2024.7.1~2024.7.15
文字数 2,181文字
会うたびに刺青が増えていく知人がいる。腕から始まり背中、胸、足と延びて、いまや服の首元からも覗くほどだ。
「いい加減にしとけよ。身体を壊すぞ」
「うん……これが仲間が欲しいってな」
友人は左腕を擦る。最初の刺青、絵柄は死神。嫌な想像……そいつが欲しいのは仲間じゃなくて。
(2024.7.1)
丘の上のサーファー
つれない海を捨て
やわらかな夕日を抱く
砂浜に突き立ったボード
かもめたちが
安月給で番をする
いつか神さまが
かき氷を食べる日まで
あわれなサーファー
夕日に頬打たれてる
孤独をわたしのせいにして
孤独をわたしのせいにして
血潮のシロップ
モーテルに染む。
(2024.7.2)
「いいか、絶対に気づかれるなよ」
「大丈夫」
「あいつの後ろまで行ったら、この紐を引く。バンッ、それだけだ」
「分かった」
……バンッ!
「わっ」
「誕生日おめでとう!はい、プレゼント!」
「あ、ありがとう。ところできみは誰?」
会場を後にしながら、私は起爆スイッチを押す。
(2024.7.3)
AとBと云う二人の刀匠が居た。互いに、己の刀は何でも斬れると主張し、ならばと互いの刀を打ち合わせた。折れたのはAの刀で、Bは鼻高々だった。
その夜、Bは死んだ。Aに殺されたのだ。Aの名誉は守られたのか……否。Aは突如出奔した。この世に在る、Bが生んだ全ての刀を破壊するために。
(2024.7.4)
怨霊に出くわした。七日以内に三人の生け贄に差し出さねば死ぬと言う。私は訊ねた。
「今までその言葉に従った者がどれだけいるか。二度三度はあろうがそこで終いだろう。お前の呪いなどその程度だ。こんなことを続けて虚しくないか」
怨霊は小さくなって消えた。
七日後、私は死んだ。
(2024.7.5)
飛び降りで命を断つ事例は枚挙にいとまがないが、その中には飛び降りる瞬間が目撃され、地面に激突した痕跡はあるのに、死体が無いということもあるそうな。この場合、捜査は打ち切られるのが暗黙の了解となっている。というのも血液を鑑定したところで、結果はいつも故人を示すからだ。
(2024.7.6)
「これは一体……」
織姫と彦星は我が目を疑った。天の川が無くなっているのだ。岸に並んだカササギが、
「暑すぎて干上がっちゃったんです。でもこれで、いつでもお会いになれますよ」
「彦星さま!」
「織姫よ!」
地球は未曾有の天変地異に戦いているが、二人には関係のないことだ。
(2024.7.7)
「なあ、道路に広がってるアレ、水たまりじゃないよな」
「違うな、何だろう」
「逃げ水か」
「でも逃げないぞ」
「うーん、眩しくてよく見えない」
「おれが見るよ――」
「なんか気味が悪い。いったん停まる」
「このまままっすぐ」
「あ?」
「マッスグ、マッスグ……」
「お、おい!」
(2024.7.8)
勤め出してから飲酒したことがない。いつ何時、呼び出されるか分からないからだ。だから無理やり参加させられた同窓会の最中、怯えながら麦茶を飲んでいた。
と、携帯が鳴った。あっという間に同級生が電源を切った。
「もういい。逃げろ」
「――――」
注がれたビールをひと息にあおった。
(2024.7.9)
「おっ、うなぎか」
「たまにはね」
タレのしみた蒲焼きを米と一緒にかき込む。つらいときもあるけれど、働いて良かったと思う。
「なにニヤニヤしてるんだ」
「いやぁ、自分で稼いだ金で食う飯は旨いなと」
「よく言った!これで実家から出ていけるな」
「そ、それはもうちょっと……」
(2024.7.10)
扉を開けた途端、猛烈な風と雨が視界を奪った。段取りと違う。が、逆にいいかも。傘を放って、飛び出した。誰もいない摩天楼を走る、走る、走る――。
「カット!」
声がかかり、風雨が止んだ。駆け寄るスタッフが、
「すみません、強すぎました」
笑って返す。
「良い画が撮れたでしょ!」
(2024.7.11)
知人から、庭に妙な植物があるので駆除してほしいと報せを受けた。
「これは……」
「早くしてよ。専門家でしょ!」
「何を埋めた?」
「……」
「おい」
「……人」
「は?」
「人間よ!私が殺したの!」
嘘だ。地球にあるものを埋めただけで、こんなおぞましいモノが生えるわけがない。
(2024.7.12)
ひび割れた土の上に、干からびたすいかの種が転がっている。子供たちの手慰みに費やされた命は、空腹の鳥にすら見向きもされない。弔問に訪れたひまわりが、畏まった顔で頭を垂れている。せめてみずみずしく太る夢を見ながら逝け――粛々と送った空の先に、遅すぎる天の恵みが降り注いだ。
(2024.7.13)
創造神は新しい仲間を造ろうと思い立ったが、善も悪も数が揃っていた。結局面倒になり、在り合わせで“何もない”神をこしらえた。他の神には罵られ、産みの親にも疎まれる……そんな有り様を見た人間は、
「なんて酷い連中だ。もう信じるのは止そう」
この瞬間、彼の存在は意味を持った。
(2024.7.14)
料理が並び、直会の支度が整った。大好きな山笠。一緒に走ることはできないが、ごりょんさんとして支え続けようと決めている。
表が騒がしくなった。
「帰ってきんしゃった」
興奮冷めやらぬ男たちは、次々とおにぎりを頬張る。
「うまかねぇ!」
「私が握ったんやけん、当たり前たい!」
(2024.7.15)
「いい加減にしとけよ。身体を壊すぞ」
「うん……これが仲間が欲しいってな」
友人は左腕を擦る。最初の刺青、絵柄は死神。嫌な想像……そいつが欲しいのは仲間じゃなくて。
(2024.7.1)
丘の上のサーファー
つれない海を捨て
やわらかな夕日を抱く
砂浜に突き立ったボード
かもめたちが
安月給で番をする
いつか神さまが
かき氷を食べる日まで
あわれなサーファー
夕日に頬打たれてる
孤独をわたしのせいにして
孤独をわたしのせいにして
血潮のシロップ
モーテルに染む。
(2024.7.2)
「いいか、絶対に気づかれるなよ」
「大丈夫」
「あいつの後ろまで行ったら、この紐を引く。バンッ、それだけだ」
「分かった」
……バンッ!
