131 願わない神・8篇

文字数 9,789文字



「武蔵国に移り住んだ一族はイヅモ族といわれるけれど」
「イ、イヅモ族の前に、アユチの社(熱田神宮)を逐われたヲハリ族が移り住んだ」
「埼玉県さいたま市の調神社に奉じる後裔のツキ族。PlayBackPart2だ」
 調神社は、かつて神宮に献じる作物や調物(織物)の、貢物の貯蔵場。
 武力、国力を決めるのは兵、馬、剣(武具)だけでない。米だ。米高が軍力、国力を決める。上・下毛野国の武力、国力を削ぐため米を貢がせる。
 埼玉県さいたま市桜区大字神田にあるアパートは、かつて見沼という大きな沼。沼を埋めて田んぼとなる。神宮の神田。東国で穫れた米は調神社に集められ、東山道を上り、神宮に納められる。
 東国に農作(稲作)を広げたのはヲハリ族。九州に伝わった稲作は100年後に畿内に伝わる。さらに100年後に征東軍により東国に伝わる。
 尾(ヲ)は山稜、張(ハリ)は墾(ハル)で、葛城山の山陵の森を墾いた族名であり、地名である。ハリ(ハル)の地名は開墾の始まった地につけられる。尾張国(愛知県)以東に多い。尾張の名字も東北地方、関東地方に多い。
「縄文時代の埼玉県は日本列島で最も人口が多かった。たくさんの人が住んでた。ということは武蔵国はヲハリ族の治めてた」
「メ、メンドーな話となるが、ムザシの国はひとつで、ない」
「メ、メンドー」
 ムサシ国の中心は大宮台地の北端の前玉神社(武蔵国埼玉郡)。胸刺国。古代蓮の里にある小針は小さな開墾地という地名。オハリは毛の地(毛野国)に多い。のちに中心は南端の大宮氷川神社(武蔵国足立郡)。无邪志国。アパートの近所もハリ(ハル)のつく地名が多い。



 ヲホヒコは毛野国を滅ぼし、国力を削ぐため上毛野国(上野国)と下毛野国(下野国)に別ける。ヲハリ族とともにムサシ国を建てる。471年にヲホヒコは雄略天皇に金錯銘鉄剣を賜る。
 荒川を遡り、イヅモ族が足立郡に移り住む。イヅモ族の1次移住計画が始まる。
 ムサシ国は、カムド族とオウ族の合議統治の出雲国と同じくヲハリ族とイヅモ族の合議統治の国となる。
 自治を認められ、陸奥国統治を任せられ、再び、国力を高めた上・下毛野国と、大和国の対立。上・下毛野国、知々夫国、ムサシ国の連合王権は崩れる。
 大和国と組んだ足立郡のイヅモ族が勝ち、上・下毛野国と組んだ埼玉郡のヲハリ族が負ける。ヲハリ族は知々夫国へ逃げる。イヅモ族はヲハリ族を追いながら、乗じてハルヒコの後裔一族を逐いやり、武蔵国はひとつとなる。
「なるほど。荒川を遡ると武蔵国足立郡、埼玉郡、荒川の水源の知々夫国。知々夫国の中心はオモヒカネを祀る秩父神社。知々夫国も馬と銅で国力を高めた。上・下毛野国とともに大和国、いや、持統天皇にとりメンドーな国だった」
 天武、持統天皇と関わる信濃国。持統天皇が建てた戸隠神社。一説に、神話で持統天皇は皇極天皇(重祚で斉明天皇)と天武天皇をアマノミナカヌシに、藤原不比等(または藤原鎌足を氏祖する藤原氏族の長)をオモヒカネに擬えたという。天武天皇が亡くなり、藤原氏族を頼ったという。持統天皇は藤原氏族を頼ったけれど心中は疎ましかったという。
 天武天皇の和風諡号は天渟中原瀛真人天皇。天のとどまる中原に居る大海真人。天武天皇の忌名(本名)は大海人。北極星の神様となった人。
 そして持統天皇の和風諡号は大倭根子天之廣野日女尊。のちに高天原廣野姫天皇と変わる。高天原の姫。神宮内宮は、持統天皇の、または孫の文武天皇の時代に建つ。神話を創り、神道を整え、神社を整え、神統を整えるため、天武系皇統の正当(正統)を曰うため、アマノミナカヌシとともに高天原の日神を奉じるため建てられた神社。

