126 願わない神・3篇

文字数 2,071文字



 ドゴォォォォ。

 警報器の音が聞こえないくらいの、轟音。
 名鉄名古屋本線の、天白川に架かる橋の前の踏切内に薪がばらまかれる。
 車も人もいない。いれば、突然と薪が天から目の前へとばらまかれたならば、事故というよりも怪奇事件。柳川公園の、ミトくんによるチョー局地的地震や、ワカフツヌシさんとタヂカラヲの剣戟によるチョー局地的旋風を超える。
「疲れた」降りたシコヲさんが座りこむ。
「……なんなの、バカなの」
「バカというほうがバカだッ」立ちあがり、言いかえされる。
「現世に現れるため、私は神社に行ってと言ったのッ」言いかえす。
 思わずクエビコさんの布で作られた頭を高く掲げる。
「オ、オレで、殴るなよ」
「だっ、だったら、正しく言え。オレはなにか置かないと、……」
「前(読者は1年前)に、ともに戦った時のかっこいいシコヲさんはなんなの。私のときめきはなんなの。戦うことしか、……」
「うるさいッ」
 翔んだカップルの、女と男の痴話喧嘩。つきあってないけれど。
「と、とりあえず電車は、と、止まりそうだ」高く掲げたクエビコさんが言う。
「……まにあった」
 思わずクエビコさんの布で作られた頭を落とす。
「オ、オレを落とすな」落ちたクエビコさんの布で作られた頭が睨む。

「ツーちゃん、非常用停止ボタンを知らないのカナ」
「ツクヨミは、女将(オカミ)としてマダマダだな」
 踏切脇のガードレールに座りながら笑う翔んだカップルの、女のコと男のコ。つきあってるか、わからないけれど。

「……早く言ってよォ」



「多少の被害はあったけれど、電車は止めた。つぎは餓鬼穴を塞がないと」
 私は名鉄名古屋本線と並ぶ国道の橋を走る。踏切内の薪をかたづけ、安全確認を終えたら電車は動く。動く前に餓鬼穴を塞がないとならない。
「ツクヨミさま、シコヲに変われません」
 オオクニヌシさんも竹刀袋と防具袋を抱えながら走る。
「オオクニヌシさんのせいでない。たぶん私のせい」
「ツ、ツーちゃん、待って、待って」
 ワカヒコくんもクエビコさんの布で作られた頭を抱えながら走る。
「ワカヒコくんは待ってて」
「だらしない。イヅモの神の恥だ」タカヒメも走る。
「だらしくない、ボクはだらしくないモン」走る。
「ツクヨミ、さきにワタシが翔ぶ」
「わかった」
 タカヒメが翔ぶ瞬間。
「ツクヨミさま、餓鬼穴が消えます」走りながら指す。

「……消えた。なんなの」
 私達は止まり、呆然と見る。私は座りこむ。
「新幹線といい、イヅメは私達を降ろしたいの、走らせたいの。イヅメのイジメなの」
 イヅメの目的はブレスレットを奪うことでなく、私を殺すことでなく。もしかしたら私を虐めることか。ワタツメ三女神も、ツツノヲ三男神も、なんか設定がふざけてる。私を虐めたいのか。なんでイヅメは私を虐めたいのか。
「な、なるほど。イヅメは鳥瞰でツクヨミを、み、見てる」
「……だから居処がわかるよう電車を降ろしたということか」
 新幹線も、ツツノヲ三男神が捜したということか。

『サグメがいる。調神社も雉がいた』

「あと、天白川の前で降ろした。天白神に関わる、ふざけた戦をしかけてくる」
「ス、スマホを弄れ」クエビコさんに急かされ、弄る。
「天白川の上流の天白区のほかに天白の地名がある。下流の南区天白町。30分くらいの近所だ」スマホを弄りながら指す。
 天白川が流れるため、1950年に天白町ができる。やっぱ天白神社が建つ。
 私はゆっくりと立つ。
 天白神社の創建は1945年。天白神社のほうが前だから、天白川の川口の天白神、天白川、天白区、天白神社、天白町となる。ややこしすぎてわからない。
 天白信仰は、愛知県、静岡県、長野県、三重県の伊勢志摩地方(伊勢国・志摩国)に伝わる縄文時代からの古い信仰。だけど本来の祭神はわからない。定説は、星神という。
「あとは天から降ってきた神様。天ツ神みたい。のちに稲荷信仰の神様と合わさる」
「漠然としてわかりませんね」オオクニヌシさんが言う。車中もずっと聞いてたらしい。
「わかったのは、本来の神様も、本来の信仰もわからないけれど天白信仰はすごいこと」
 縄文時代から、わからない神様を祀り、わからない信仰を信じる。
「そして電車に乗るとヒダルの巣穴が作られること」タカヒメが言う。
「……徒歩で約300分か」スマホを弄る。
「エーーーーーーーー」ワカヒコくんが叫ぶ。
「30分の10倍か。ちょっとだけど遠いか」
「ツーちゃん、300分だよ、300分。ボクたち、戦うよりも歩くホウが長い。トッテモ、長い。あと、クーさんのチョーつまらない話が長い。トッテモ、長い」
「オ、オレは自由に歩けないからな。自由に、は、話したい」
「クーさん、笑えないヨ、ゼンゼン、笑えない」
 私はクエビコさんの布で作った頭を担ぐ。
「青山駅まで歩こう」ビシッと指す。
「エーーーーーーーー。ツーちゃん、ムシなの、マタマタ、ボクはムシなの」
 オオクニヌシさんは眼鏡のブリッジを押さえ、クイと上げる。そして逆のほうを指す。
「……ツクヨミ様、青山駅はあっちです」
「ツクヨミは、女将としてマダマダだな」
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