位で天を12等分、年月日時や方位を12等分。そして天をひとまわりする星は辰となる。日と月と星で三辰。北天のまわらない星は北辰。基準は5の辰だけど、十二支の基点はやっぱ1の子。不動の1位。
 子は、本来は孳(シ)。うむ。ふえる。植物が命がうむ。種でふえる。
 ついで。十二支の次の巳(ミ)は、ヘビの象形文字と同じ。巳(シ)。きわまる。とまる。生育がきわまり、とまる。なんで巳(ヘビ)かわからない。次の午(ウマ)は、本来は忤(ゴ)。つきあたる。生育はとまり、衰えはじめる。

 のちに植物の生育過程を表した十二支に、むりに動物のイメージがあてられる。
 辰の動物のイメージは唯一非実在動物の龍。なんで龍があてられたかわからない。なんとなくだけど2説がある。
 易しい説は、じつは龍でなく鰐。鰐が龍に変わる。[01 カカシの哀しい話]と[99 ヲハバリの剣のC&C・後篇]を読んでください。ペコリ。
 私も読んだけれど気になることがある。蛟(ミヅチ)はなんだ。蛇が蛟と成り、龍と成る。幼い龍の蛟龍で、蛟という設定。どんな非実在動物なんだ。
 難しい説は、さらにさらにさらにややこしい。
 じつは蜃気楼と関わる。蜃(しん)の原字は辰。蜃気楼は辰の虫が気を吐いてできた楼と考えたらしい。辰の虫は古代中国で大きな蛤。倭国でミヅチ。水ツ霊。辰に(じつは鰐だけど)龍をあてたので、辰の虫の蜃に龍と成るミヅチをあてる。つまり虫(ヘビ)が蜃(ミヅチ)となり、辰(龍)となる。なんとなくいいかんじ。
 ミヅチは蛟、蜃のほかに虬、虯、螭。いずれ虫。字源は調べてください。ペコリ。



 一説に皇極天皇(重祚で斉明天皇)の始めた大嘗祭。のちの持統天皇は高天原の日神とともに北極星の神様の神威を継いだという。
 神話で、アマノミナカヌシという天の中央に居る神様。北極星の神格化。別天ツ神の造化三神で、最初に生じた神様。タカミムスヒ(太陽)やカミムスヒさま(太陰)よりも神威のある神様。高天原の日神の生じるまえ、イザナギやイザナミさまの生じるまえ、生じた別天ツ神5柱。さらに5柱のうちの造化三神。さらに造化三神の中央に居る神様。
 天武天皇が、徳川家康が成ろうとした神様。太一。

『ほ、北星の神は北天限定の神、だ。南天に居ない。チョー笑える』

 北半球側からは全天の星が北極星を中心に周って見える。なんと南半球側からは見えない。つまり北辰信仰は北半球限定。神威はあるけれど、北半球は治められるけれど、南半球は治められない神様。笑える。
 今の北極星は小熊座α星のポラリス。α星は星座の最輝星(恒星)。なんと約13000年前は琴座α星のベガ。約11000年後もベガとなる。北極星は変わる。神様は変わる。笑える。
 ついで。ベガは七夕伝話の織姫星。織姫の別名は笹蟹姫。笹蟹は蜘蛛の古名。または蜘蛛の糸。天の川の対岸に輝く鷲座α星のアルタイルが牽牛(犬飼)星。別名は彦星。織姫は蜘蛛の糸で彦星を絡めとる。一説に織姫星の神格化はタカヒメ。牽牛星の神格化はワカフツヌシさん。さらに彦星の神格化はワカヒコくんという。なんとタカヒメはワカフツヌシさんとワカヒコくんを絡めとる。笑える。