 やっぱ天武天皇が亡くなり、後楯を失ったヲハリ族。藤原氏族に尾張国を、イヅモ族にムサシ国を遂われたヲハリ族。
「ヤマトのアヤ族は、フエフキ族、ヲハリ族、ツキ族と族名を変えながら隠れなければならなかったわけだ」
 知々夫国は東山道で、のちの秩父市は国道299で、信濃国(のちの長野県)や上毛野国(のちの群馬県)と通じる。そして尾張国(のちの愛知県)と通じる。
「さ、さらにチチブの社(秩父神社)、ムクの社(椋神社)、ツクヨミが行ったカナサナの社(金鑚神社)、ヒカワの社(大宮氷川神社)。そ、創建にヤマトタケルが関わる。ヒカワの社の建つアダチの地(武蔵国足立郡)もヤマトタケルが関わる。征東に、な、なにも関わらないムザシの国に、ヤマトタケルの信仰だけがある」
「ヲハリ族が広げた信仰か。神話で、倭建は建内(武内)宿禰の謀(ハカリゴト)で征西征東を行う。ヲハリ族は倭建とともに征西征東を行う」
 東山道の沿道の秩父神社、戸隠神社や阿智神社にオモヒカネや子神ハルヒコを祀る。東山道でオモヒカネが睨む。
「ヲハリ族は、タカクラジさんは天ツ神にふりまわされ、遂われたわけか」
 檜隈の姫の恋心もオオクニヌシさんにふりまわされたわけだ。
 秩父神社の本来の祭神は、じつはわからない。北辰信仰(妙見信仰)が有名で、一説に北極星の神格化の神様という。また、全国一宮の祭神を祀る天神地祇社がある。
「大和国はムサシ国にイヅモ族を送りこんだわけか」
「お、送りこんだのはイヅモ族だけで、ない」
 のちの武蔵国は、戦乱時代の大陸や朝鮮半島の難民の移住先となる。武蔵国高麗郡。東日本に多い白髭神社の本社の高麗神社が建つ。高麗国(前高句麗国)の王族の高麗若光を祀る。なぜか店長(サダヒコ)も祀る。前高句麗国はコマ国、後高句麗国はコウライ国。

 ついで。
 狛犬は高麗犬で、もとはライオン。ライオンを見たことのないためイメージ。麒麟も、もとは見たことのないキリン。やっぱイメージ。鰐(和邇)も、見たことのないため鮫や鱶がモデル。龍も、見たことのないため蛇がモデル。鮫や鱶がモデル。

 天智天皇の時代から、藤原氏族のアドバイスで武蔵国や毛野国も移住先となる。
 仮装の神様がやってくる。隣の国の神様(蕃神)がやってくる。
 なぜか。新しき神様は古き神様を遂いやる。新しき信仰は古き信仰を変える。異なる文化や新しい技術は地域社会を変える。
 そして。じぶんの手を汚さず、血で穢さず征東を行う。アヅミ族で、ヲハリ族で征西征東を行う。東国(東日本)の蝦夷で征西、西国(西日本)の隼人(熊曾)で征東を行う。機を以て機を奪い、毒を以て毒を攻む。
 昔も今も群馬県は外国からの移住が多い。邑楽郡は雷電神社だけでなく、多数の工場がある。天ツ神に仕える雷神は、国ツ神に国を譲らせる。
「なるほど。昔は戦闘力、今は労働力か」



