2024.2.16~2024.2.29

文字数 2,042文字

 飼い犬と戯れ中。どちらの手にエサを持っているか当てさせる。
「どっちだ?」
 うー、わん。
「あれ?」
 部屋の隅に走っていった。座布団をしきりにつつく。何やってるんだと思いながら、いやまさかと思いながら、
 あった。
 なぜか、あった。
 真相を知る前に、エサは飼い犬の腹に消えた。
 (2024.2.16)


 ある一家の前に神さまが現れて、おのおの壊れたものを一つだけ直してやると言った。父親は高級車を、母親はブランドバッグを願った。最後は子供の番。
「ママを直して」
「ママ?」
「本当のママ。パパと、このママが壊しちゃったの」
 青ざめた両親を見て、神さまは頷いた。
「よかろう」
 (2024.2.17)


 車のエンジンがかからない。調子が悪いみたいだ。そこに近所のおじさんが走ってきた。
「うちの猫見かけてない?!」
「いいえ」
 おじさんを見送りキーを回しながら、ちょっとだけ不安になる。まあ遠くに埋めたから大丈夫だろう。庭をさんざん荒らしやがって。それよりも車、どうしよう。
 (2024.2.18)


「この役、下ろさせてほしい」
「何言ってるんだ?世界的に有名な監督の作品だぞ、名声をふいにするつもりか」
「おれ自身が演らないなら意味はない」
「演ってるじゃないか。たとえモーションキャプチャーだろうと、監督はお前の演技が欲しくて金を払うんだよ」
 分かるか、この惨めさ。
 (2024.2.19)


 雪道で滑って足を折った。何をするにも不自由ったらない。でもありがたいことに、周りがいろいろ助けてくれる。意外なのは、普段しゃべらない男子も気をつかってくれること。たぶん骨折しなかったら話すことはなかったと思う。私のそばには、いい人がたくさんいるんだ。知れてよかった。
 (2024.2.20)


 実家の庭からボロボロのトランプが出てきた。SNSに上げたら大バズり。するとある日電話があり、それは自分のものだという。待っていると二人の老人がやって来て、
「見ろ、間違いなく俺が40年前に消したトランプだ!」
「すごい!やっぱりお前は一流だ」
 抱き合って泣き出した。あのー。
 (2024.2.21)


 うちの猫は、すりすりが大好き。無邪気に甘える姿に家族はみんなメロメロ。だけどただ一人(?)、全然落ちないやつがいる。それがこの、
『障害物ヲ、感知シマシタ』
 お掃除ロボットくん。ああ、なんという無慈悲。たまにイラついて手が出るも効き目なし。彼女の猛アタックは今日も続く。
 (2024.2.22)


 友人の趣味は、曰く付きの物件を見学すること。
「勝手に物を持ち帰ったりしてないだろうな?」
「するもんか。でも勝手についてこられたら仕方ないけど」
「脅かすなよ」
「うん、分かってないならいい」
 友人はなぜか哀れむような目で私を見た。私は――何かを忘れているような気がした。
 (2024.2.23)


 ひとを慈しむことができる人間になりたい――なりたいが、老いた親にいらだつ自分には、厳しい道のりだと感じてしまう。罪ならまだしも、わがまますら許せぬようでは。思わずこぼれたため息を拾ったのは、しわだらけの両手。
「いつも、ありがとうね」
 あきらめるには、まだ早い気がする。
 (2024.2.24)


 魚市場にやってきた。子供は大はしゃぎ。
「でっかいカニ!」
「触っちゃダメだぞ。足が取れたら売り物にならないから」
「?」
「捨てちゃうってこと」
「そっか!」
 子供はカニの足をもいだ。
「?!」
「パパいつも、捨てるならちょうだいってもらってるでしょ。おうちで食べよう!」
 (2024.2.25)


 検死官がシーツをめくると、遺体の両胸には複数の刺し傷があった。助手が横から、
「犯人が心臓を見つけられなかったそうです」
「なに?」
「終いには首まで絞めて――」
「おい、憶測で物を言うな!」
「いえ、本人から聞いたので」
 大きく伸びをして、遺体が――いや被害者が目を開けた。
 (2024.2.26)


 街を歩いていると、足元に妙な感触が。見下ろすと犬が鼻をすり付けている。飼い主が頭を下げて、
「すみません。この子、人を見たら遊んでもらえると思って」
「触ってもいいか?」
「どうぞ」
 撫でながら犬の目を覗き込む。間違いない、私が裁いた人間だ。たまには現地視察も悪くない。
 (2024.2.27)


「フェイクですね」
 未確認飛行物体の映像を見て、専門家は断定した。次の瞬間、まばゆい光に包まれて、気づくと目の前に宇宙人がいた。
「ワレワレヲ偽物呼バワリスルナ」
「す、すみません!」
「シカシ……バレテモ困ル。軽ハズミナ発言ハ慎ムヨウニ」
 翌日、専門家は引退を発表した。
 (2024.2.28)


 三匹の豚はそれぞれ家を建てたが、どう見ても末っ子の煉瓦造りがいいに決まっている。実は煉瓦は一軒ぶんしかなかった。そこで兄たちは一計を講じた。
「うまくいったな。まんまと弟の家に転がりこめた」
「オオカミには感謝だ。せいぜい美味しくいただこうぜ」
 もうすぐ鍋が煮えそうだ。
 (2024.2.29)
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