 小熊座α星の北極星。道教の神格化で天皇大帝。大熊座の北斗七星。道教の神格化で北斗星君(または北斗真君)。天皇大帝を護る神様。いつのまにか同神となる。まあ、道教の最高神は時代ごとに変わり、最高神だらけとなり、ややこしくなり……。
「き、北星も含め、なんと北天も南天も全天の星を、なんとなんと全神を統べる最最高神が、創られた。て、天帝、玉皇大帝だ。チョー笑える」
「チョー笑えない」私の処に戻ってきたワカヒコくんが独り言ちる。髪を撫でる。
 オオクニヌシさんは周囲を見わたしながら考えてる。
「テ、テンチ(天智天皇)は、北斗の神に宮所(近江大津宮)を護らせたかった。テンム(天武天皇)は、み、みずからが北星の神と一体になり、宮所(新益京/藤原京)を護りたかった」
「天皇大帝を名のった天武天皇、か」
「エー。マダマダ、続くんだー」撫でる手を払われ、上目(さらに泪目)で睨まれる。
「そ、そうだ。だが、……」
「もうちょっとで金山駅に着く。ムーな話は終わり」担いだクエビコさんを睨む。
「そ、そうだな」
「続きは車内で話そう」
「エーーーー。マダマダ、続くんだー」
 線路も、論説も続く。

 近江国の鍛冶族は白鬚神社に奉じる。祭神のシラヒゲの神様は、店長(サダヒコ)でなく、北斗七星の神様、摩多羅神。
 天智系皇統に復した桓武天皇も比叡山延暦寺に北斗七星の神様を祀り、宮所(平安京)を護らせる。徳川家康も北斗七星の神様を祀り、江戸幕府を護らせ、死後は北極星の神様と一体になり、江戸幕府を護りたかったという。
「道教の北斗七星の神様は、なんと天台宗の佛様に変わるわけだ」
 妙見信仰。佛教で、北極星や北斗七星の神格(佛格)化は妙見菩薩。道教と佛教と陰陽道が混ざった信仰。
「ち、鎮護国家の神は、いずれ蕃神(トナリノクニノカミ)だ。オレたちは国も護れない神だ。さらにオレは動けない神、だ」担いだクエビコさんの布で作られた頭が垂れる。
「クエビコさん、いじけないで。笑って」
「わ、笑えない」
「笑えませんね」眼鏡のブリッジを押さえ、クイと上げる。
「オオクニヌシさん、どうしたの」
「金山駅の近所に、なんと住吉神社があります」竹刀袋から剣を出す。
「なんとツツノヲ三男神を祀る神社があるのか」
 バックパックの品物比礼を出し、左腕のブレスレットの上に巻く。
 対馬国下県郡の住吉神社、壱岐国壱岐郡の住吉神社、九州北域の筑前国那珂郡の住吉神社、関門海峡の長門国豊浦郡の住吉神社(住吉坐荒御魂神社)、摂津国住吉郡の住吉大社(住吉坐神社)の祭神。朝鮮半島から玄海(玄界灘)の対馬島、壱岐島、九州北域、関門海峡、瀬戸内海を渡り、住吉の津(港)へと天ツ神を導いた住吉三神。ツツノヲ三神。
 イヅメに随うアマノクメ組ツツノヲ三男神。天ツ軍の主軍となるアヅミ族のクメ水軍の三組頭のひとつ。
「なんとオオクニヌシさんは愛知県名古屋市に詳しい」笑いながら剣を受けとる。
「ヲハリ国はタカクラジの国です」笑いながら答える。
「な、なんとまたか」クエビコさんが嘆く。
 担いだクエビコさんを降ろす。マダケで作られた体と布で作られた頭を別け、体をオオクニヌシさんに放る。オオクニヌシさんは竹刀袋に入れる。頭をワカヒコくんの抱えた防具袋に入れる。
「エーーーーーー、マタマタ、戦うんだー」
「考えてたのですが、天ツ神はツクヨミ様と腕輪、そしてワカヒコも狙ってます」
 オオクニヌシさんが考えてる時は、なにかあるとき。またはなにか起きるとき。
「サグメ、か」ワカヒコくんは調神社を思いだす。
 頭上にフヨフヨと浮いてるキューピーちゃんを見あげる。剣を強く握る。
 前のレッツゴー三匹は、すでに立ち止まって剣を構えてる。現世で剣は銃刀法違反。
「さらに近所に須佐之男神社もあります」
「よし、隠世にレッツゴーよ」男神を動かす。
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