 持統天皇の時代、武蔵国の中心は小野神社(武蔵国多摩郡)となる。大宮氷川神社は、じつは武蔵国三宮。一宮はオモヒカネの子神ハルヒコを祀る小野神社。
 多摩川と鶴見川に挾まれた当地にイヅモ族の2次移住計画が始まる。武蔵国で農作(稲作)が始まる。持統天皇は多摩川の川岸に大國魂神社を、鶴見川の川岸に杉山神社を建てる。武蔵国の中心は小野神社から大國魂神社へと代わる。暴れ川の荒川を鎮める氷川神社の祭神はスサノヲ。やっぱ暴れ川の鶴見川を鎮める杉山神社の祭神は子神イタケル(イソタケル)。やっぱ暴れ川の多摩川を鎮める大國魂神社の祭神は婿神オオクニヌシさん。さらにオオクニヌシさんは武蔵国の国魂神として祀られる。
 イヅモ族は天ツ神の全国統治の正当を曰う。国譲神話を伝える。全国の神社の祭神を変える。神話に、史話にあわせた神社を建てる。オオクニヌシさんを祀り、ウソブキの面を被り、嘯く。ウソブキの面は、本来は鳥獣(精霊)の面。のちに道化の面となる。鍛冶で竹筒を吹き、口笛を吹き、ウソを吹く。ウソのような伏線回収。
 東国を墾き、農作を広げたヲハリ族からイヅモ族へと変わる。
 東国で穫れた米は大國魂神社に集められ、東海道を上り、納める。尾張国に通じた東山道から東海道へと変わる。藤原氏族の睨んだ東山道から東海道へと変わる。
 なんかデキスギくん。

 神殿の建築様式はふたつある。ひとつは出雲大社の大社造。宮殿が原形。もうひとつは貢物を水害や獣害から護る高床倉庫が原形。神宮の神明造。
 神宮は穫れた米の倉庫。祭神の、高天原の日神のモデルは持統天皇。つまり高天原の日神は日の神格化でない。高天原の日神の、本来の神性は皇祖神。
 倉庫(高倉)の番人は高倉下(タカクラジさん)。とてもデキスギくん。
 神話で高天原の日神は、みずからはなにも言わない。行わない。タカミムスヒと、タカミムスヒの子神オモヒカネに従って言う。行う。
 従って言うけれど、行うけれど、タカミムスヒが居なくなったあと、オモヒカネが色々と言う。高天原の日神に変わり、色々と行う。心中は疎ましい。
 武蔵国の中心はオモヒカネの子神ハルヒコを祀る小野神社でなく、大國魂神社。持統天皇は藤原不比等に隠れ、こっそりと米を隠す。こっそりと米を運ぶ。くらやみ祭。
 天武天皇が吉野宮で軍を整えたよう、神宮で軍を整える。米を蓄える。神宮は私幣禁止。神鏡のレプリカを祀る。祭を始める。

『い、いや、天原の日神はラスボスでない。イソ族に北辰信仰がある。イ、イソの社(神宮)に太一の神を祀る。ラスボスは北星の神と考える』

 古代中国の道教の最高神は天皇大帝。北極星の神格化。天の中心で、全天の星を統べ治める星。日(太陽)と月(太陰)も統べ治めるから、太一。アマノミナカヌシ。
 アマノミナカヌシ(皇極天皇/重祚で斉明天皇)に成りたかったけれど、なれなかった天武天皇。やっぱアマノミナカヌシに成りたい持統天皇。北極星に願う。
 皇祖母の皇極天皇)の始めた大嘗祭。
 神宮は高天原の日神(持統天皇)、タカミムスヒ、アマノミナカヌシ(皇極天皇とのちに天武天皇)を祀る。一説に、大嘗祭はアマノミナカヌシの神威を継ぐ、アマノミナカヌシに成る祭という。



 天武系皇統が絶え、天智系皇統が復する。天武系皇統の皇祖神の高天原の日神を排し、桓武天皇はハタ族の推す八幡神を天智系皇統の皇祖神とする。だけど神話に出ない八幡神は皇祖神になれない。まして蕃神。
 明治政府は神話の上書保存を行う。改めて高天原の日神は天智系皇統の皇祖神となる。わりきれないけれど明治天皇は神宮に奉じる。がんばって神宮親拝。石清水八幡宮は神宮とともに二所宗廟となる。

