26、ディオスコリデス(4)
文字数 906文字
医学の父とされるヒポクラテスが知っていた薬剤が130種類ほどであったのに対し、ディオスコリデスは1.000近い自然の生薬を上げており、植物薬600、鉱物約90、動物約35であった。現在の消毒薬、抗炎症薬、鎮痙薬、興奮剤、避妊剤にあたり、症状に合わせた調合法、投薬量、使い方を指示している。
その大半は、当時のローマ社会を反映し、避妊・堕胎・妊娠・出産にかかわるものだった。紹介された薬剤のうち、100種類以上が現在でも使われているが、現代的意味で単味で薬剤効果が認められるものは少なく、香味剤、緩和剤、希釈剤として役立つものである。当時はテリアカなど多数の薬からなる複合薬もあったが、ディオスコリデスが扱うものは単独の、いわゆる単味剤であった。
その治療法は、ヒポクラテスの体液病理説に則ったものであった。ただし、四体液説・四性質説(四大元素説)を明確に打ち出したガレノスほど、そういった傾向が鮮明に表れていたわけではなく、薬物の性質を体液説ですべて説明しようとしていたわけではない。
ディオスコリデスの時代には、薬用植物の分類は形式化し、アルファベット順であったり、外見の類似で行われたりしていた。ディオスコリデスはこれを良しとせず、薬物を人体への影響を基準に分類した。ディオスコリデスは病気や薬に対して新しい考え方を示したわけではないが、『薬物誌』はきわめて実践的で実用性が高かった。症状がわかれば、本書で治療法を探すことができたのである。