2023.12.16~2023.12.31

文字数 2,349文字

 魔物を倒し世界を救った勇者。引退後に選んだ職業は……。
「竜のモツ煮込み、お待ちどう!」
 定食屋は連日の大繁盛。しかし王宮から師範の声もかかったのになぜ?
「護身術といっても、結局は命を奪う技だ。そういうのにはもう関わりたくないのさ……まあ、とりあえず食っていきなよ!」
 (2023.12.16)


「私の原点は炎だ」あるインタビューで、映画監督は答えている。
「幼い頃、住んでいた街が火事で焼けた。日常は赤く塗り潰され、大切な人を喪った。私は何もできなかった。そして復讐を誓った。私にだけできるやり方で」
 監督の作品で、炎は常に青い。そして何物をも燃やすことはない。
 (2023.12.17)


 とある養鶏場にて。
「知ってるか?この時期、人間たちは集まって祝い事をするらしい。その席でおれたちは特別な食い物になるんだそうだ」
「なんだそれ。気休めか」
「気休めさ。どうせ死ぬなら気分よく死にたいからな。お、順番だ。特別になりにいこうぜ」
「仕方ないな、つきあうよ」
 (2023.12.18)


 もうすぐクリスマス。プレゼントは用意完了、あとは当日まで見つからないように――。
「パパ」
 振り向いて、我が目を疑った。入念に隠したはずのプレゼントが息子の手の中に。
「…………」
「…………」
「パパは、サンタさんのお手伝いをしてるんだよね!?」
 涙が、有無を言わせない。
 (2023.12.19)


「あっ、猫。おいでおいで……もう、どうして逃げるのよ」
「お前、悲しいくらい動物に好かれないよな」
「うるさい。あーあ、何か寄ってきてくれないかなぁ」
 そのとき、緊急速報が。
『海から怪獣が出現しました!上陸予想地点は――』
「……こっちに向かってないか?」
「まさか……」
 (2023.12.20)


 大雪は田園地帯のど真ん中に列車を釘付けにした。車窓は凍りつき、世界の果てのレプリカがそこにあった。霜に覆われたガラスを指でなぞる。銃身のほうが余程あたたかい。声もなく笑って、外套の襟を立てた。ひと眠りしよう、仕事に差し支える。白い秒針が刻を数えて、ひとひらひとひら。
 (2023.12.21)


 個室にたくさんの人間が腰を下ろしている。皆、表情は虚ろだ。頭には電極が刺さっていて、得体の知れない機械に繋がっている。彼らは薬物中毒者。廃人同然だが、無意識に高度な計算を行っていることが判明した。斬新な福祉事業として社会に貢献しているが、彼らがそれを知ることはない。
 (2023.12.22)


 深夜のオフィスには、もう誰も残っていない。視聴率の推移を見ながら自然とため息が漏れる。お化け番組と呼ばれるようなコンテンツは今はない。幽霊の正体見たり――いると信じて夢を見た若者は、現実を知って次々と去っていく。私たちは、再びお化けを信じさせることができるのだろうか?
 (2023.12.23)


「ねえ、プレゼントは?」
「なに言ってるんだ、いたずらばかりしたお前にサンタクロースは来ない」
 そうか、じゃあ自分で頼もう。親の財布からクレジットカードを抜き取り、欲しい物をありったけカートにぶちこんだ。
『ご注文ありがとうございました』
 こちらこそ、メリークリスマス。
 (2023.12.24)


 メリークリスマス――幸せであれという呪い。脚を失くした兵士にも、親と死に別れた幼子にも、等しく押し付けれる平和。サンタクロースは富める者にだけ微笑み、こっそり札束を数えている。腐れ切った地上を省みる神はいない。諦め尽きた雪はだんまりを決め込んで、諸人の夜を染めている。
 (2023.12.25)


 風呂の湯はきれいに落とされていた。こんなやり方もあるのかと感心しながら、脱いだ服を着直す。冷たい身体のまま布団にもぐり込み、明日の第一声をつらつらと考える。喧嘩した日はいつも憂うつだ。晴雨あるのが夫婦生活、これも平常運転のバロメーターってか――ため息と一緒に屁も出た。
 (2023.12.26)


「万引きが犯罪なのは知ってるだろ?なんでこんなことしたんだ」
 警官の詰問に、万引き犯は語り始めた。その半生は貧困と不幸に満ちており、百戦錬磨のベテランも涙を禁じ得なかった。
「そういうわけなんです」
「あんた、強く生きてきたんだな」
「じゃあ――」
「ああ……詳しくは署で」
 (2023.12.27)


 病床の母は、私の友人の栄転をひとしきり妬んだ。燻っていた火がみるみる消えていくのが分かった。言いたいだけ言って、母は電池が切れたように眠りに落ちた。私は静かに病室を出た。いつもこうだ、私より先に私の言いたいことを言ってしまう。私の思いは、私のものでなくなってしまう。
 (2023.12.28)


 試合終了のホイッスル――その瞬間、私たちは日本一になった。爆発する歓喜の影で、唾を吐いている卑しい自分がいる。ベンチを温めて終わったのは努力不足以外の何物でもないのに。
 不意に肩を叩かれた。監督だった。
「ここからだぞ」
 頬を張られるよりきつい一撃。音が消える。私はいる。
 (2023.12.29)


 御来光を拝みに来たが、同じことを考える人たちで大渋滞、とても夜明けまでに山頂に着けそうもない。寒さとイライラで足踏みしているうちに、稜線が白み始めた。山頂からざわめきが起こる。が、様子が変だ。よく聞けば悲鳴だった。一体何が?悲鳴の波は、私のもとへと近づいてくる……。
 (2023.12.30)


 スマホが鳴った。見ると高校の同級生から。何十年ぶりの連絡に驚きのまま、
「おっす」
『よかった、繋がった!いま帰省した仲間で飲んでんだけど、一緒にどう?』
 不意に涙がこぼれた。仲間。今年の諸々が全て吹き飛んだ気がした。悟られないように大きな声で返事する。
「もちろん!」
 (2023.12.31)
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