 一説に、神鏡は政事(マツリゴト)の、神剣は軍事(イクサゴト)の象徴という。藤原氏族に神鏡も、神剣も渡したためレプリカを祀ったという。
 神璽(神玉)は祭事(マツリゴト)の象徴という。オリジナル。藤原氏族に渡さなかったけれど、のちに神宮祭祀も藤原氏族により行われる。
 さらについで。
 しだい宮中祭祀も、政事の事情や時の権力者の事情で行われる。大嘗祭とともに改元は天皇が行うビックイベント。明治維新後も大日本帝国憲法(明治憲法)のもと、明治、大正、昭和までの元号は天皇が決めたらしい。
 1979年の元号法で、元号は政府が決め、発する。平成からの元号は時の権力者の内閣総理大臣が行うビックイベントとなる。内閣総理大臣が政事も、祭事も統べ治める。
 
 1989年1月7日。ひとりの時の権力者が行った領(ウシ)はく。改元は、日本国憲法に随う象徴天皇と、憲法改正に挑む時の権力者を知らしめるイベントとなる。
 なんかくだらない。

 高天原と葦原を統べ治める神様、八百万の神を統べ治める神様はタカミムスヒ。大嘗祭で天皇と饗する神様は、本来は高天原の日神でない。宮中祭祀に、宮中八神や御膳八神に高天原の日神はいない。祟ったため神宮に遷されたから。だけど。一説に、皇祖神はタカミムスヒという。大嘗祭で天皇と饗する神様は、宮中祭祀の主祭神は、宮中八神や御膳八神の主宰神はタカミムスヒ。ホノニニギに降臨を命じるのは、神話(古事記)で高天原の日神とタカミムスヒだけど、史話(日本書紀)でタカミムスヒだけ。ホノニニギは高天原の日神の孫神であり、タカミムスヒの孫神である。あえて書いてないだけ。
 明治政府が神話の上書保存を行ったとき、高天原の日神が天智系皇統の皇祖神となったとき、タカミムスヒの神性も変わったわけだ。

 さてと。
「なんと神宮に行く前に、高天原の日神に遭う前に、戦う前にシンのラスボスの正体が変わったわけか。なんと月神対日神でなく、月神対わけのわからないというのか。なんと星神のムーな話は伏線だったのか。なんと記憶も神威もない私に行けと、遭えと、戦えというのか。なんと無計画」
「さ、作者は物語の展開を、急いでる」
「なんとわけのわからない論説を、なんとさらに書き続ける作者は、なんと私に責任を転じるのか。なんと無責任」
「な、なんとなんとと、う、うるさい」
「……なんと作者でなく私が怒られるのか」



 国譲(叛乱の粛清と鎮圧と統治)は恨み、妬み、嫉みが伴う。穢れ、祟りを齎し、やがて禍い(災い)を起こす。ヲハリ族は藤原氏族に逐われ、イヅモ族に逐われる。

『フ、フエフキも、ウソブキだ。フエフキ族も、蛇を操る。巫は蛇神を操り、蛇神は巫に憑き、ま、祭事(マツリゴト)を動かす。巫が政事(マツリゴト)を動かす』

 私は檜隈の姫の怨霊に憑かれる。とてもメンドー。
 ハルヒコの後裔一族もイヅモ族に逐われる。
 私はオモヒカネの私怨にまきこまれる。とてもとてもメンドー。
「そ、そうだ。思いだした。ヲハリの国の、二宮のオオアガタの社(大縣神社)の神は、本宮山の山神といわれるが、……あれ、お、思いだせない」
「ボケか」
「……ま、まだ、ボケてない」
 豊川市の本宮山。縄文時代からの山岳信仰とダイダラボッチの伝話がある。大縣神社は尾張国開墾の神様の大縣大神を祀る。神剣を祀る、神宮に次ぐ権威の熱田神宮は、じつは尾張国三宮だ。宮中の四方拝の行われる大宮氷川神社といい、天ツ神の神格よりも地主神の国ツ神の神格が上となる。大神は祟り神。大神として祀りあげられる。一宮はホノアカリを祀る真清田神社(真墨田神社)。またはオオモノヌシ(トミビコさん)を祀らない大神神社。二宮は大縣大神を祀る大縣神社。
 縣の新字は県。古代中国の行政区画のひとつ。昔の郡、今の省の下。