「わっ」
「誕生日おめでとう!はい、プレゼント!」
「あ、ありがとう。ところできみは誰?」
会場を後にしながら、私は起爆スイッチを押す。
(2024.7.3)
AとBと云う二人の刀匠が居た。互いに、己の刀は何でも斬れると主張し、ならばと互いの刀を打ち合わせた。折れたのはAの刀で、Bは鼻高々だった。
その夜、Bは死んだ。Aに殺されたのだ。Aの名誉は守られたのか……否。Aは突如出奔した。この世に在る、Bが生んだ全ての刀を破壊するために。
(2024.7.4)
怨霊に出くわした。七日以内に三人の生け贄に差し出さねば死ぬと言う。私は訊ねた。
「今までその言葉に従った者がどれだけいるか。二度三度はあろうがそこで終いだろう。お前の呪いなどその程度だ。こんなことを続けて虚しくないか」
怨霊は小さくなって消えた。
七日後、私は死んだ。
(2024.7.5)
飛び降りで命を断つ事例は枚挙にいとまがないが、その中には飛び降りる瞬間が目撃され、地面に激突した痕跡はあるのに、死体が無いということもあるそうな。この場合、捜査は打ち切られるのが暗黙の了解となっている。というのも血液を鑑定したところで、結果はいつも故人を示すからだ。
(2024.7.6)
「これは一体……」
織姫と彦星は我が目を疑った。天の川が無くなっているのだ。岸に並んだカササギが、
「暑すぎて干上がっちゃったんです。でもこれで、いつでもお会いになれますよ」
「彦星さま!」
「織姫よ!」
地球は未曾有の天変地異に戦いているが、二人には関係のないことだ。
(2024.7.7)
「なあ、道路に広がってるアレ、水たまりじゃないよな」
「違うな、何だろう」
「逃げ水か」
「でも逃げないぞ」
「うーん、眩しくてよく見えない」
「おれが見るよ――」
「なんか気味が悪い。いったん停まる」
「このまままっすぐ」
「あ?」
「マッスグ、マッスグ……」
「お、おい!」
(2024.7.8)
勤め出してから飲酒したことがない。いつ何時、呼び出されるか分からないからだ。だから無理やり参加させられた同窓会の最中、怯えながら麦茶を飲んでいた。
と、携帯が鳴った。あっという間に同級生が電源を切った。
「もういい。逃げろ」
「――――」
注がれたビールをひと息にあおった。
(2024.7.9)
「おっ、うなぎか」
「たまにはね」
タレのしみた蒲焼きを米と一緒にかき込む。つらいときもあるけれど、働いて良かったと思う。
「なにニヤニヤしてるんだ」
「いやぁ、自分で稼いだ金で食う飯は旨いなと」
「よく言った!これで実家から出ていけるな」
「そ、それはもうちょっと……」
(2024.7.10)
扉を開けた途端、猛烈な風と雨が視界を奪った。段取りと違う。が、逆にいいかも。傘を放って、飛び出した。誰もいない摩天楼を走る、走る、走る――。
「カット!」
声がかかり、風雨が止んだ。駆け寄るスタッフが、
「すみません、強すぎました」
笑って返す。
「良い画が撮れたでしょ!」
(2024.7.11)
知人から、庭に妙な植物があるので駆除してほしいと報せを受けた。
「これは……」
「早くしてよ。専門家でしょ!」
「何を埋めた?」
「……」
「おい」
「……人」
「は?」
「人間よ!私が殺したの!」
嘘だ。地球にあるものを埋めただけで、こんなおぞましいモノが生えるわけがない。
(2024.7.12)
ひび割れた土の上に、干からびたすいかの種が転がっている。子供たちの手慰みに費やされた命は、空腹の鳥にすら見向きもされない。弔問に訪れたひまわりが、畏まった顔で頭を垂れている。せめてみずみずしく太る夢を見ながら逝け――粛々と送った空の先に、遅すぎる天の恵みが降り注いだ。
(2024.7.13)
創造神は新しい仲間を造ろうと思い立ったが、善も悪も数が揃っていた。結局面倒になり、在り合わせで“何もない”神をこしらえた。他の神には罵られ、産みの親にも疎まれる……そんな有り様を見た人間は、
「なんて酷い連中だ。もう信じるのは止そう」
この瞬間、彼の存在は意味を持った。
(2024.7.14)
料理が並び、直会の支度が整った。大好きな山笠。一緒に走ることはできないが、ごりょんさんとして支え続けようと決めている。
表が騒がしくなった。
「帰ってきんしゃった」
興奮冷めやらぬ男たちは、次々とおにぎりを頬張る。
「うまかねぇ!」
「私が握ったんやけん、当たり前たい!」
(2024.7.15)