68、ムゥタズィラ学派(3)
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ムゥタズィラ学派に属するグループは、バスラ、バグダードを中心に六派に分かれていたと言われる。ムゥタズィラ学派の著作は正統派から禁書として扱われ、イスラーム世界の主要な文化地域からムゥタズィラ学派の著作が失われた状態が長らく続いていた。
1929年から1930年にかけて、ヘルムート・リッターがイスタンブールで発見したアシュアリーの『イスラム諸学派の所説』が出版されると、資料が不足していた状況が好転する。1951年にサナアで発見されたアブドゥルジャッバールの『神学大全』の写本は初期・中期ムゥタズィラ学派の思想を伝える重要な資料となっている。
アシュアリーは同時代のムゥタズィラ学派に共通する思想として、以下の5つを挙げている。
1. タウヒード
2. アドル(神の正義)
3. 天国への約束と地獄への脅し
4. 信者と不信者の中間の立場
5. 勧善懲悪
この学派に属する人間はイスラーム世界における神、人間、世界の関係を人間の視点から理性による説明を試みた。理性による説明は行為の分析を介した人間の自由意志の確認が前提となっており、ムゥタズィラ学派は「行為の創造者」という自立した立場から神の合理的解釈を行った。
人間による行為の創造は性質が全く異なる意識的行為と無意識的行為に二分され、前者の行為について神は人間に行為を選択・実現する権利を授け、人間は様々な行為の可能性に対して正しい選択を行わなければならないとする「選択の権利」が説かれていた。人間の行為の責任は当人に帰すると考えるため、最後の審判の時に預言者ムハンマドが罪を犯した信徒の罰を極力軽いものにする「執り成し」の信仰を認めていなかった。