『く、国懸大神の懸は遠く隔てる、もっと言えば、ち、地を覆う木、木にかける頚(シルシ)。逆らい、首を斬られ、木に糸(紐)でかける。木ノ国の木に、く、頚をかける。のちに心にかける、つまり祟らないよう願うという意だ。ナグサヒコは怖ろしかった。な、名草の姫の祟りが。小心者だ。わ、笑える』

 国という木にかけられた地方の行政区画、県。天武、持統天皇も古代中国に倣い、行政区画を国(州)、郡、県とする。大和国の6県に、国譲を塞ぎ、首を斬られた国ツ神の祀る御縣坐神社が建つ。当然、祭神はビミョーに隠される。例えば志貴御縣坐神社の本来の祭神は、国ツ軍東の軍でトミビコさんも剣力(タチカキ)を認めた剣神シキヒコ。
 大縣神社は大きな縣の神社。たぶん大縣大神はタカクラジさん。または高市皇子。
 クエビコさんに言わない。いじけるから。
 尾張国の大神神社の祭神は尾張国を譲ったホノアカリ。大和国の大神神社の祭神は大和国を譲ったトミビコさん。譲られた、いや、奪ったのは藤原氏族。真清田神社の荒魂を祀る大神神社。高座結御子神社の荒魂を祀る大縣神社。佩剣を祀る熱田神宮。表裏の一宮、表裏の二宮。
 そして東谷山の山神を、尾張国の国魂神を祀る尾張戸神社。社伝で、ミヤヒメが東国の谷に棲んだ神様を祀るため、東谷山の頂に建てたと伝える。
 ヲハリ族の心を頂の木にかけ、戸を閉める。祟りを終わらせる。

「……そ、そうだ。オオアガタの社(大縣神社)の神は思いだせないが、前にツクヨミに話した、あ、東国が天ツ神の統治下でない所以だ」

『あ、ああ。三国之関(三関)のこっち、ひ、東側を関東、東国という。東国は天ツ神の統治下で、ない。武力による統治下、だ。ゆえに、あ、遭わない』

『い、いや、違う。いまだ東国は天ツ神の統治下で、ない。正しくいえば、東国は、あ、天ツ神の武力による統治下となった』

『つ、つまり征東、いや、征夷は成せてない。いまだ東国も天ツ神の統治下で、ない。統べ治めてない。武力による統治下、だ。ゆ、ゆえに蝦夷の叛乱も起きる。天ツ神の鎮圧、順化(皇化)が、ず、ずっと続く』

「そんな伏線もあった。思いだした。やっと伏線回収か」
 思わずクエビコさんの布で作られた頭を高く掲げる。
「イ、イヅモ族は神人だ。まずは古の神(蛇神)に、スサノヲに仕えた。そしてオオクニに、コトシロに、ホヒヒコに仕えた。い、古の戦のあと、天ツ神に仕え、イヅモの国を譲り、ヤマトの国に移り、全国に移った。つ、使える神はなんでも仕えた。かつてカラス衆もツクヨミに、つ、仕えた。まあ、オオクニも、ツクヨミも、脳髄が……」
「……」高く掲げたクエビコさんの布で作られた頭を落とす。
「お、落とすな」
「ごめん」クエビコさんの布で作られた頭を左手で攫む。

『し、しだいケの地(上・下毛野国)は自治を認められる。さらに奥の地の叛乱鎮圧はトヨキヒコの後裔、ケ、ケの王に任せられる』
「フ、フジの山に塞がれたか、続く噴火や地震に慄いたか、続く謀叛、叛乱に疲れたかわからないが、天ツ神の脳髄は強くなる。ムザシの国の自治を認め、東国統治を任せる。ケの地と同じ。謀叛、叛乱が起きたら謀(ハカリゴト)。機を以て機を奪い、ど、毒を以て毒を攻む。ようは使えるものは使う。仕えるものは仕う。仕えるカミを使う。蕃神(トナリノクニノカミ)も、悪神も、お、鬼神も使う」
「なるほど」
「だ、だいたい、ムザシは蔑称だ。侮蔑の目で見てる」
 持統天皇の時代、ムサシ国は好字で武蔵国となる。
 无邪志も、胸刺も蔑称。无は無、亡。現世に居(オ)ぬモノ、隠世に隠(オ)ぬモノ。

 一説に、新嘗祭に合わせて行われる神宮の神嘗祭は明治政府が始めたという。
 明治政府が神話の上書保存を行ったとき、高天原の日神が天智系皇統の皇祖神となったとき、古の神様のイザナミさまとともに高天原の日神(持統天皇)を神宮に祀りなおし、いや、鎮めなおしたわけだ。天智系皇統の今上天皇にとり祟る皇祖神。いや、そしてタカミムスヒの神性を本来の神性に、本来の皇祖神に直したわけだ。
 明治政府は、神話により神道を整え、伊勢国の神宮により神社を整え、祭神(高天原の日神)により神統を整える。

『神剣は国ツ神のものだから祟るけれど、神鏡は高天原の日神の神代(カムシロ)だよね。なんで天ツ神のものなのに祟るんだろう』

 かつて祭事(マツリゴト)は女巫が、政事(マツリゴト)は男王が行ってたという。ヒメミコ(ヒミコ)と男王。ヒメヒコ統治。神様は日神かわからないけれど、男神。祭で男神の神言は女巫に託され、男王は政を行う。
 農作(稲作)の時代となり、なんとなく日神となる。
 やがて男王は女巫を遂いやり、ヒコミコ(ヒコヒコ)となり、神様の神言は男王に託され、男王が政を行う。ヒコヒコ統治。神様は女神となる。神話で、ヒメは天に上げられて女の日神となり、ヒコ(男の日神)は海に流される。女の日神の孫のホノニニギはヒコヒコだ。さらに神託はなくなり、男王の専制政治となる。
 かつてヒメヒコ統治だったけれど、応神天皇の時代からはヒコヒコ統治。天武系皇統の持統天皇、皇極天皇(重祚で斉明天皇)、元明天皇、孝謙天皇(重祚で称徳天皇)は藤原氏族のヒコヒメ統治。そして幕府や政府のヒコヒコ統治が続く。

 高天原の日神は、神話(古事記)で天照大神だけど、史話(日本書紀)で大日孁貴、大日孁尊、伊勢大神。孁(め)はヒメ。女の字。つまり[〇〇子]の子。ヒコヒメでヒルコはヒルヒコ、ヒルメはヒルヒメ。ヒルは日、または日出から日入までの昼。一説に、ヒルコの蛭子は不具の子、または海に流された双子の男子という。
 祟るのは、遂いやったヒメミコ(ヒミコ)か、天に上げられた女の日神か、海に流された男の日神か。いずれ神体の神鏡は神宮で祀りあげられる。



 東北諸藩の叛乱防止のための常陸国水戸藩。徳川三家の水戸徳川家。だけど2代藩主の光圀は皇政復古を欲した勤皇家。光圀の論じた水戸学は、吉田松陰や西郷隆盛に影響を与え、明治維新のきっかけとなる。
 最後の征夷大将軍の、徳川慶喜の無血開城で、江戸城は壊されず大政奉還。

『よ、慶喜の本貫は、水戸藩だ。み、光圀を敬ってた』

 明治政府は西国の権威を迎えるため、1868年に江戸を東京(東の京)と、江戸城を東京城と変える。
 家康の下命で、東海道の整備時に当地に移した三縁山広度院増上寺。江戸城の裏鬼門。東海道からの西国の鬼を塞ぐ。家康の葬儀が行われ、のちに徳川宗家の菩提寺。
 西国の権威を迎えるため、増上寺を国家神道の教育機関の本部と変える。
 平将門も、江戸幕府に護り神として神田神社に祀られたけれど、西国の権威を迎えるため明治政府に隠される。戦後に改めて祀りなおされる。つまり鎮めなおされる。

 そして西国の権威を迎える。
 だけど。

『そういえば、クエビコさん。天ツ神と遭わないけれど、なんで』

「あ、東国に、ムザシの国に宮所(宮殿)はない。宮所は、いまだヤマシロの国(山城国)にある。いまだ国を出ない。山を降りない。峠を、こ、越えない」
「なんで出ないの、降りないの、越えないの」
「あ、東国に居るヤハタの神が、なにも言わない。もしかしたら祟ると思う、考える。悪の権現だから、な。の、脳髄が弱すぎ。笑える」
 いまだ遷都宣言はない。東京奠都。だから宮所は京都府にある。近代、いや、現代に変わろうと、元号が変わろうと、時の権力者が代わろうと。

『し、神話は、オレたちの実話に続いてる。神代は現代に続いてる。時は続いてる。柵は続いてる。だから世界に変化が起きた。へ、変化の影響で夜ノ国に眠るツクヨミが、昼ノ国に現れた』

 さてさてと。
「なんと神宮に行く前に、高天原の日神に遭う前に、戦う前にシンのラスボスの正体が変わったわけか。なんと月神対日神でなく、月神対わけのわからないというのか。なんと星神のムーな話は伏線だったのか。なんと記憶も神威もない私に行けと、遭えと、戦えというのか。なんと無計画。……なんかデジャブ」
「わ、笑える」
「笑えない」



 ついで。
 武蔵国一宮の小野神社。本来の祭神は藤原氏族の氏神のハルヒコでなく、小野氏族の氏神。さらに藤原氏族の奉じる春日大社の元社は、和邇(和珥)氏族の支族の春日氏族の奉じた春日神社。春日氏族はヲハリ族なみに后妃供給一族。
 今は春日大社の摂社の榎本神社に変わる。ややこしい。さらに榎本神社は春日山(御蓋山)の山神を祀ってたけれど、今は店長(サダヒコ)に変わる。とてもややこしい。
 后妃供給一族の和邇氏族は藤原氏族に疎まれる。春日大社(の元社の春日神社)も、小野神社も奪われる。熱田神宮を奪われたヲハリ族なみにかわいそうな一族。
 和邇氏族は無名だけど、じつは支族は富士山本宮浅間大社に奉じる冨士氏族、春日大社(の元社の春日神社)に奉じた春日氏族、小野妹子や小野篁や小野小町の小野氏族、柿本人麿の柿本氏族は有名。藤原氏族の嫉妬か。春日大社の摂社1位は、一説に祟り神を祀るという若宮神社。春日若宮御祭で有名。
 さらについで。
 春日氏族の皇后に仕えた部民の春日部(春日戸)氏族。一説に、埼玉県春日部市は春日部氏族が移り住んだという。春日部氏族の奉じた神社に春日部(春日戸)神社がある。大阪府八尾市に建つ天照大神高座神社・岩戸神社。延喜式神名帳の河内国高安郡の天照大神高座神社と春日戸神社(春日戸社坐御子神社)だ。高安山の稜に建つ。天照大神が社名となる唯一の神社。
[戸]は蕃族(隣国の民族)に与えられる。武蔵国は戦乱時代の大陸や朝鮮半島の難民の移住先だ。部民と異なる戸民。編戸(戸籍)。のちに部民となる。
 尾張国の国魂神を祀る尾張戸神社。ヲハリ族の心を頂の木にかけ、戸を閉める。春日戸神社はだれの心を頂の木にかけ、戸を閉めたんだろうか。
 そして天照大神の子神を祀る春日戸社坐御子神社。いったい……。

 世界平和のため、統一のため蕃神(隣国の神)は言う。さらに蕃神の神言。
 隣の人を愛しなさい。
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